第七駆逐隊が拘束を解き、内通者である夕張達と行動を起こした。その時赤城は一人、鎮守府を見渡せる髙地にいた。
港の箇所から煙が上がったのを確認すると、赤城は艦載機を放つ。陽動と撹乱が彼女の任務だった。
瞬く間にあちこちから火の手が上がり、鎮守府内が混乱に包まれる。
それを確認すると赤城は踵を返す。だがそこで彼女の動きは止まった。視線の先は息を切らせた蒼龍がいる。
「赤城さん・・・・・・貴方も内通していたんですね・・・・・・」
必死で走ってきたのか、蒼龍は肩で息をしている。だがそれでも彼女は弓を構える。
「蒼龍ちゃん・・・・・・」
「赤城さんとはいえ・・・・・・提督に弓引く者には容赦しません・・・・・・」
蒼龍が弦に指をかける。赤城もとっさに弓を構えた。
どちらが、先に動くか。
二人に冷や汗が流れる。
瞬間、全く違うところからエンジンの音が聞こえた。
その方向に目を向けた二人であったが直後、蒼龍の右肩が爆発し、炎上する。
「鳳翔さん!」
赤城の声と共に、鳳翔が現れた。
いつもは着けていない艤装を装備し、表情も心なしか真剣味を帯びている。
「ぐっ・・・・・・」
蒼龍は呻きながらも艦載機を飛ばそうと構えた。
だが鳳翔はさらに爆撃を加える。
黒煙を上げながら蒼龍は地面に倒れ込んで、動かなくなった。
「助かりました、鳳翔さん。でも、容赦ないですね」
「蒼龍ちゃんは悪いけど・・・・・・今回ばかりは、ね」
「早く皆と合流しましょう」
赤城がそう言うと鳳翔は頷いて、弓を抱えたまま進み始めた。
最初の仕事は終わった。このまま第七駆逐隊と合流し、如月が提督を連れ出すまで撹乱を続ける。
如月が無事に提督を連れ出せたら、もしくは失敗した時に、鎮守府から脱出するのが二人の任務だった。
木々が並ぶ傾斜を勢いよく降りていく。
ようやく中腹を越えた辺りだった。
上空に赤い煙が上がっていく。
思わず赤城は立ち止まり、振り向いて鳳翔の顔を見た。
いつも落ち着いた鳳翔が驚きで目を見開いている。
「鳳翔さん!」
「・・・・・・駄目だったみたいですね。赤城さん・・・・・・急ぎましょう」
再び、走り出す。
だが先程異常に余裕がなくなっていた。
失敗だ。失敗したのだ。
ならばすぐここから離れないといけない。
そんなことを考えながら、二人は波止場に向かってがむしゃらに進んでいく。
「加賀さんは?」
「誰も鎮守府にいないのは不味い。残るそうです・・・・・・鳳翔さんこそお店は?」
「ショートランドでも店は出せます」
今はそんな事を話している場合じゃない。
分かっているはずなのに、口にしています。
それほど焦っていた。叫び出したい感情をお互い抑えながら、ただ足を動かしていた。
視界が開け、青い水平線が目の前に飛び込んできた。
その端、同志達が走っている。
彼女らを阻止せんと、他の艦娘達が主砲を構えている。
悲鳴と爆音の中で、赤城は漣と朧に抱えられた血まみれの如月を、はっきりと視界に捉えた。
頭に血が上るのを感じた。
咄嗟に弓を引き、艦載機を放つ。
瞬く間にそれらは渦中に突っ込み、黒煙が辺り一帯を包んでいく。その中から第七駆逐隊達が飛び出してきた。
「如月さんは?!」
「やられた! 早く抜錨しないと!」
夕張の言葉に赤城は無言で頷いた。
漣が人質にしていた駆逐艦を放り投げた。
急いでいるからか、誰かは分からなかったが、赤城は心の中で手荒な振る舞いを詫びる。
先頭の夕張達が海へ飛び込んだ。
赤城も艤装を完全に展開すると、勢いよく着水する。
そのまま全力で目的のショートランドへと向かって前進した。
鎮守府から出た後は三川艦隊がサポートとして合流する予定である。
そこまで考えたとき、背後から自分と鳳翔とは別の艦載機のエンジン音が聞こえてきた。
「蒼龍さん!」
赤城は振り返り、弓を構える。が、直後に攻撃が始まった。
咄嗟に体を回し、直撃を避けようとするも避けきれず、爆発と共に体が弾んだ。
「対空!」
漣のかけ声と共に駆逐艦達が主砲を上空に放つ。
爆撃機が数機、黒煙を放ちながら墜落していく。
だがその砲撃をかいくぐった精鋭達が、容赦なく如月に鉄の雨を降らせた。
明らかに如月一人を狙っている。あまりに露骨な敵意に赤城は眉をしかめる。
その僅かな間にも蒼龍の攻撃は続いていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「逃がすものか」
傷だらけの体を必死で支えながら、蒼龍は血走った眼で逃亡する者たちの後ろ姿を、鎮守府の高台から見つめていた。
「提督を裏切ったんだ。絶対に逃がさない・・・・・・全艦載機、発進!」
ありったけの艦載機を空へ放った。
狙いは如月。
反乱の首謀者だけは逃がしてはならない。
憎しみすら籠もった瞳で、蒼龍は裏切り者たちの進む先を見据えていた。