艦隊これくしょん 鎮守府内乱編   作:あとん

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吹雪と第三水雷戦隊

 いつの間にか昼になっていたようだ。

 だが早朝の快晴が嘘のように、どんよりとした空模様である。

 まるで吹雪の心中を現わしたようだ。

 如月の部屋を出た吹雪はおぼつかない足取りで、窓からぼんやりと空を眺めた。。

 自慢の兄だった。

 一回り年齢が離れていることもあり、よく自分の面倒を見てくれた。

 父が行方不明となり、母が倒れてからは、兄が両親代わりだった。

 優しく、時に厳しく、吹雪を包み込んでくれたのが兄だったのだ。

 だからこそ、提督になると言われたとき、寂しさは感じつつも不安に思うことなかった。

 この兄なら上手くやっていけるだろうと想ったし、信じていた。

 現に、最初は上手くやっていたのだ。

 如月の慕いようを見れば、容易に想像がつく。

 問題はこの一年間だ。

 如月の話が本当なら、兄は艦娘たちから石を投げられてもおかしくはない。

 それほど、酷い事をしているのだ。

 だが、吹雪はそれが信じられなかった。

 間違いだと思った。

 何か考えあってのことだとも思った。

 だがそれが分からぬから如月は苦悩し、鎮守府は重苦しい空気に包まれているのだろう。

 

「ここで貴方が司令官の妹ということは口にしては駄目よ」

 

 如月はそう言った。

 それほどまでに兄は嫌われているのか。

 妹が兄に会いに来た。それすら許されない状況なのか。

 これまで兄に会うために修練を重ねてきた。

 兄も鎮守府で頑張っている。そう信じていた。

 しかしここに来て根本がひっくり返った。

 吹雪は足下から全身が崩れて消えていくような錯覚に、陥ったのだ。

 

 今は兄には会えないだろう。

 如月はそうも言った。

 だがいずれ、司令官にきっと会わせてあげる。

 手を握って、そう言ってくれた。

 如月は信用できる人かもしれない。

 吹雪は何だかそう感じていた。 

 

「吹雪ちゃん!」

 

 突然、声が掛けられた。

 顔を上げると睦月がいた。

 場所もいつの間にか、駆逐寮の階を結ぶ階段の所まで来ていた。

 

「遅かったね。心配したよ~」

 

 無邪気に笑う睦月に吹雪は一瞬、彼女を殴り飛ばしたい激情に駆られた。

 そしてそれが単なる八つ当たりに過ぎないことを悟り、自分を粉々に壊してしまいたい衝動を覚えた。

 

「ささ、吹雪ちゃんの部屋に案内するよ。今日から同じ部屋に住むんだからね」

 

 睦月に引っ張られ、三階の奥に入った。

 木製の廊下をずんずん進んでいく。

 その両側に部屋の扉があり、かすかに生活の臭いが感じられた。

 やがて一番奥にたどり着くと、睦月は『第三水雷戦隊所属 睦月 夕立 吹雪』とかかれた木札のかかった扉を開いた。

 

「ここがその部屋だよ! ささっ、どうぞどうぞ!」

  

 底抜けに明るい睦月に、吹雪は何だか気持ちが楽になるように感じた。

 言われるままに部屋に入る。

 中は先ほどの如月の自室と同じくらいの広さであるが、机や寝具は3つしか置かれていなかった。

 その一番奥のベッドの下に、一人。いた。

 

「夕立ちゃん!」

 

「ぽい?」

 

 少女だった。

 亜麻色の髪を背中まで伸ばし、黒いリボンで前髪を結んでいる。

 幼さを残しつつも、どこか上品な整った顔立ちをしている。

 翡翠色の大きな瞳が、じっと吹雪を見つめていた。

 

「吹雪ちゃん、紹介するね。同じ第三水雷戦隊所属で、ルームメイトの夕立ちゃん。夕立ちゃん! この子が昨日、神通さんが言ってた、吹雪ちゃんだよ!」

 

「は、初めまして! 吹雪です! 今日より第三水雷戦隊に配属されました!」

 

 反射的に吹雪がそう敬礼すると、夕立はにっこり笑って立ち上がった。

 読書中だったのか、右手には雑誌が握られている。

 

「こんにちわ、白露型駆逐艦『夕立』よ。よろしくね!」

 

 白い手が前に突き出された。

 吹雪がそれを握ると、夕立は嬉しそうにブンブンと腕を振った。

 睦月と同じくらい元気で、明るい。そんな印象を吹雪は夕立に抱いた。

 

「へえ、これが噂の扶桑先輩の秘蔵っ子か」

 

 そんな声が突然、後ろから聞こえたのと同時に、頭に掌が置かれた。

 振り向くと、吹雪の目の前に見知らぬ女性の顔が現れた。

 自分より、一回りも二回りも大きい。

 茶色の髪と瞳を持つ、女性だった。

 柿色のセーラー服を身を包み、黒いミニスカートを履いている。

 

「川内先輩」

 

 睦月が言った。

 そう呼ばれた女性は白い歯を見せて笑うと、吹雪の肩に腕を回した。

 

「ね、君。夜って好き?」

 

「は?」

 

 突然の質問に、吹雪は固まってしまった。

 そんな吹雪の様子も意に返さず、川内と呼ばれた女性は続ける。

 

「夜はいいよね~、夜はさ。駆逐艦ならさ、夜戦好きでしょ? やーせーんー」

 

 あまりに強い押しに、吹雪の理解が追いつかなかった。

 

「姉さん、困ってますよ。落ち着いてください」

 

 川内の背後からもう一人、女性が現れた。

 服装や髪の色は川内とそっくりだが、雰囲気がまるで正反対だ。

 髪は腰のあたりまで伸ばしているし、雰囲気も落ち着いていており、後頭部には緑のリボンがついている。

 

「神通先輩も!」

 

 睦月のその言葉で、吹雪も彼女たちがこれから自分が配属される第三水雷戦隊の先輩たちであるという事を、ようやく理解した。

 

「ごめんなさいね。えっと・・・・・・吹雪ちゃん。久しぶりの補充員。しかも叢雲ちゃんと同じ吹雪型っていうこともあって。姉さんがどうしても見にきたいって」

 

 困ったようにいう神通だったが、当の川内は悪びれる様子もなく、吹雪に絡んでくる。

 

「だってさー。期待しちゃうじゃん。駆逐艦って言えば夜戦要員でしょ? だったら夜戦の戦いも唸るわけだし」

 

「相変わらずの夜戦バカっぽい・・・・・・」

 

 呆れたように夕立が言った。

 神通は自分の所属する艦隊の旗艦ということだけは知っていた。

 それに川内。睦月と夕立。これで五人だ。

 

「あれ、那珂ちゃんは?」

 

 睦月が首を傾げた瞬間、外から大きな声が響いてきた。

 

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