時雨の自室は本人の性格が現れたような、質素で落ち着いた内装だった。
家具も最低限の物しか無く、用意された小さな木製の椅子に吹雪は腰降ろす。
艤装は既に外していた。
正確に言うと、108番を倒した時に艤装が一瞬光ったと思うと、煙のように消えてしまったのだ。
驚く吹雪を尻目に大体の事情を察した時雨は、108番を担ぎ上げると言った。
「少し話そうか」
そのまま校舎に戻り、108番を医務室に運んでベッドに寝かせる。気を失ってはいるが、重症ではないようだ。
時雨の自室に案内された吹雪は若干緊張しながらも、数分前の出来事を語った。
「成程。大体の事情は分かったよ」
落ち着いた口調で時雨は言った。
艦娘になると年を取らなくなるという。
吹雪と同じくらいの外見だが、実際には何歳も上で、歴戦の勇士なのだ。
「正当防衛だね。むしろ108番の蛮行を止められなかった、僕たちに責任がある」
「あ、あの……」
吹雪は小さく手を挙げた。
「……私の艤装は何処へ行ってしまったのでしょうか?」
椅子の上で縮こまりながらそう尋ねた。
時雨はふむ……と頷くと、右手を目の前に突き出した。
するといつの間にかそこには主砲が付いていた。
何の前触れもなく、突然にだ。
「驚いたかい? 一度、艤装を装着してしまえば、こうやって自由に着脱が可能なんだ。勿論、壊れたら直さないといけないし、どこに消えてしまうのか分からないんだけどね」
悪戯っぽく時雨は笑った。
「君も出したいと思えば、こんな風に出せるよ。そしてそれが、艦娘になった証拠さ」
時雨の言う通り、吹雪は念じてみた。
すると自然に、あっさりと腕に艤装が装着された。
「いい主砲だね。さすが吹雪型だ」
「ありがとうございます……で、でもこの艤装、突然飛んできたんです。鎮守府にあったはずなのに……」
時雨は再び、ふむ……と考え込んだ。
まだ艦娘が触れていない艤装が、装着者の前に現れるなど、聞いたことが無かった。
もしかすると今頃、鎮守府の工廠は大騒ぎかもしれない。
「まあ、未だに艦娘である僕たち自身にも分からないことが沢山ある。艦娘や艤装というものはそんなものさ」
「でも……」
「明日、君のモノになる艤装が一日早くやって来た。それでいいと思う」
時雨は立ち上がって吹雪の頭を撫でた。
「今日はもう遅い。今夜の件は僕が処理しておくよ。部屋に戻ったほうがいい。明日は早いんだろう?」
「は、はいっ……失礼します」
礼儀正しく敬礼すると、吹雪は部屋を後にした。
しばし夜の静寂が、部屋を包む。
時雨は背もたれに体重を預け、微笑した。
「とんでもない逸材を見つけてきたもんだ。扶桑はさ」
自然に目線が箪笥の上に。そこに飾っている写真に動いた。
小さな写真立ての中には、かつて時雨が所属していた西村艦隊の集合写真が飾られている。
扶桑や山城、ここにいない最上や満潮といった面々が笑顔で映っている。
この時は最後の大規模作戦の時だったか。
今や解散して散り散りになっているが、今でも大切な仲間たちだ。
だがもう、自分たちは一昔前の艦娘なのかもしれない。新しい世代に道を譲るべきなのかもしれない。
あの吹雪を見て、後輩たちが確実に力を付けていることが分かった。
いずれは完全な世代交代が行われるかもしれない。
だがそれもいいものだ。
次代とは流れていくものだ。
同じ思いを抱いたから、扶桑も弟子を取ったのかもしれない。
時雨はそんな事を考えながら、ぼんやりと写真を見つめ続けるのだった。