「那珂ちゃん、ライブやりまーす! 皆、来てねー!」
大きく、そして透き通るような声だった。
場所は駆逐寮の近くの広場。そこは他の寮と繋がる場所であり、最も艦娘たちの行き来が激しい。
そこに少女はいた。
少女は可愛らしい笑顔と仕草で手に持ったビラを、道行く駆逐艦たちに手渡している。
茶色の髪を団子にし、川内や神通と同じ柿色のセーラ-服を身につけている。
「なーかちゃーん!」
睦月が窓から身を乗り出さんばかりに叫んで、手を振った。
それに気づいた那珂も笑顔で手を振り返す。
「あれが第三水雷戦隊最後の一人。川内型三番艦の那珂ちゃんだよっ」
吹雪の方に振り向くと、睦月は笑顔で言った。
「あっちはあっちで、相変わらずのアイドルっぽい」
「アイドル?」
吹雪が思わずそう聞くと、神通が苦笑しながら答えてくれた。
「艦隊のアイドル。本人はそう言ってきかないの」
「センターだけは譲れないよ! だって那珂ちゃんは皆のアイドルなんだもん!」
クルリとターンしてポーズを決めると、那珂は再びビラ配りに戻っていく。
「あんな感じでも、第三水雷戦隊のエースだからね」
いつの間にか再び、川内が吹雪の頭に手を乗せていた。
会ったばかりの彼女であるが、不思議と嫌な感じはしなかった。
今日よりこの少女たちと共に、戦う。
些か実感は湧かないものの、吹雪は胸に何か熱いものが生まれるような気がした。
これまでは扶桑と二人きりで、仲間や友人といった艦娘は存在しなかった。
だからこそ、艦隊や戦友といったモノに情景を抱いていた。
ようやくその一歩を踏み出したのだ。
そう思えば、幾らか心持ちも楽になった。
「まあ、今日は日曜で休み。演習や遠征はないからさ。ゆっくり鎮守府内を見物してきなよ」
髪をわしゃわしゃ撫でると川内は神通と一緒に部屋を出て行った。
「面白い人でしょ?」
睦月が笑顔で言った。
確かに面白く、そして親しみの持てる人柄だ。
少しだけ心が軽くなったような気もする。
「まあ川内先輩もああ言ったことだし、ここはこの睦月が! 吹雪ちゃんをエスコートするよっ」
無い胸を大きく張ると、睦月は吹雪の手を取った。
「夕立も暇だから付き合うっぽい」
夕立も雑誌を床に放り投げて立ち上がった。
この二人とこれから寝食を共にする。そう考えると、悪い思いはしなかった。
鎮守府内は想像以上に綺麗に整備されていた。
寮の前にある坂を下っていくと運動場が見え、、そこからさらに下ると大きな広場にでる。
そこには入渠施設と食堂が一緒になった大きな建物があり、酒保も併設されていて、欲しい物の大体はここで揃うらしい。
広場からは道がいくつも伸びており、ここからさらに下れば工廠施設が。横道に向かえば、少し離れた所に自給のための畑や菜園があるという。
この広場の端に建てられた甘味処『間宮』に吹雪は連れてこられた。
補給艦・間宮と伊良湖が切り盛りするこの小さな甘味処は艦娘たちの憩いの場所として人気がある。
日曜の昼間とあってか、多くの艦娘たちがそこで余暇を楽しんでいた。
「すごいね」
すれ違う艦娘たちに挨拶しながら、吹雪は席に座ると、そう漏らした。
「この鎮守府のこと?」
睦月が尋ねた。
「うん。こんなに大勢の艦娘がいて、皆で生活してるなんて」
艦娘の穴で過ごしたのはほんの少しで、二年間の殆どは扶桑と二人っきりだった。
吹雪にとって、これ程多くの艦娘たちがいるという環境は新鮮な体験であった。
「はい、間宮スペシャル。一つね」
吹雪の前に大きな餡蜜が置かれた。
驚いて顔を上げると間宮が優しく微笑んだ。
「この二人からよ」
間宮は吹雪の向かいに座っている睦月と夕立に手を向けた。
吹雪が二人の方を向くと、睦月と夕立はニカっと笑った。
「第三水雷戦隊、入隊のお祝いだよ!」
「歓迎のプレゼントっぽい」
「あ、ありがとう・・・・・・」
震える手でスプーンを持って、甘味を口に運ぶ。
何だか懐かしい味がした。
「美味しいでしょ。出撃した日には皆でこれを食べるんだよ」
「恒例行事っぽい?」
「その時は、川内さんや神通さんも一緒なの?」
「まあ、大体はそうかな。川内先輩がよくお金を出してくれるよ」
「面倒見いいっぽい」
「神通さんと那珂さんはどんな感じの人なの?」
「うーん、神通先輩は真面目で優しいけど、訓練は意外と厳しいっていうか・・・・・・」
「鬼教官っぽい」
「へえ・・・・・・全然そうは見えないけど・・・・・・」
「那珂ちゃんはずっとあんな感じで、アイドルアイドルしてるかな~」
「出撃中もぶれないっぽい」
「そうなんだ、あはは・・・・・・」
いずれにせよ濃いメンバーたちだ。
しかし不思議と嫌な気持ちはなかった。
同じ釜の飯を食う仲間というのは、思っていた以上にいいモノなのかもしれない。
不意に風を切る音が聞こえた。
吹雪が空を見ると、戦闘機が数機、飛んでいった。
駆逐艦である吹雪にはその戦闘機が何の種類なのかも分からなかった。
「一航戦の先輩たちの演習だ」
睦月がそう漏らした。
一航戦のことは知っていた。
数十の深海棲艦に立ち向かい完全勝利した伝説の艦娘。
空母の中でもその実力は折り紙付きだという。
「気になる?」
吹雪の顔を見て、睦月が聞いてきた。
自分の心根を見透かされたようで吹雪は驚いたが、黙って頷いた。
「じゃあ行ってみようか」
ごく自然に睦月はそう言った。
色々出したい艦娘を多くて難しいです・・・