艦載機を発艦させた。
鎮守府の奥、空母寮のそのまた奥に空母専用の演習場はある。
そこで赤城は弓を引き、自己訓練を行っていた。
この訓練を赤城は毎日自分に課している。
鎮守府の中にいるだけでは脆弱になる。だからこそ赤城は鎮守府にいるときは勿論、外にいるときも毎日のように、自己訓練を行っているのだ。
最後の大規模作戦の後、小規模の戦闘はあったが、かつての大海戦ほどの戦闘は無くなった。
すると自分たち空母や戦艦達は第一線から外されることとなった。
空母達は各駐屯地を廻る航空戦力。戦艦達は重要拠点を守る防衛戦力。尤もな理由を述べられたが、赤城は持て余した過剰戦力を放逐したようにしか思えなかった。
それでも深海棲艦が跋扈した頃に比べれば、平和になった証である。そんな風に考えて、自分を納得させていた。
納得いかなくなってきたのは、提督が姿を現わさなくなった頃からである。
長門が提督がしなければいけない仕事までやらされるようになり、海軍本部や艦憲兵などが幅をきかせるようになってきた。
その時からだった。赤城が鎮守府を帰るべき場所だと見れなくなってきたのは。
しかし、赤城は彼らに逆らうことはしなかった。
逆らった艦娘たちが僻地へ飛ばされたり、冷遇されるのを見てきたからだ。
もし叢雲程の胆力と立場があれば、そう思うことも何度もあった。
中途半端だった。思考も、己の立ち位置も。
一航戦の立場として空母勢を纏めて反抗することだって、自分は出来たはずだ。
だが今の立ち位置を捨てることも、鎮守府の規律を乱す覚悟も赤城にはなかった。
現状の 航空部隊という特殊な立ち位置も、悪い気はしなかった。
自己嫌悪に押しつぶされそうになりながらも、ついこのままでいいのではないかという思いにも駆られていた。
ある日、加賀が提督への不満を口にした。
基本的に無口であまり感情を表に出すことの無い加賀が、珍しく声が震えていた。
古参達が各地へ飛ばされ、鎮守府は新兵ばかり。
海軍本部の介入も防げず、後手後手に回っている現状に対する、静かな怒りがあった。
だが現状、二人は何も出来なかった。それもまた歯がゆかった。
そんな時、ショートランドに立ち寄った。
叢雲から計画を聞いたとき、衝撃を受けた。
彼女たちは現状に不満を感じつつも、達観して受け入れるような事はしていなかった。
だが同じ立場でも彼女たちはあがき続けていた。
提督の基、再び理想の鎮守府を再建する。
そのために動いていたのだ。
心が震えた。
自分はただ逃げていただけではないのかとも思った。
計画に加わることに何の躊躇いも無かった。
航空部隊は各駐屯地を自由に行き来できる、数少ない艦娘である。
それを利用して同志を集めるのが、赤城たちの役目になった。
飛龍や五航戦などの同じ古参空母たちも仲間に引き入れた。
空母たちによって同志は何人も増えていった。
その度に多くの艦娘たちが現状を憂いていること、それを打破しかつての鎮守府を取り戻したいという気持ちを知った。
鎮守府を変える。いや、元に戻す。
それがいつかは分からないが、必ずやってくる。そしてその引き金は自分たちが引くのだ。
そう信じて動き続けた。その時、何が出来るか。それも考えた。
何かが起きる。
ある日、如月がそう言った。
その時は『改二』の羽織を着てくる。それが合図だと。
引き金が引かれるのが近いのかも知れない。
赤城も加賀と共に、出来るだけ鎮守府に留まるにした。
事が起きたとき、すぐに行動するためだ。
曙が捕縛され、彼女を助けるために第七駆逐隊が反逆の末、逃走したという報告が届いたのは少し後のことだった。
鎮守府や艦憲兵に不満を持つ艦娘は多くいることは知っていた。
それが遂に爆発したのだ。
鎮守府がザワつき始めた。
艦娘の歴史が始まって以来の、上層部への反抗だった。
今の鎮守府は新兵が多いが古参兵もそれなりに残っている。
そんな彼女らが動揺する程、衝撃的な事件だったのだ。
次々と報告が入ってきた。
ショートランドで第七駆逐隊が捕縛されたという報告が入ったのは、その翌日だった。
叢雲は同志だったはずだ。ならばこの捕縛にも裏があるのではないか。
そう考えると、体が震えた。
遂に始まったのだ。いや、もう始まっていたのだ。
第七駆逐隊は、この鎮守府に護送されてくるらしい。
何せ初めてのことだ。
さすがに提督の裁量が必要だろう。
つまり久しぶりに提督が表舞台に姿を現わすはずだ。
その話で鎮守府内は持ちきりだった。
赤城と加賀は鎮守府に留まり、近海を艦載機で哨戒する命令を受けた。
鎮守府は軽巡洋艦と駆逐艦からなる艦隊を二つ、派遣してショートランドから来る護送部隊と合流。そのまま第七駆逐隊を、ここまで連れてくるらしい。
まもなく作戦が始まるはずだ。
赤城は演習場から出て、下へと向かった。
前から如月が走ってくるのが見えた。。
その姿を見て、赤城は目を見開いた。
如月改二。
そう刻まれた黒い羽織を、如月が身につけていたからだった。