艦隊これくしょん 鎮守府内乱編   作:あとん

34 / 62
命令、下る

 吹雪が第三水雷戦隊に配属されてから、初めての命令が下った。

 捕縛された第七駆逐隊をこの鎮守府に連行する。その護送だった。

 ふざけるな――川内が叫んだ。

 アイドル的に、それはどうかな――那珂も難色を示した。

 元々、第三水雷戦隊はここ鎮守府近海の哨戒任務が主な役割だった。

 深海棲艦はあらかた倒したが、全滅したわけでは無い。

 ある日突然、湧いたりするのだ。

 だがそれも一体か二体かといったもので、新兵の訓練にはもってこいだった。

 吹雪も基本的な訓練を終えてから、近海で哨戒任務を行うというのが順当な道筋のはずだったのだ。

 しかし、第七駆逐隊の反逆というイレギュラーが起こり、このような命令が下った。

 かつての仲間の護送任務。それを新兵にやらせようというのだ。

 初めての出撃、それは心に残るものだ。

 それをこんな胸くその悪い任務を命じるとは。そう神通は思ったが、自分たちは軍人。命令には絶対である。

 極力不満を顔に出さずに神通は執務室を後にした。

 

「どうするの、神通ちゃん?」

 

 那珂が不安そうに聞いてきた。川内は怒りが収まらないのか、肩を震わせながら歩いている。

 

「命令よ。私達艦娘は軍人。ならばやることは一つよ」

 

 冷淡に見えるだろう。

 だがそれでも自分は第三水雷戦隊の旗艦だった。

 自分まで感情に流されれば、この部隊は崩壊する。

 そうなれば鎮守府内がさらに混乱する。それは避けたかった。

 

「吹雪ちゃん達は今、何を?」

 

「利根さんの所で実技訓練をしてるよ。睦月ちゃんと夕立ちゃんも一緒」

 

「そう、じゃあ迎えにいかないといけないわね」

 

 それ以上は何も言わなかった。

 重苦しい雰囲気のまま、三人で歩いていく。

 鎮守府全体に張り詰められた空気が流れていた。

 新兵の駆逐艦達は不安に怯え、古参の軽巡・重巡も落ち着かない雰囲気だ。 

 こういう時、皆をまとめるのは如月だった。

 だが彼女さえも今回は思うところがあるのか、姿をあまり見せなかった。

 そんなことを考えながら歩くと、演習場にいつの間にか着いていた。

 入り江に創られた海上演習場、そこに吹雪達はいた。

 

「吹雪! もっと周りをよく見るのじゃ! 二人の動きに合わせて、もう一回じゃ!」

 

 利根の怒声が飛んだ。

 どうやら三人で連携訓練を行っているようだ。

 利根の妹である筑摩が、側で訓練を見守っている。

 

「お疲れ様です、筑摩先輩」

 

「あら、神通ちゃん。それに川内ちゃんに那珂ちゃんも・・・・・・どうしたの?」

 

「実は、第三水雷戦隊に出撃命令が下りまして」

 

 それを聞き、筑摩の表情が曇った。

 

「この状況で命令ってことは、第七駆逐隊関係?」

 

「ええ、その第七駆逐隊をこの鎮守府まで護送する任務を、第二水雷戦隊と我が第三水雷戦隊が承りました」

 

「成程ね・・・・・・命令とはいえ、吹雪ちゃんも初任務がそんな仕事なんて・・・・・・」

 

 筑摩もあまり良い感情を抱いていないようだった。

 

「吹雪ちゃんはどうですか?」

 

「筋はいい。さすが扶桑さんの弟子ね。基礎はよく出来ているわ。あとは連携ね」

 

 そう言って筑摩は吹雪に視線を向けた。

 睦月と夕立の間で、演習弾を避けながら、海上を移動している。

 時折、二人にぶつかりかけるものの、確かに動きは悪くない。

 もう少し修練を積み、近海で演習を何度かすれば、充分前線で戦えるだろう。

 だがまだ、早い。

 それが筑摩の判断だった。  

 だがそうも言ってられなくなった。

 

「出撃は?」

 

「明日。ヒトマルマルマル」

 

 筑摩は深いため息をつくと、利根を呼んだ。

 利根は一旦、演習を止めると神通達の元にやってきた。重巡洋艦の中では古参であり、現在はここで教官を務めている。

 第三水雷戦隊の任務を聞いた利根は渋い顔をしたが、それでも命令は命令と言い、演習を終わらせた。

 利根の号令と共に、汗と海水まみれになった吹雪達が陸へ上がってくる。

 

「神通先輩! 川内先輩に那珂ちゃんも!」

 

 睦月がいの一番に駆け寄ってきた。

 それに続いて夕立と吹雪もやってくる。

 

「お疲れ様です! 長門さんの話は終わったんですか?」

 

「もしかして夕立達に命令っぽい?」

 

 無邪気に聞いてくる吹雪達に胸を痛めながらも、神通は出来るだけ平静を装っていった。

 

「ええ、第三水雷戦隊に命令が下ったわ。そのことで詳しい話をするから、着替えて20分後に第二作戦室に来て」

 

 神通の言葉に三人は笑顔で敬礼して、シャワー室の方へ走っていく。体中に付いている潮を洗い流すためだ。

 

「辛い仕事だよね」

 

 川内が言った。

 

「ええ。でも、やるしかない。でしょう、姉さん」

 

「およ?」

 

 那珂が何かに気づいたようだった。

 

「蒼龍さん、帰ってきてたんだ」

 

 その言葉にその場にいた皆が、那珂の視線の先を追った。

 別の波止場に青みがかった黒髪と緑の着物が特徴的な艦娘が、新兵の駆逐達に先導され歩いていた。

 鳳翔に次ぐ古参で、正規空母の中では最も提督の信頼が厚いとされる蒼龍。それが何故、このタイミングで鎮守府に帰ってきたのか。

 叢雲や金剛は忠臣であるが、時には提督や上層部に噛みつくこともあった。

 それが正しいことであり、提督を思っている事も確かだった。

 だが蒼龍は違う。

 忠臣に違いは無いが、彼女は提督にどこまでも追従する。そんな危うさをもっている少女だった。

 その蒼龍を、第七駆逐隊の問題で混乱する鎮守府に、呼び戻した。

 背筋が震えるような感覚を神通は憶えた。

 

 不意にポン、と肩に手が置かれる。

 振り向くと川内が笑っていた。

 

「行こうか」

 

 心が落ち着くのを感じた。

 この自由奔放そうな姉は、実は人をよく見ていてさりげなく気遣いが出来る。

 だからこそ神通は安心して背中を任せ、旗艦を務められるのだ。

 今は目の前の任務だけを考えよう。

 そう思い、神通は第二会議室へ向かった。




この小説は一応、アニメを元に書いていますので、如月ちゃんのことは察してください・・・
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。