ただひたすら、闇夜を駆けた。
二人が曙を両脇から抱えながら進み、残りの一人が周りを警戒しながら先導する。
追っ手は何時やってくるか分からない。加えて深海棲艦も現れる可能性だってある。
月明かりだけを頼りに海路を進んでいった。
ショートランドにたどり着くまでにいくつか艦娘の駐屯所がある。それも迂回しなければならない。
理由はあれども自分たちが軍を離脱した事実は変わらない。他の艦娘たちも追わないわけにはいかないだろう。
交代で曙を抱えながら進み、やがて夜が明けた。
第七駆逐隊は小さな島に上陸し、そこで休息をとることにした。
昼間に海上移動は目立つ。それにそろそろ気絶させた艦憲兵達が目を覚まし、本部へ連絡を取るであろう。そうなれば自分たちの捜索が始まるのは時間の問題だった。
幸い真水のある島だった。喉を潤して、奥にある木陰で曙を横にして休ませ、交代で見張りを立てて眠った。
時折、水上偵察機が飛んでいく音が聞こえた。既に捜索が始まっているのかも知れない。
携帯用のレーションは持っていたが、潮が木の実を見つけてきた。
三人で皮をむいて食し、曙にはすり潰して食べさせた。
「第17泊地は」
曙が不意に口を開いた。
「どうなっているの?」
自分のことより後輩達の心配をする曙に、三人は思わず笑った。
普段は刺々しい物言いだが、心根は優しく思いやりのある少女なのだ。
「親潮ちゃんがいるから大丈夫だと思うよ」
「それに元々翔鶴さんが来てくれることになってたからね。カラス共も翔鶴さんには手を出せないだろうしね」
朧と漣の言葉に安心したのか、曙は再び眠りについた。
やがて夜になり、周りに追っ手がいないことを確認して、再び四人は動き出した。。
追跡を警戒しながら慎重に進んでいく。
塩水がぶつかった。
海が荒れ始めたようだった。徐々に波が高くなり、体が真っ直ぐに進まなくなってくる。
時々、曙が呻き声を上げた。休んではいたが、やはり傷は浅くないようだ。
入渠さえすればすぐ直る傷だった。どこの駐屯地にも簡易な入渠装置は設置されている。追われる立場でなければ使用できるのに。そうすれば曙はすぐに元気を取り戻すというのに。思わず漣は下唇を噛んだ。
「クソ提督」
不意に曙の口が開いた。
「ふざけるんじゃないわよ。あんたは本当にクズよ」
意識が朦朧としているようだった。うわごとのように何か、つぶやき続けている。
「あたし達がどんな思いで。どんな思いで、あそこで待ち続けたと思ってるのよ」
「曙ちゃん・・・・・・」
支えていた潮が心配そうに言った。
「クソ提督がいないと、何も始まらないじゃない。鎮守府じゃないじゃない。だからあたしは待ってた」
ずっと胸の底に押し込んでいた曙の本音のようだった。
反抗的に見えてもずっと一途に仕えてきた。
それを皆、知っていた。
曙の気持ちを知っている。それだからこそ心苦しい。
待ち続けたのだ。
提督からも鎮守府からも離れ、片田舎の駐屯地で。
今は提督も軍関係のゴタゴタで自由に動けないが、いつか必ず戻ってきて、再び指揮を執ってくれると。
あの忌まわしい艦憲兵が来てからも、曙は後輩達を守りながら耐え続けた。
「あんたは最低よ。こんなに。こんなに、あがいているのに」
もう一度、曙を提督に会わせたい。
漣も朧も潮もそう思った。だからこそ、海に出た。
急がねば。曙はもう限界が近いのかもしれない。
不意に空が光った。
闇が一気に失せ、第七駆逐隊を周りを照らした。
照明弾。血の気が一気に引くのを感じた。
目を細めながら主砲を構える。探照灯の光が向けられ、その方向に砲手を向けた。
人影が六つあった。そのうちから一人、前に出てきた。
「第七駆逐隊の皆さんですね?」
凜とした声が響いた。
背景の照明の光から、一人浮かび上がってきた。
「鳥海さん・・・・・・」
漣が言った。
見知った顔だった。
よく見ると他の艦娘達の顔にも見覚えがあった。
「三川艦隊」
朧がぽつりとつぶやいた。
鳥海を旗艦とした三川艦隊。たしかショートランドに所属しているはずだ。
漣は肩の力が抜けるのを感じた。
ここまで探しに来てくれたのか、とも思った。
「叢雲ちゃんから話しは聞いています。急いでこちらに」
鳥海が手を伸ばし、朧がその手を取った。
「曙ちゃん、ようやく休めますぞ」
漣が微笑みながら言った。