恋姫†無双/外伝 ~天の子~   作:でるもんてくえすと

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おともだち

「…そうか、彼は来るか。」

「はい。手筈通りでよろしいのですね?」

「無論じゃ。」

 

ここは水鏡塾の一室。塾長である水鏡こと、司馬徽のいる塾長室。

曲がった腰に白髪と蓄えた真っ白い髭が年を感じさせるが、しわの奥の瞳は不思議と若々しさを感じさせる。対するメガネの女性は、くせ毛の真っ白な長髪が色気を醸している。女性の名は盧植。近くの洛陽で重臣として働く傍ら、師である水鏡の頼みもあってこうして教師として水鏡塾で教鞭をとっている。

二人は本日入学のためにここへやってくる一人の少年について相談をしていた。

 

「それにしても…あれからもう五年ですか。早いものですね。」

「そうじゃのう。光陰矢の如しというが、年を取ると矢どころじゃないわい。」

「お年なのですから、もうあまり無茶はなさらないでくださいね?私もさすがに庇いきれませんから。」

「ふぉっふぉっ、わかっとるわかっとる。」

 

この顔は絶対にわかっていないと感じ盧植はため息をつく。

水鏡は元は洛陽の中枢に籍を置いていた。漢の重責を担う傍ら、主上様たちの指南役として不動の地位を築き、長年国を支えてきた人間だ。そんな彼が、はるか遠方に差し込む天からの光を目の当たりにし、あろうことか『幸せを呼ぶ天の子』などという本を出版しそれが大ヒットしてしまったものだから国の宦官たちは大激怒。天子様があらせられるのに偽の天を描くとは何事かと大騒動が巻き起こった。結局、都を追われ…というより糾弾に対して“わし、隠居するからいいも~ん”と出てきてしまったのである。本来なら処刑ということもあったのだが、盧植ら弟子と霊帝様のとりなしによりそれは免れた。

が、話はそれだけでは終わらない。貯まりに貯まった私財を投じ、洛陽からそう距離のない、それどころか目と鼻の先にこの水鏡塾を建ててしまったのだ。彼に世話になった豪族も多く、急速に物や人が集まり、下手な街よりも栄え始めてしまったのだからもう手に負えない。名家の子息女らも数多く入学し、どうあっても手出しできないものへと発展してしまった。こうして、水鏡塾は国を大きくおちょくる形で出来上がったのだった。

 

ところ変わって一刀は、水鏡塾までもうあと二、三里といったところまで到着していた。

最後の峠を越え、開けたところで一度小休止を取ろうと考えた時、それは起こった。森から聞こえる獣の声を感じ取り、白亜から飛び降りて木陰から様子をうかがう。白亜も察したのかいつでも一刀が飛び乗って走り出せるようピタリとそばについた。

一刀は息をのみ、獣の気配を探る。すると木々の開けたあたりに何かがあった。いや、あったのではない、居た。一刀の倍はあろう熊と、それに負けない迫力を放つ大虎、その横には犬や猫たちをはじめ小動物も何かを囲うように鎮座している。そっと近付いて伺ってみると、中心にいたのは真っ赤な髪でボロボロの服を着た少女だった。とっさに助けなきゃと思った一刀は刀を握り締めて飛び出した。

 

「おい!やめろ!」

 

その声に驚いたのか、動物たちは警戒をあらわにする。敵と認識した熊と大虎は牙をむき出しにして一刀に対峙する。そのあまりの大きさにひるんでしまうが、一刀は目の前の少女を助けなきゃと震える足に活を入れてなんとか持ち直した。動いたら間違いなくやられるというヒリヒリとした感覚。相手は目の前の少年を値踏みしているのだろうか、睨みつけるだけで一向に仕掛けてはこない。にらみ合いはしばらく続き、一刀はこの数分をとても長い時間に感じていた。しかし、そのにらみ合いを制したのはどちらでもなく、なんと後ろで様子をうかがっていた白亜だった。

白亜は一刀の前に躍り出ると、何やらもの言いたげに熊の方へカッカと歩いていき一つ嘶いた。最初は心配したが、何かを喋っているのだろうかと一刀は感じた。やがて白亜がこちらを向くと、それまで少女を囲う様にしていた動物たちが一斉に道を開ける。

 

「えっと…?」

 

戻ってきた白亜が促すように一刀を鼻先で押した。剣を鞘に戻した一刀はそっと少女に近付くとそのまま揺り起こすように肩をゆする。「んっ…」と少女が少し声を漏らすが起きる気配がない。どうやら生きてはいるようだと安心するが、次の瞬間聞いたこともないほど大きな“おなかの音”が少女からなった。そう、彼女は空腹の限界で倒れていたのだ。とっさに一刀は荷袋から行きがてに持たされた葉包みと水筒を取り出した。もう残りもわずかだったが、自分が我慢すればいいと少女の口元にまずは水の入った竹筒を近付けゆっくり流し込んだ。

こくっこくっ、とのどを鳴らして飲んでいく少女にホッとする。周りを見てみれば、先ほどまで恐ろしいほどの眼光をしていた熊もなんだか安心したような本来のクリっとした目に変っていた。

ゆっくり目を開いた少女に、今度は葉包みをひらいて粽を差し出す。目の色を変えた少女は粽にかぶりついた。

 

「あははっ、く、くすぐったいって…!」

 

まるで動物のように指についたお米までぺろぺろと舐める少女。

 

「まだもう一つあるからそれもどうぞ。」

 

そう言って差し出した粽と一刀を交互に見た少女は、受け取らずになぜかもう一度一刀の手から粽にかぶりついた。それこそ一瞬でなくなったが、名残惜しそうに一刀の手をなめる少女。

 

「ごめんな…もうそれしか持ってないんだ。」

 

そういうと少し残念そうな顔をしたがそれは一瞬のことで、今度は申し訳なさそうな顔に変わる。すべて自分が食べてしまったからだろうか、少女はうかがう様に上目遣いで一刀を見た。

 

「れん、ぜんぶたべちゃった…わるい、こと?」

「ううん、そんなことないよ。」

 

そう言って笑顔をつくると、少女はホッとして微かに笑顔を浮かべた。

 

「レンは、レン。…あなたは?」

「それは真名かな?呼んでも平気なの?」

「うん。たべもの、くれた。あなた、いいひと。」

「…そっか。じゃあ僕は一刀だよ。あははっ、これで僕たち友達だね!」

 

少女は少し高揚したように「れん、にんげんのともだち、はじめて!」そう言った。すると“レン”と名乗った少女は一刀の首や頬をペロペロと舐めだした。

 

「あは、あははははっ!ちょ、ちょっとれん、くすぐったいって!」

 

もがいて逃げようとする一刀にレンは不思議そうな顔で首を傾げた。

 

「…レンのともだち、ともだちには、こうしてる。かずとは、しない?」

「ん~、僕はしたことないな…今度翠にやってみようかな?」

 

無邪気にもそんな恐ろしいことを言い出した一刀だったが、今度はレンの頭に手をのせて優しく撫でた。

 

「友達…とはちょっと違うけど、妹にならこういう風にしてたかな。」

 

されるがままになっているレンは次第に笑顔になっていき、「れん、これ、すき。」としばらくそうしているようにお願いされてしまった。

どれくらい時間が経っただろうか。不思議と時間を忘れさせるような優しい空間に名残惜しさもあったが、そろそろ出発するべく立ち上がる一刀。それを見たレンは寂しそうな顔をするが、「また来るから」の一言を聞くと笑顔で頷き、動物たちと森の中へ歩いて行った。

 

「…さて、おなか…もつかな?」

 

あきれたような、それでいて楽しそうな嘶き声で白亜がそれに答えて、一刀は改めて水鏡塾へと歩を進めたのであった。

 




今回もお付き合いくださりありがとうございます!すみません、入学まで長すぎたので一度切りました。次回はついに一刀が水鏡塾へ…!
それでは皆さんのご感想お待ちしております!
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