第17泊地は小さな離島に設けられており、その端に艦憲兵は簡素な駐屯所を置いている。。
曙は両側を艦憲兵に挟まれながら、そこに連行された。六畳ほどの小さな部屋に入ると、尋問が始まった。
相手はキツネの部下で、二人。質問する側と、それを文章に起こす者。また、その二人とは別に連行してきた二人の兵も部屋の中にいた。
皆、小銃を脇に抱えている。連行役の二人に至ってはいつでも狙撃できるかのように、小銃を構えていた。
偉ぶっているのは恐怖心の裏返しか。
艦娘である曙が本気を出せば、艤装を展開せずとも全員、打ち倒せる。
それを知っているからこその武装なのだろう。
だからといって力に訴えれば、それこそ奴らの思うつぼだ。
我慢しなければ。
これも艦憲兵との戦いだ。
曙はそう思って、腕を組んだ。
艦憲兵からの質問は単調なものだった。
反乱を狙っているのか。仲間はいるのか。それを延々と問われる。
曙は「知らない」の一点張りで通した。
知らないものは知らないし、仮に知ってたとしてもこんな奴らに話すことなど何もない。
その日はそのまま平行線で終わり、曙はそのまま駐屯地で夜を過ごした。
食事は出ず、小さな独房のような所で一人。曙は胡座をかいたまま眠った。
次の日も、やることは同じだった。
艦憲兵に囲まれた曙は延々と質問攻めを受けた。
その間、曙は瞼をじっと閉じていた。
キツネの人を馬鹿にしたような顔を見ると、怒りを抑えられなくなる。だからこそ、絶対目を開けてはならない。
曙は腕を組んで、眉一つ動かそうとしなかった。
食事はおろか、水さえ与えられなかった。
尋問は一日中続き、深夜になってようやく曙は独房に戻された。
翌日も同じだった。
艤装を展開し、この場にいる艦憲兵を殴り倒し、ここを出る。
そんな考えが何度も浮かび、その度に頭を振って揉み消した。
「曙殿、潮殿が今日こちらに来ましたよ」
キツネがそんなことを言ったのは、その日の夕刻あたりだった。
「懇願していましぞ。曙ちゃんを許して欲しい、と。健気なことですな第七駆逐隊はなんとも仲がよろしいことで」
頭に血が上りそうになるのを、曙は必死で堪えた。
「皆さんのためにも早く罪を認めてはどうですかな? そうすれば、曙殿だけの問題で済み、第七駆逐隊の皆さんには被害は及びませんよ?」
仲間を人質にとろうとしている。曙にはそう思えた。
これは挑発だ。嘘かも知れない。自分を怒らせようとしているに過ぎない。そうとも思えた。
もし本当に潮が来たのなら、自分に教えたりしないだろう。この女はそういう人間だ。
そう考えて、曙は何も喋らなかった。
やがて日が落ち、曙は独房に戻された。
水を一杯与えられたが、曙は拒否した。逆に喉の渇きが増すだけだからだ。それに死んでも艦憲兵の施しなど、受けたくなかった。
独房の中に光はない。牢番がいるであろう部屋から漏れる灯火と、窓から差し込む月光が僅かに部屋を照らすだけだった。
空腹と乾きから、眠ることが出来なくなっていた。
そのためひたすら考えた。
第七駆逐隊のこと。後輩達のこと。そして提督のこと。
提督はこの現状をどう思っているのだろうか。かつての提督なら、艦憲兵の跳梁など許すはずがない。
もし提督が曙の現状を知ったら、助けてくれるだろうか。
そんな考えがぐるぐると頭の中を回った。
不意に、声が聞こえた。
誰かの声かは分からない位、遠くのようだ。
瞬間、乾いた音が響いた。
よく知った音だ。銃声。
外で何かがあった。
そう思うと同時に、曙は立ち上がった。
片足が崩れた。それほど、体が衰弱していたのだ。
しばし静寂があり、やがてコツコツと床をブーツが叩く音が聞こえてきた。
「曙殿、お友達がまた来ましたよ」
扉の向こうからキツネの声がした。
「随分と、お友達思いの友人を持ったことで。無理にここを押し通ろうとしたので、我々もここを守るために行動せざるを得なくてですね」
そこまで聞いたとき、抑えていたものがぷっつりと切れた。
扉に飛びかかり、拳で破壊した。
外の廊下に出た曙が見たのは、銃を構えた数人に囲まれたキツネの姿だった。
目が合った瞬間、キツネは笑った。銃口が曙に向けられる。
罠か。そう悟った時、キツネの手が降り降ろされた。
何発も銃声が響き渡った。
とっさに両腕で自身を庇うも、焼け石に水だった。
激痛と共に体が跳ね、曙は地面を転がった。
「逃亡の現行犯。武力によって鎮圧。こんな所ですか」
キツネは高笑いすると、横たわる曙の髪を掴んで顔を覗きこんだ。
「ここまでされても死なないとは、やはり人間じゃあないですね」
そのまま曙は独房まで引き摺られていった。
艦娘である。銃如きでは死なない。
それが幸運か不幸かは分からない。
「実はですね。私もかつて艦娘を目指していたのですよ。最も、候補生で落とされてしまいましたが」
だから艦娘である自分に当たるのか。最も反抗的だった自分に。
歯がみする曙を満足そうに見下ろすと、キツネは部下を連れて去って行った。
曙は呻きを抑えた。
負けるものか。
そう自分に言い聞かせ、そのまま意識を失った。