提督がある日、姿を消した。
自室に引きこもり、一切姿を現わさない。何人もの艦娘達が提督に会おうとして、拒否されていった。
その中で長門だけが提督と会うことを許された。
秘書艦特権。そう言って誤魔化したが、古参兵達には様々な疑念を抱かれた。
その中でも如月は特にやっかいだった。
最も長く秘書艦を務め、提督への忠誠も高く、後輩からの信頼も厚い。
第一遊撃部隊。そう呼ばれる6人の影響力は長門の想像以上のものだった。
この異常事態。如月がその気になれば、艦娘達を扇動し鎮守府を転覆させるだけの力は持っている。
そんな彼女が提督の事を探り始めたのだ。
長門は提督が姿を消した理由を知っていた。
だがそれは公に出来ることではなかった。
隠さなければならない。もしこのことの真相が明らかになれば鎮守府どころか、艦娘全体の立場が大きく揺らぐ可能性がある。
そのために如月は危険だった。
元々、提督と親しかった如月は、真相に辿り着くかも知れない。
いつからか長門は如月に監視を付けるようになった。
選りすぐりの新兵が秘密裏に選ばれた。
勿論、新兵達には如月を秘密裏に警護する。第一遊撃部隊のメンバーである如月は色々な勢力に狙われている。そう言って丸め込んだ。
監視役の艦娘との間には懇意の妖精さんを挟み、定期的に如月の行動を監視していた。
我ながら卑劣で陰湿な行為だと思っていたが、鎮守府を円滑に維持するには必要なことだと思っていた。
それは今日の日も同じ事だった。
最後に受け取った報告では、如月は第七駆逐隊護送の任務を受けた艦娘たちを見送ってから、波止場で海を見ていたという。
この大規模な暴動。きっと如月が絡んでいる。長門は直感でそう考えていた。
「風雲!」
如月の監視を命じていた駆逐艦・風雲は長門に呼ばれて振り向いた。
「如月はどうしている!」
混乱する鎮守府の中で風雲もやはり平静さを失っているようだった。
額に脂汗を滲ませ、目を各方向に向けている。
「長門秘書艦! これは何が起こっているのですか!?」
「それより如月はどうした!?」
「はい、この異常事態に、心配なので提督の基に向かうと・・・・・・」
風雲の言葉を聞いた瞬間、長門は踵を返した。
彼女のことは責められない。風雲は単純に如月の護衛と思い込んでいたのだから。
如月はどこだ。入れ違いになったか。
そんなことを考えながらひたすら走った。
いつもの鎮守府がひたすら広く思えた。それとも自分の足がこんなにも遅かったのか。
そもそも何故自分は如月を追っているのか。
秘書艦として堂々と迎え撃てば良かったのではないか。
考えている暇など無い。そのはずなのに、いくつもの思案が頭を廻った。
後ろめたさか。長年秘書艦だった如月を押しのけ、自分が秘書艦になったこと。提督の秘密をにぎっていること。
冷や汗が滲み出た。周りからは爆音と悲鳴ばかりが聞こえてくる。