艦隊これくしょん 鎮守府内乱編   作:あとん

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大本営燃ゆ

 提督はここにいなかった。

 ここ以外の鎮守府はしらみ潰しに探したのだ。この提督の私室だけが最後の砦だったのだ。

 恐らく今の鎮守府に提督はいない。

 悲しいことだが、それが分かっただけでも成果はあった。

 もはやここに用は無い。下にいる第七駆逐隊達と合流し、鎮守府を脱出しなければ。

 如月は踵を返した。

 執務室の前まで戻ってくる。

 

「・・・・・・見たな」

 

 息を切らせ肩を震わせながら、長門が立っていた。

 いつもは凜々しい顔が焦りの表情で歪んでいる。

 

「長門さん・・・・・・」

 

 瞬間、建物を揺るがす轟音が響き、硝煙の香りが辺りに充満する。

 長門の後ろにいた能代と酒匂は驚愕した。

 如月に向かって、長門が躊躇無く主砲を撃ち込んだのだ。

 

「長門さん!? 何を!」

 

「能代・酒匂! 今すぐ大淀の元へ行け」

 

 長門は二人を見ないで言った。

 

「内乱・・・・・・いや、反乱の首謀者は如月だ。七駆と協力者共々捕らえろ。生死を問わずだ」

 

 恐ろしいほどの剣幕だった。

 能代と酒匂は何も言えずそこから走り去った。

 砲撃により辺り一面に黒煙が広がり、視界を覆い尽くす。

 その中で長門は目を皿のようにしながら、如月の姿を探す。

 手応えはあった。だが、仕留めてはいないはずだ。

 執務室の中を見たからには、このまま逃がすわけにはいかない。

 もし、外の反逆者たちと合流してこの事が知れたら、それこそ一大事である。

 例え苦楽を共にした仲間であっても、撃たねばならない。

 長門は一歩踏み出した。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

 一体、何が起こったのか。

 吹雪は初め、自分がどのような状況にいるのか理解出来なかった。

 爆音がする。主砲の音。悲鳴。

 周りの状況を確認しようとしても視界が目まぐるしく動いて出来なかった。

 捕らえられている。

 それだけははっきり分かっていた。相手は漣。第七駆逐隊の一人で、外見は自分とあまり変わらないが歴戦の戦士である。

 何故、こうなったのか。これからどうなるのか。

 分からない。

 怒声。轟音。

 無理矢理走らされ、息が詰まる。

 一体何時まで続くのか。

 

「ごめんね。もうちっとだけ辛抱してね」

 

 漣が精一杯明るく言った。

 自分を片手で抱えながら、もう片手で主砲を放ち、走り続けている。

 それなのに息一つ切らしていない。

 どれだけ凄まじい事か、なまじ実力を身につけてしまった吹雪には理解出来た。

 同じ艦娘だが力量がこれ程まで違うのか。

 吹雪は歯がみした。

 

「三時の方向! 敵!」

 

 夕張の怒声と共に、主砲が放たれる。

 漣達を拘束しようとする艦娘達が、衝撃でひるんだ。その隙を縫うように駆けていく。

 長く戦ってきただけあって漣達の方が一枚上手だった。

 

「・・・・・・どこに向かっているのですか?」

 

 吹雪の問いに漣は答えなかった。

 だが一行が徐々に上へ上へと向かっていることは体感できた。

 逃げるなら海へ逃げるのが当たり前だろう。なのに何故、逆の方へと進んでいくのか。

 上には大本営があるはずだ。

 長門は勿論、多くの艦娘達がそこにいる。

 いかに精鋭とはいえ、この少人数で大本営に突っ込んでいけば、数に圧倒されるのは目に見えている。

 なのに何故・・・・・・

 その時である。

 耳をつんざくような轟音と共に世界が震えた。

 漣達の進撃も一瞬止まり、音の方向へ顔を向けた。

 大本営の執務室。

 提督がいると言われている場所が黒煙と共に燃えている。

 吹雪は突然の事に言葉を失った。

 

「クソ提督!」

 

 曙の悲痛な叫びで吹雪は我に返った。

 

「曙、落ち着いて!」

 

「ぼのたん! 一人で行っちゃ駄目!」

 

 仲間の制止を振り切って曙が走ってゆく。

 

「急いで!」

 

 夕張のかけ声と共に一斉に皆が駆け出す。

 目的地に向かって一直線に進んだ。

 息を切らせ、汗で制服が肌に張り付いた。

 今までの計算された動きとは違う、明らかに乱暴な走り。

 彼女たちの混乱と焦りが、大きな渦のように吹雪に流れ込んでいくようであった。

 思わず吐いてしまいたい衝動に駆られた。

 それでも足を止めなかったのは、あの場所に兄がいるからか。

 疲れと緊張で徐々に視界が薄らいでくる。

 やがて視界が開けた。

 よく通った大本営。

 そこが地獄絵図と化していた。

 艦娘達の怒声と悲鳴が周りに響き、硝煙の香りが鼻をついた。

 そこで吹雪は信じられないモノを見つけた。

 

 地面に転がる一つの塊。

 その姿に。

 汚れた長い髪に。黒く変色した髪飾りに。血まみれの白い肌に。

 その全てに見覚えがあったのだ。

 

「如月!」

 

 先に進んでいた曙が駆け寄っていく。

 抱き起こされた如月は息はあるようだが、意識ははっきりしていないのか、譫言のように何かを呟いていた。

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