燃えるように真っ赤な瞳だった。
戦艦長門といえば、日本海軍の誇る最強の戦艦である。その長門の魂を受け継いだ艦娘となれば、どれほど苛烈なのだろと吹雪は思っていた。
だが現実は予想以上だった。
ただ目の前にいるだけで呑まれてしまいそうな感覚。
同じ戦艦でも扶桑や山城とは違って、近寄りがたい雰囲気を醸していた。
「特型駆逐艦・吹雪だな?」
長門は静かに言った。剃刀のように鋭い声と眼光だ。
執務室。その奥に置かれた提督専用の机で、彼女は手を組んで座っていた。
穏やかさなど微塵も感じられない佇まいだった。
ちなみに如月は吹雪の斜め後ろで見守るようにして、立っている。睦月は部屋の外で待機だ。
「は、はいっ! 初めまして、長門秘書官! 特型駆逐艦・吹雪です! よろしくお願いします!」
真紅の瞳が吹雪の顔を捉えた。
それだけで、吹雪は息が詰まるような感覚に陥った。
「ああ、よろしく頼む。君は本日より神通が旗艦を務める第三水雷戦隊に配属されることになる。これからは共に戦う仲間だ」
そこまで言うと、長門は初めて顔を軟化させた。
口角を少し上げるだけの微笑だったが、それだけでも大分、表情が和らいだように見える。
「今朝、扶桑から連絡があったぞ。艤装を自ら呼び出したらしいな」
「えっ……あっ……はい、あの」
「前例のないことだが、起こってしまったものはしょうがない。後で工廠の明石と夕張に一言、言っておけ。あいつらは興味津々だろうがな」
竹を割ったような人だ。
吹雪は何だか安心した。
このようなしっかりした人が秘書官なら、兄のことを聞いても大丈夫だろう。
「あの……長門秘書官」
「なんだ?」
「し、司令官にはお会いできないのでしょうか……」
その言葉を聞いた瞬間、長門が眉をしかめた。
「提督のこと、伝えていなかったのか?」
刺すような視線が如月に向けられる。如月は苦笑した。
「現在、提督は分け合って表に出ない。例え……」
「あの……兄なんです」
「何?」
長門の言葉を遮って、吹雪は言った。
「兄なんです。司令官は私の」
後ろで如月が息を呑むのが聞こえた。
長門の眉が思いっきり吊り上がる。
「何……だと?」
初めて、長門の顔に困惑の色が浮かんだ。
「吹雪ちゃん! それ……本当?」
如月が吹雪の肩を掴んで、尋ねた。穏やかな顔が珍しく緊張で強張っている。
「は、はい……ですから、兄に……兄に会いたいんです!」
長門は一端、深呼吸すると口を開く。
「提督に妹がいるなど聞いたこともないが……」
「私が聞いたことあるわ」
如月が言った。
「昔、私たちに漏らしたことがあるの。妹が一人いるって」
腹立たしいといった感じで長門が目を逸らす。
「妹がいるとは言っても、お前が本当に提督の妹という保証はない。提督に真偽を確認し、また伝える」
もう出ろ、と手で長門は示した。
吹雪は食い下がろうとしたが、如月が止めた。
これ以上、取り付く島はないだろう。
「失礼します」
敬礼して執務室を出る。
外では睦月が待っていた。
「吹雪ちゃん」
扉を閉めると、如月が吹雪に真面目な顔で迫った。
「少し時間いいかしら?」