艦隊これくしょん 鎮守府内乱編   作:あとん

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さらば第七駆逐隊

 目が覚めると、暗闇があった。

 暫く見つけていると、ぼんやり天井が見えてくる。

 ここが独房の中であることを、曙はようやく思い出した。

 気を失ってどの位、時間が経ったのだろうか。

 起き上がろうと四肢に力を入れるも、上手く動かなかった。

 艦憲兵共の銃撃が想像以上に効いたらしい。

 体中がひしひしと痛み、意識が未だにはっきりとしなかった。

 死。頭を過ぎる。

 艦娘に志願したときから、死は覚悟の上だ。だがこんな場所で最期を迎えるのは嫌だった。

 ぼやけた視界の仲で、鮮明に何かが浮かんできた。

 顔だ。

 世話になった先輩方。可愛がった後輩達。共に海を駆けた戦友。第七駆逐隊。そして、提督。

 これが走馬灯というやつなのか。ここで終わってしまうのか。

 所詮、ここまでの女だったか。死の先には一体何があるのだろうか。

 曙は自嘲気味に笑った。

 

 不意に光が差し込んだ。

 扉を開く音だ。

 何かがここに入ってくる。一人じゃ無い。数人。

 体が宙に浮く感じがした。何者かが両脇から曙を抱え上げたらしい。

 瞼を少しだけ開いた。目の前に何かが差し出される。唇に触れる。水だ。コップに入っている水だ。舌を動かし、少しだけ口に入れた。体中に染み渡っていくようだ。朧気だった意識が一気に覚醒した。差し出されたコップをぶんどり、一気に飲み干していく。

 

「落ち着いて、曙」

 

 右から朧の声が聞こえた。

 

「ゆっくり……ゆっくりだよ……」

 

 左からは潮の声だ。

 

「これなら、ひとまずは大丈夫、かな」

 

 コップを持っていたのは漣のようだ。

 第七駆逐隊の皆が、ここに集まってきていた 

 

「……あんた達、なんで……」

 

 水を飲み干した曙が尋ねた。

 

「潮ちゃんが何度も面会を拒絶されて、不審に思ってね。案の定、こんなことになってるなんて……」

 

 漣は薄暗い独房を見渡して、唇を噛んだ。

 

「カラス達め、随分と酷い事をしてくれる」

 

 いつもおどけている彼女からは考えられないほど、その顔は真剣味に満ちていた。 

 

「曙、立てる?」

 

 朧にそう聞かれ、曙は足に力を入れた。

 震えながらも、何とか立ち上がることが出来た。だがこれ以上は難しそうだ。歩けるかどうかは分からない。

 

「こんなことして、一体何考えてんのよ。あんた達も反逆者扱いされるわよ」

 

「覚悟の上だよ」

 

「その言い方。ぼのたんらしさが戻って参りましたなあ」

 

「うっさいわね……」

 

「曙ちゃんをこんな目に合わせるんなら」

 

 潮が声まで震わせながら口を開いた。

 

「私達は戦います」

 

 小さな体を震わせながらも、両目には覚悟の色が燃え上がっていた。

 

「……潮がここまで言ったのなら、もう止められないわね」

 

「潮ちゃんだけじゃないぞ。朧ちゃんもこの漣も、心は同じ」

 

 目の前の漣が笑った。久しぶりに見る、彼女の純粋な笑顔だった。 

 

「ありがと……」

 

 自然にそんな言葉が出た。

 恥ずかしいが清々しい。

 心を被っていたものが一気に晴れていくような感じだった。

 

「おおーっ! ぼのたんがデレた!」

 

「うっさいわね! 一応、敵陣なんだから静かにしなさい!」

 

「それなら大丈夫」

 

 曙を支えながら朧は顎で床をしゃくった。

 扉の外の近くに横たわる人影が見えた。

 

「皆、眠ってる。しばらくは大丈夫だと思う」

 

「渾身の力でぶん殴りましたからね、でもスッキリでメシウマでしたよ!」

 

 さすが曙も呆れた。

 まさかゴリゴリの力押しとは。だが、こうでもしなければ、自分は助からなかったろう。

 廊下を出て、階段を上るとそこは艦憲兵の山があった。

 相当、漣達が暴れたのか、部屋は荒れ物が散乱していた。その中でキツネを曙は見つけた。完全に伸びているようで、地面に突っ伏して動かない。

 曙は思いっきり唾を吐きかけようとしたが、それすらもったいない行為のように思えて辞めた。

 この女にはそんな価値すらない。そしてもう二度と会うことはないだろう。

 そのまま艦憲兵の駐屯地をでた。

 扉を開けると暗闇があった。

 だが先ほどまでいた独房とは違う。

 空には月と星がある。

 それに今は一人でなく、仲間がいる。

 

「これからどうするの、漣?」

 

「……とりあえず、ショートランドに向かおう。あそこには叢雲ちゃんがいる。同志が、いる」

 

 同志という言葉に引っかかった。

 反乱を狙っている艦娘達が存在しているという噂を聞いたことがある。

 もしや、と思ったが曙はそれ以上考えるのを辞めた。

 大事な仲間。それでいいではないか。

 潮の香りが鼻孔をついた。海がもうすぐそこまで来ているようだ。

 

「時間が無い。危険だけど、このまま海を渡るよ。曙、大丈夫?」

 

 心配そうに覗きこんでくる朧に、曙は胸を張って答えた。

 

「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるの」

 

 それを聞いて三人は笑った。

 この四人なら、第七駆逐隊のメンバーならどこまでも行ける。

 曙の心に、不安など微塵も無くなっていた。

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