寒さが身に染みるような時期になってきた。
曙はいつもより眉間に皺を寄せながら、泊地の中を歩いていた。
数日前、曙が旗艦を務める艦隊が、任務に失敗した。
物資を遠方の第14泊地に運ぶという、輸送任務である。
輸送任務自体は、曙がよく行っていたもので、慣れた任務であった。
問題は内容だ。
第14泊地に新しい艦憲兵が指揮官として着任してきた。その女は海軍本部に在籍する士官の血縁者という噂が流れていた。
その噂はキツネが第14泊地に着任祝いとして物資を送るという命令を曙たちに出してきたことで、ほぼ確実となった。
賄賂である。
堂々とそんなものを自分たちに運ばせようと言うのだ。
馬鹿にしている。
当然、曙は拒否した。
だが曙がこの任務は拒む場合、後輩達がそれを任されることになる。
それを漣から聞かされ、曙は渋々その任務を受けることにした。
嫌がらせには違いない。そう思いながらも、曙は後輩達を守るために受けるしかなかったのだ。
当然、士気など上がらない。だが、そんなときに限って深海棲艦は現れるのだ。
曙とてわざと失敗するようなことはしない。だが頭の隅に、自分が納得できないことをしているという気持ちも確かにあった。
そして、事は起こった。
負傷者は出なかったが、補給物資の一部が破壊されてしまったのだ。
その責を負い、曙は戦線を外され、事実上の謹慎処分を受けていたのだった。
宿舎から少し離れた所に、小さな庵がある。
この泊地に赴任してから少し経った後に、漣が道楽で建てたのだ。
六畳ほどの広さで、部屋の中央には囲炉裏が設けられており、質素で落ち着く雰囲気の内装が特徴的な場所だった。
一日の職務が終わった後、そこで第七駆逐隊のメンバーと飲むのが、最近の曙が楽しみにしていることだった。
いつののような一日が終わり、艦憲兵の愚痴を肴に四人で飲んでいた。
不意に嫌な気配を感じた。
それは纏わり付くような気配であり、悪意ある視線のようでもあった。
考えないようにして、酒を呷った。だがここ数日、何度も感じたモノだった。
気のせいだと思うようにして、酒を流し込む。
現状に満足できない苛立ちが、そういった錯覚を生んだのだと、思い込むようにした。
突然、空気がざわついた。
勢いよく扉が開かれ、息を切らせて朝潮が入ってきた。後輩で、何かと面倒を見ていた艦娘だった。
朝潮は部屋を見渡し、曙を見つけると、叫ぶように言った。
「曙さん! 部屋に艦憲兵が・・・・・・」
それを聞いた瞬間、頭にカッと血が上った。
空になりかけていた缶ビールをくしゃりと潰し、曙は立ち上がる。
勢いよく庵から飛び出すと、全力疾走で宿舎に向かった。
自室の前までたどり着いたとき、艦憲兵の黒い制服がいくつも目に入った。