シャワーを浴び、着替えた吹雪き達が第二会議室に入ったとき、既に いくつかの人影がそこにあった。
「おっそーい!」
入っていきなりそんな言葉が飛んできた。
駆逐艦島風だ。
速さを絶対のものとして信仰している彼女は、とにかく早い遅いにうるさい。
こういう集合でも一番にやってくる彼女は手持ち無沙汰なのか、ぴょんぴょんと落ち着き無く飛び廻っている。
「ごめん、演習があって・・・・・・」
「でも遅いよー。もう皆あつまってるよ!」
島風の言うとおり、第二水雷戦隊は全員集まっているようだった。
「弥生ちゃんに望月ちゃん!」
睦月がそう言って二人の少女に駆け寄った。
一人は青い髪を持つ無表情な少女。もう一人は栗色の髪をしたメガネを掛けた少女だった。
「睦月・・・・・・」
「よっ、睦月。今日も元気だね」
二人は嬉しそうに睦月を迎えた。
「もうっ! 睦月お姉ちゃんでしょ!」
「といってもねえ・・・・・・来たのはあたしらより後からだし、そうすると如月や長月はどう呼べばいいのって」
「混乱・・・・・・する」
「も~っ!」
「もしかして、睦月ちゃんの姉妹艦?」
吹雪がそう聞くと睦月は満面の笑みで振り向いた。
「そう! 弥生ちゃんと望月ちゃん! 同じ睦月型だよ!」
「あぁ、望月でーす」
「弥生です。あ、気を使わないでくれていいです・・・・・・」
「あ、吹雪です! 今回はよろしくお願いします!」
かしこまって敬礼する吹雪を見て、望月が少し吹き出した。
「そんなかしこまらなくていいって。同じ駆逐艦だろー」
望月が肩をポンポンと叩いた。そのまま欠伸をして腰を降ろす。
立ち振る舞いはダウナーだが、芯の部分では生真面目なのだろう。そんな印象だった。
「そうそう、一緒に出撃する仲クマ」
「緊張しなくていいにゃ」
不意にそんな言葉が聞こえた。
よく見れば弥生達の奥に軽巡の球磨と多摩が、ゆったりと椅子に座っていた。
軽巡の古参ではあるが親しみやすい性格と面倒見の良さから、新兵達の人気は高い。
「球磨さんたちも参加するっぽい?」
「クマ。球磨達は第二水雷戦隊として参加するクマ」
「旗艦は夕張だにゃ」
確かによく見ると奥に夕張もいた。
これから説明につかいう書類を見ていた夕張だったが、吹雪を見つけると顔を輝かせて近づいてきた。
「あなたが吹雪ちゃんね! 話は聞いてるよ! まだ正式な艦娘になる前から、艤装を呼び出したんだって?」
「あ、あー」
そういえばそんなことあったな、吹雪にとってはそのくらいのことだったが、夕張は興味津々らしい。
「本来は鎮守府で艦娘として艤装に認められて、初めて纏えるものを、最初から・・・・・・んんー気になるなぁ。ねぇ、色々試してみてもいいかしら?」
「え、ええっと・・・・・・」
「夕張ちゃん、吹雪ちゃんが困惑してるからその辺りで終わりにして。説明を始めましょう」
神通に止められ、夕張は残念そうに吹雪から離れた。
そのまま彼女は全員に着席を促す。
皆が席に着いたことを確認すると、神通は今回の任務の説明を始めた。
任務の内容を理解し始めると一斉に全員の顔が曇りだした。
仕方の無いことだ。判っていたことだと、神通は己に言い聞かせながら説明を続ける。
「明朝、ヒトマルマルマルに出発。鎮守府近海までショートランドの艦隊が第七駆逐隊を護送してくる。そこで護送の任を引き継いで、鎮守府まで第七駆逐隊を連れてくるのが今回の任務です」
説明を終えると神通は皆を見渡した。
全員が沈んでいるようだった。当然だろう。気乗りしないどころか、不快な任務だ。
それでも命令をこなさないと行けないのが軍人だ。
チラリと吹雪を見る。
こんな任務が、初めての任務である吹雪はより辛いであろう。
吹雪は暫く下を向いていた。
「吹雪、大丈夫?」
川内が気を使ってそう言った。
「・・・・・・大丈夫です」
顔を上げた吹雪は、静かに。しかし力強く言った。
「どんな任務でも、私は頑張るだけです」
川内が息を呑んだ。
他の駆逐艦達も驚いたようだった。
「あの子、思ってた以上に強いかもね」
耳元で夕張が囁いた。
たしかにそうかもしれない。
少しだけ胸のモヤモヤが取れた気がした。
「そうね・・・・・・それに・・・・・・」
「ん、どうしたの?」
「・・・・・・ううん、なんでもないわ」
不思議と吹雪がかつての提督に重なった。
きっと気のせいだろう。神通はそう思い、その考えを頭から振り切った。