三川艦隊は迂回しながら、鎮守府に向かっていた。
彼女たちは第七駆逐隊をショートランドから、鎮守府に護送するというのが目的であった。
だが目的を果たした三川艦隊はショートランドに戻ると見せかけて、大きく迂回しながら鎮守府へと向かっていた。
彼女たちの真の目的、それは投降と見せかけて鎮守府内部に侵入し、提督を確保するという第七駆逐隊達の援護であった。
第七駆逐隊が上手く提督を連れ出せれば、そのまま彼女たちを護衛し、ショートランドに帰還する。それが理想の形だった。
だが、そうはならなかった。
鎮守府のある方向から飛んできた艦載機。その機体からは赤い煙が立ち上っていた。そしてそれは作戦失敗を意味するものである。
旗艦である鳥海はそれを確認すると、全速力で鎮守府へ向かう指示を出す。
鎮守府側に悟られないよう、三川艦隊は慎重に動いていた。だが作戦が失敗したとなれば、話は別だ。早急に第七駆逐隊と合流しなければいけない。そう思い、全速力で進んだ。
水平線の先に夕張達が見えてきた。
あまりにも凄惨な状況だった。
鎮守府からの追手に追われている彼女たちは、既に半数が大破し、仲間達に担がれている。
彼女たちの周りには幾つもの水柱が立っていた。
鎮守府からの攻撃である。上空には数機の艦載機が旋回しながら、爆撃をくわえていた。
対空砲撃を行い、艦載機を何とか撃墜する。
傷だらけのなっている第七駆逐隊達を守るように、三川艦隊が周りをぐるりと囲んだ。
「大丈夫ですか、皆さん!」
旗艦である鳥海が叫ぶように尋ねた。
事実、戦線の被害は甚大である。
鳳翔・潮が大破し、残りの艦娘達も中破・小破しており、五体満足な者はいないようだ。
その中で最初に違和感に気が付いたのは天龍だった。
「おい・・・・・・如月と加賀さんは一緒じゃないのか」
そう言われ残りの三川艦隊のメンバーもこの中に如月と加賀の姿が無い事に気が付いた。
鎮守府に残ったのか、それとも捕らえられたか。
だが、それらの予想をはるかに上回る、最悪の答えが漣の口から漏れた。
「如月ちゃんが・・・・・・」
漣の声は震えていた。
「如月ちゃんが・・・・・・死んじゃった・・・・・・」
「・・・・・・は?」
一瞬、天龍は漣が何を言っているのか分からなかった。
如月は鎮守府最古参のメンバーで、第一遊撃部隊の一人。三川艦隊の面々とも戦友同士である。
彼女の実力はよく知っている。深海棲艦との戦いでも、どんな苦境に飲み込まれようが生きて帰ってきた艦娘なのだ。
如月が死ぬわけが無い。荒唐無稽な話にすら感じる。
しかし。
「う、うあぁぁぁぁぁ・・・・・・」
漣が、泣いた。
いつもどこか飄々としていて、張り詰めた空気の中でもおどけて、皆の緊張を解しているような漣が。泣いた。
たったそれだけのことで、天龍達は彼女の言葉が真実であることを理解したのだ。
天龍の瞳から止めどなく、涙が溢れ出す。
他の三川艦隊や夕張達も嗚咽を漏らし、頬を涙が伝った。
喚声が聞こえる。
水平線の向こうから、鎮守府からの追手が迫ってくるのが見えた。
「・・・・・・ここは危険です。皆さんは早くショートランドに向かってください。ここは我々が引き受けます」
鳥海の言葉に漣は頷くと、そのまま夕張達と共に動き始めた。
天龍が袖で涙を拭う。その顔は怒りに染まれり、低い唸り声と共に軍刀を抜いた。
「てめえら・・・・・・許さねぇ・・・・・・」
天龍が真っ先に追手へと突っ込んでいく。
本来なら彼女の行動を咎める鳥海も何も言わなかった。
そればかりか、艤装を唸らせ、自らも後へ続く。
加古が。青葉が。衣笠が。古鷹までもが怒りに身を任せ、直進した。
漣は振り返らなかった。
後ろから雄叫びと爆音が何時までも鳴り響いていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
ショートランド近海で叢雲は逃げてくるであろう如月達を待っていた。
作戦失敗の報を聞き、気が気ではなかったのだ。
漣達がようやく近海に姿を現わした時、叢雲は安堵と共にその中に如月の姿が無いことに、疑問を覚えた。
合流し、如月戦死の報告を聞いた時。
叢雲は初めて、戦場で膝をついた。