「ふむふむ…」
「?」
面接が始まってから、水鏡は一刀をまじまじと観察するだけで言葉をかけることはなかった。しわの奥の力強い瞳で射抜かれ多少の居心地の悪さがあるが、一刀は首をかしげるだけであとは動くことなくだた言葉を待った。
「(この小儒、まったく物怖じせんの…あの曹操ちゃんでさえ焦れたというに。)」
対峙しているのは老いたとはいえ百戦錬磨の司馬徽である。大人でさえ、いや、朝廷に仕える将や宦官たちとてこの射抜くような双眸に耐えられた者はそう居なかった。対する一刀は、それこそキョトンといった様子でただ水鏡の目を見ていた。
「(それに何よりあの目じゃ。こやつには“負の感情”がない。十も年を重ねれば少しは恨み辛みを持ってもおかしくはないんじゃが…。)」
そこで、水鏡は初めて口を開いた。
「お主、希望の学科は何じゃ?」
「はい!兵学科です!」
その言葉を聞くと水鏡はまた考え込んだ。兵学科…それは将や兵士となる人間を要請するために生まれた課程。体術の時間が多く割り振られ、将来戦へ赴いたとしてもまずは生存率を向上することが目的だった。人、それは国の力。そもそも初陣で戦の勝手がわからず潰走または落命してしまうことが多い。それはどれだけ調練を重ねようと同じ事。なれば若いうちから心技体を教え込み、様々な場面を想定した模擬戦をさせることでそういった者たちを減らしたいと作られた。
しかし、水鏡はこの少年を兵学科に入れることは危ういと感じた。心技体、その“心”をこの少年はすでに持っている。何か守りたいものがあるのか…それは家族か、または友か。ともあれこの少年はきっと守るためならば「それが自分の天命」だと簡単に命をなげうつだろう。その危うさは教えで変えられるものではない。それは自身の培った人間性なのだから。そこで水鏡は武術特待として唯一入学を許した三年生の夏侯惇を思い浮かべた。
「(アレもまた然り。しかしアレは心ではなく体の人間。そういう人間は土壇場でひっくり返すことも適うじゃろう。足りぬ心は後から教え込めばよい。)」
しかしこの少年は違う。だからこそ危ういと水鏡は見た。
「もう一つ質問じゃ。お主…将来どんな人間になりたいのかの?」
「はい!妹を守れる強いオトナになりたいです!」
いつかのように彼は答えた。「やはり。」と小さくこぼすと、水鏡は自身の考えを整理した。
この少年は兵学科に入れるべきではない。となれば軍学科か侍従学科か…しかしそこで水鏡は閃きを得た。目の前の少年はとても王たる器はないように感じる。だがあの劉備はどうだったか。彼女は能力こそ凡庸なれ人を集める才気は同じ学年の王学科曹操にも孫権にも劣らない。ならばこの少年は?と水鏡は己に尋ねた。
将兵としては無限の可能性はある。そしてこの肝の太さは軍師にも文官にも通ずる。侍従としてもきっと重宝される人間になるだろう。なれば…もし、漢が倒れ群雄割拠の時代が訪れたとき、新たな覇権を争って王たちが剣を取り乱世となったその時、彼のような“濁りのない水”が必要になってくるのではないか。
水鏡の考えは固まった。
一つ息をつき、
「グリフィンドォォォォォオオオル!!!」
と水鏡が叫ぶ。
「ぐ、ぐり…?なんですそれ?」
「おぉ、すまんのう。なんだか言わなければいけない気がしての。まあ気にするでない。」
「えっと…は、はあ。」
そして水鏡はニカっと笑うと告げた。
「…お主は王学科じゃ。」
こうして、少年の道は定められた。
水鏡は思う。この子を王にするのではない。王とはどういう人間か、ただ知ってもらうだけで良い。それだけで十分この子のためになる。
「(ふぉっふぉっふぉ、管路ちゃん其方の占いも外れたのう…。この子は乱世を鎮める天の御使いに非ず。言うなれば…“ただの
今回もお付き合いくださりありがとうございます!さて、次回は学園モノ…ぽいやつが始まります。私塾にはどんな人たちがいて、どういう付き合いをしていくのか…続きをお楽しみに!
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