かつて鎮守府とは最前線だった。
常に深海棲艦との戦闘に晒され、本土防衛の最終ラインとして機能していた。
それが変わったのは深海棲艦があらかた片付いた大規模作戦後であった。
激戦を戦い抜いた艦娘たちは各地に作られた泊地基地に送られることになった。
全ての海域に艦娘を一定数置き、海路を守り、現れた深海棲艦を残らず駆逐する。
鉄壁の布陣である。
そのために多くの艦娘は鎮守府を去った。
そのかわりに鎮守府に入ってきたのが新兵たちであった。
現在、艦娘の穴を卒業し、艦娘になった少女たちはこの鎮守府で実践も交えた訓練を行う。
そこで認められた者から鎮守府を出て、各駐屯地に送られるのである。
艦娘の穴が艦娘になるための養成機関であるといのなら、鎮守府は艦娘の修練所と言ったところか。
そのため現在の鎮守府にいる艦娘のほとんどが新兵である。
残っている古参は提督の補佐をするために残った長門や如月、大淀。
工廠の管理を任されている明石や夕張。
そして新兵たちの教育係である少数の重巡・軽巡の艦娘だけだ。
例外的に正規空母からなる航空戦隊もいるが、彼女らはあくまでこの鎮守府の防衛のために残っており、各駐屯地に派遣されることも多い。
常に鎮守府にいる古参の艦娘は極めて少なかった。
大規模作戦後に鎮守府に配属された艦娘たちは、今までの提督の事を知らない。
彼女たちからしてみれば、自分の仕事を放棄し、自室に閉じこもっているようにしか見えないだろう。
確かに提督は突然、姿を隠した。
元・秘書官であり、最古参の如月にも何も言わずにだ。
如月は何度も提督に会いに行った。
鎮守府の一番奥にある大本営。
会議室や通信室などが構えられている大きな建物。その最上階に提督の私室はあった。
執務室の奥に作られたその部屋は、鎮守府の最深部ともいえ、艦娘たちが二人ずつ交代で警備している。
昔はそんなことはなかった。
艦娘たちは自由に提督の私室に出入りし、語り合ったものだ。
警護が着くようになったのは引きこもってからすぐであった。
選ばれたのは新兵の中でも、長門を強く慕っている者たちが選ばれた。
長門の私兵。
如月は心の奥底で密かにそう呼んでいる。
秘書官である長門だけが提督との会話を許されている。
如月には勿論、他の艦娘とは顔を会わせるのは勿論、会話しようともしない。
新兵たちから不満が出ないわけなかった。
自分や他の古参たちでさえ、快く想っていない者が多数であるのに。
現在、新兵たちの提督への評価は最悪と言っていい。
この一年、提督は閉ざされた執務室から長門に命令を下すだけの存在だった。
そのせいか、最近は海軍本部の干渉も多くなっている。
大規模作戦後、鎮守府や艦娘たちは本土の者たちにとって脅威に映っているらしい。
深海棲艦と互角に戦える存在である艦娘は、彼らにとっては同じ穴のムジナに見えるのかもしれない。
度重なる軍部の干渉に常に受け身に回っているのも、非難の対象であった。
今や新兵たちは勿論、古参組の中にも、提督を公然と非難する者まで現れだした。
それを如月が必死に押さえているというのが、今の鎮守府の嘘偽りのない現状であった。