面接を終えた一刀は、まだ寮の準備が出来ていないとのことで水鏡の手配で一日宿屋へ泊り、迎えた翌朝。用意されていた朝食を食べると早速学校へ向かった。
宿から私塾まではそう距離はないが、少し早めに出た一刀はこれまで暮らしていた武威の街との違いを楽しむように歩く。『何肉本舗水鏡店』と書かれた肉屋は美味しそうな燻製を店先に並べ、向かいの八百屋からは開店準備の威勢のいい声が響く。早朝でも賑わうこの商店街を抜けた先にあるのが、私塾の東側にある水鏡女子寮だった。
入口の立て札には『※男子の立ち入りを禁ず』と書いており、その下には『※水鏡の接近を禁ず』と赤い字で書いてあった。一刀は「なんでだろう?」と不思議に思いながら通り過ぎると、入口から二人の少女が出てくるところだった。一人は李色の髪をしたふんわりした印象で、もう一人は長い黒髪でいかにも真面目そうな少女。
「桃香さま、ちゃんと教科書は持ちましたか?」
「うん!ちゃんと持ったよ!」
「それでは体操服は?」
「…あ。あ~~~~!ちょ、ちょっと取ってくる!」
そんなやり取りをして、小走りに寮へ戻っていく後姿に黒髪の少女はため息をつく。
面白い子たちだなと一刀はくすりと笑ってその場を通り過ぎた。先にはきっと別の女子生徒だろうか、寮から私塾へ向かう同年代の女の子たちがいる。
「もうっ、冥琳ったら相変わらずお堅いんだから!」
「雪蓮!そういう事じゃないだろう。だいたいお前は何度言ったら…!」
「姉さま、冥琳の言う通りです!だから宿題は早めに片づけてと言ったじゃないですか!」
「う…り、梨晏はどうなのよっ!あんただって私と遊んでたじゃない!」
「私?私はちゃんと終わらせてるよ~ん!」
「裏切者~~~~!!」
何やら言い合いをしている褐色肌の女の子たち。
「麗羽様!ほらいい加減起きてくださいってば!」
「う~ん…あと三刻…」
「どんだけ二度寝したいんスか!」
「あ、あはは…結局着替えから髪整えるのまでいつも私たちがやってるもんね…。」
「だ、だからって…!い、一番力のない私が背負ってるのは…ど、どうして…?ぐ、ぐぐ…お、重い~…」
おぶられながら眠る少女ら四人組など、いろいろな子たちがいる。
やがて門にたどり着くと、そこで私塾の西側にある男子寮から次々と同年代の男の子たちもやってくる。一刀はワクワクに身を震わせながら、皆と同じ門をくぐり、職員室に向かった。
職員室で教科書や体操服など必要な備品を受け取ると、各教室の場所や私塾、寮の規則を教わり、教室まで案内をされる。そして声がかかるまでそこで待つよう伝えられたのだった。
「今日はみんなに新しいお友達を紹介します。さ、入って~!」
その言葉受け、校舎の西側から二番目の一室。『二年生』と書かれた札が下がっている扉を開ける一刀。中にはざっと三十人ほどだろうか、同年代の少年少女たちが机に座っていた。
「それじゃあ、まずは自己紹介からね。まずは私から…私の名前は皇甫嵩、字は義真よ。君がいる二年生の担任を務めています。主に兵学科の『統率学』と必修科目の『道徳』の授業を受け持っているわ。」
皇甫嵩と名乗った女性はそう言って一刀へ笑顔を向ける。くいっとメガネを直し、「さ、次はあなたの番よ?」と教卓の前へ促すと、一刀は生徒たちの前に向き直った。
「涼州の武威から来ました董白です!よろしくお願いします!」
一刀はそう言って元気よく一礼して見渡すと、ひときわ笑顔で「わ~っ」と手を振っている少女や、興味なさそうに片肘をついて外を眺めている子、背筋をピンと伸ばして礼儀正しく座している子など反応は十人十色だった。その中でも目立つのが女子生徒の色めき立つ声。一刀自身は全く気にもしていないが、翠らが時折ぽけ~っと見とれてしまうほどには容姿が整っていた。異性の目が気になり始めたこの年代の女子生徒にとっては当然の反応なのかもしれない。
「はいはい!女の子たち静かに!…予想はしてたけどやっぱりこうなったか。
董白くんはなんと、この学年四人目の王学科になります!皆さん、仲良くしてあげてくださいね!」
その言葉を聞くと、片肘をついていた少女と礼儀正しく座っていた少女がピクリと反応を示した。測るような視線が一刀を射抜くが、一刀は先ほど「わ~っ」と手を振っていた少女に笑顔で手を振り返しておりそれに気付くことはなかった。
「それじゃあ…一番後ろの窓際の席が空いているから、董白くんはそこに座ってね。お隣の李儒くん、わからない事があったら彼に教えてあげてね!」
「は~い!」
一刀が指定の席に着席すると、隣の李儒と呼ばれた少年が小声で「よろしくね!」と声をかける。「うん!」と返事をすると、皇甫嵩の点呼が始まった。
「よし、全員出席っと…。では一時間目は国語だから休み時間のうちに準備しちゃってね。」
「は~い!」という返事を聞くと、皇甫嵩は教室から出て行った。それを見計らって、一刀の前の席の少年がくるっと後ろを振り向いた。
「よっ、俺は牛輔ってんだ。まあお困りのことがあったら相談してくれや。」
スキンヘッドが特徴的で一刀より一回り身長の高いその少年は、気さくにそう話す。一刀もうれしくなって「うん!」と返事した。お互い握手をかわそうと手を差し伸べるが…その瞬間、牛輔は机ごと跳ね飛ばされた。教室中の女子生徒が押し寄せてきたのだ。
この機に解説するが、国の頂点である天子が女性であるように、基本的に女性優位の社会が出来上がっている。もちろん純粋な体力面では男性が上だが、重要なのは『体を巡る気を扱う』ことに関して女性の方が巧いという事にある。現に騎馬連合の棟梁である馬騰は女性であり、名のある将軍たちも女性が担っている。細腕で大剣や大斧を振り回せるのはその為だ。
そのせいか、この世界では女性の方がすこしばかり性的に旺盛で積極的だったりもする。例えば告白やプロポーズなんかも女性主体がメジャーであり、男性からの告白は言わば女の子の浪漫の一つ。それ故、男子寮にもしっかり『女子禁制』の看板が書かれている。
かと言って男子も女子に興味がないかといえばそうではない。胸やお尻など要するに性的な部分に興味はあるし、とある女子生徒には“親衛隊”なる隠れたファンクラブも作られているほどに、可愛い子、きれいな子にもちろん懸想したりする。ただこの世界の女性が好みに対して痛烈に一途であり、その勢いが強過ぎるのだ。それもこの女性優位な社会の一因となっていると言える。
ただし…何事にも例外は付き物。男性にも水鏡のような純粋にスケベ過ぎる例外もおり、その例外の一人が今跳ね飛ばされた牛輔だった。
「おいババアども!人様を跳ね飛ばすとはどういう了見だ!俺は基本的に温厚だがババアには容赦しねぇぞオラァ!」
むくりと立ち上がった牛輔は同年代の女子生徒に叫んだ。そう、彼は骨の髄まで幼女が好き。要するに病的ロリコンなのだ。
「はあ?幼女趣味の変態になんて用はないわよ。」
「そーよそーよ!私たちは董白くんに用事があるの!」
「幼女趣味のハゲは引っ込んでなさいよ!ていうか死ねば?」
「ヒドイ?!」
牛輔らがそんな言い合いを続けていると、隣に座っていた李儒が一刀にこそっと耳打ちする。
「はは、初日から大変そうだね。」
「うん、みんな仲良くしてくれそうでよかった!ちょっとだけ心配だったんだ~」
「仲良くってキミ…」
そこまで言うと李儒は「なるほど、そういう子なのか。」と一人納得した。李儒は生まれ持って“人”を感じ取るのが敏い。それ故に目の前にいるこの少年は、殊の外好意に鈍感な性格だと感じ取った。きっと小さいころから好意をぶつける子が近くにいて、感覚が麻痺しているのだろうと結論付けて。
この李儒という少年もまた、一見女の子と見間違うほど可憐な容姿をしている。よく見るとちょっとくせ毛な金髪も女の子にしては短く纏めてあり服装も男の子そのものだ。
「改めて、ボクは李儒。侍従科だよ。ちなみに、そこでボコボコにされてる牛輔は兵学科。趣味はアレだけど面倒見はいいやつだから仲良くしてあげてね。」
「うん!よろしくね!」
そういって二人は先ほど牛輔とはかなわなかった握手を交わす。すると今度は黄色い…いや、桃色…とは違う、紫色の悲鳴が教室を包む。
「キャー!董白くんと李儒くん…この組み合わせアリかも!」
「ごくり…妄想が捗るんだっ!」
そう、先も言ったが色々と旺盛なのだ。
そんな悲鳴もどこ吹く風で会話を続ける一刀を、好意とは似ても似つかない視線を遠くからぶつけている人がいることに、当然本人は気付かない。
「…董白、ね。…ふふっ私を失望させないでね。」
今回もお付き合いくださりありがとうございます!
ちょっとした言い訳なのですが…どうしても違和感のあったあの細腕で武器を振り回している描写に意味をもたせたくて、このような解釈を挟みましたがいかがだったでしょうか?本編プレイ中から気になって仕方なかった部分なんです…。もちろん物語としては不自然なく仕上げるつもりですので、「ん?」と思われた方も今後ともお付き合いくだされば幸いです。
次回は「おしえて☆水鏡先生」です。水鏡先生目線からいろいろなことを語ってもらいます。あとはオリキャラとして登場させた牛輔と李儒の詳細なども。董白、董卓周辺ならばこの二人はまず外せないかなと組み込みました。ちなみに牛輔はマジ恋の井上準を想像していただければわかりやすいかなと思います。
それでは皆さんのご意見、ご感想をお待ちしております!