何事もなく、吹雪達は帰港した。
小型船舶を守りながら深海棲艦と戦うことは不安だったため、吹雪は内心ほっ腕を降ろしていた。
だが足を陸地に付けた時、それが間違いだと気が付いた。
吹雪達を迎えたのは高雄や妙高などの重巡たちであった。
皆、第七駆逐隊とは旧知の仲である。
そんな彼女たちが罪を犯し、これから裁かれる第七駆逐隊を笑顔で迎えるわけがない。
現に皆、険しい顔で船舶に鋭い視線を向けている。
重苦しい空気に思わず吹雪は視線を地に落とした。睦月も夕立もただならぬ空気を感じてか、すっかり萎縮している。
「第二・第三水雷戦隊の皆さん、護送任務ご苦労様です」
高雄が業務的に言った。
神通と夕張はそれに敬礼で返した。
「私達が命じられたのはここまでですが」
「ええ、ここからは私と愛宕。それと妙高型の方々で第七駆逐隊を大本営に連行します」
「大本営に?」
「ええ、提督が直々に裁くとの話です」
提督。
その言葉に神通達の顔色も変わった。
ようやくその重い腰を上げるか。
それでこの一件をどう納めるつもりだろうか。
様々な考えが浮かんでは消えた。
「第七駆逐隊の皆さんを」
妙高に言われ、神通は我に返った。
神通が腕を上げると、川内と那珂が船舶の出入り口を開ける。
その周りを囲むように残りの水雷戦隊のメンバーが囲んだ。
「出なさい」
冷淡に神通が言った。
薄暗い出入り口の奥で何かが動く気配がした。
金属が擦れる音が聞こえる。それが徐々に大きくなり、入り口に人影が現れた。
「っ・・・・・・」
吹雪は思わず息を呑んだ。
先頭にいるのは曙。次に漣が現れ、朧・潮と続いた。
両手を手錠で拘束され、鎖で互いに繋がれている。
彼女たちが姿を現わすと、空気がより張り詰めたモノに変わった。
先頭の曙を筆頭に皆、鋭い眼光を宿している。
拘束されているはずなのに今すぐにでも、周りの艦娘に飛びかからんばかりの雰囲気だった。
「艤装は?」
「中で拘束されてるね、鎖でぐるぐる巻きになってる」
船の中を覗きこんだ夕張が言った。
「・・・・・・・・・・・・」
曙達は何も喋らなかった。
ただじっと、何かに耐えている。
そんな風に吹雪は見えた。
彼女たちのただならぬ雰囲気に呑まれたのか、周りの艦娘たちも押し黙っている。
吹雪は主砲を曙に向ける。
曙と目が合った。
酷く、暗い瞳だった。だが、その奥に光が一筋、宿っているようにも見えた。
「行くわよ」
高雄がようやく口を開き、吹雪はようやく我に返った。
その時。
上空を艦載機が一つ飛んでいった。
この状況でただ一機、悠々と空を横切っていく。
重苦しい空気から逃れるかのように、吹雪は空を見上げた。
その艦載機は空の上で円を描くように旋回する。
不意に横で金属がガチャリと音を立てた。
瞬間、何かが肌に刺さるような感覚が襲う。
咄嗟に引き金を引いた。
だが吹雪の腕は蹴り上げられ、砲弾は上空へ飛んでいく。
人が見えた。
曙。
その細い足が吹雪の手を蹴り上げている。
猛烈な違和感。
すぐにその訳が分かった。
鎖が千切れ、第七駆逐隊の両腕が自由になっている。
何故だ。
直後、耳をつんざくような破裂音がして、船の奥から艤装が飛んできた。
それらは曙達の身体に装着されていく。
「押さえろ!」
川内の怒声が飛んだ。
それに一瞬、気を取られた。そこに隙が出来た。
目の前を影が被った。そのままそれに引き寄せられ、柔らかい感触が後頭部を包んだ。
吹雪は声を上げようとした。だが、息が詰まった。
強引に抱き寄せられたのだ。それに気づいたとき、頭に冷たいモノが当てられた。
主砲。突きつけられている。
漣に捕まっていた。それ位しか、吹雪には分からなかった。
「動くな!」
曙の一声で、周りの艦娘たちが動きを止めた。
吹雪を捉えた漣を、残りの第七駆逐隊が囲んだ。全員、束縛は解けて艤装を装備していた。
「吹雪ちゃん!」
睦月が叫んだ。
「何てこと・・・・・・」
神通が震えて言った。
他の艦娘達もあまりの突然な出来事に、目を見開いて動けないようだった。
「ま、まさか・・・・・・こんな・・・・・・」
夕張も震えていた。
「まさかこんなに上手くいくなんて」
瞬間、神通の身体が凍った。
ゆっくりと、その視線を神通は夕張に向けた。
夕張は驚くほど落ち着いて、神通の方を見ていた。
「時間ね」
そう言った直後、夕張の両脇から二つ影が飛び出した。
球磨と多摩。
その姿を確認したのと同時に二人の主砲が火を噴いた。
爆音と共に白煙が周りを包んだ。
艦載機は空を回り続けていた。