艦隊これくしょん 鎮守府内乱編   作:あとん

47 / 62
如月の最期

 気づいたときには二人を突き飛ばしていた。

 提督がいると長門が言い続けてきた執務室に、提督はいなかった。

 長門が嘘をついていたこと、提督が現状鎮守府にほぼいないこと。この二つが分かっただけでも、今回の作戦には収穫があった。

 後はこのことを叢雲達に託せばいい。

 ショートランドで同志達と合流し、行方知らずとなった提督を探し出す。

 そのためには何としても追撃から逃れなければならなかった。

 だが、鎮守府の追撃は想像以上に激しい。手負いの自分を庇いながら逃げるのは、あまりにも不利な戦いであった。

 自分が足を引っ張っている。潮や鳳翔が大破した。普段ならあの程度の攻撃に被弾するような艦娘ではないのだ。

 状況はドンドン絶望的になっていく。

 全滅だけは避けなくては。そう思った瞬間、蒼龍の最後の攻撃が始まった。

 自分はこれを自力で回避できる体力など、残っていない。そればかりかこのままでは朧と曙も、道連れになってしまう。

 そんな考えが脳裏を過ぎった瞬間、如月は二人を突き飛ばしたのだ。

 二人の顔が見える。

 こちらを見て、朧が手を伸ばす。曙が名を叫ぶ。

 悲しそうな顔をしないで。自分が庇って皆が死ぬくらいなら、自分一人だけの犠牲ですむならそれでいい。

 覚悟は、とっくの昔に出来ている。

 ずっと昔、『如月』の名前を受け継いだ時から、自分は兵器だと心の奥で言い聞かせた。

 艦娘になって、御国を、人々を深海棲艦の手から守る。そのために命を賭ける。

 死などいつも隣あわせの存在だったのだ。

 だから後悔など無い。後は皆に任せた。

 上から何かが落ちてきた。

 目の前が真っ暗になり、何も聞こえなくなった。

 

 沈んでいく。 

 何も見えないし聞こえないはずなのに、はっきりとその感覚が分かった。

 それも徐々に消えていき、暗闇の中に自分が溶けて消えていくようだった。 

 皆は無事に逃げ切られただろうか。

 それだけが気になった。

 いや、もうよそう。

 後は叢雲達に託した。

 きっとどこかにいる提督を救い出し、鎮守府を再興に導いてくれるハズだ。

 また皆で笑える、そんな鎮守府を。

 ・・・・・・自分もそこに行きたかった。

 黒に染まった視界が晴れてきた。

 水平線が見える。その先。

 何かが見えた。

 島だ。見覚えがある。

 緑の生い茂る外観も、波が当たる波止場も、風に靡く旗も、全て知っている。

 あれは鎮守府だ。

 提督と、仲間達と。共に過ごした鎮守府だ。

 いつのまにか戻ってきたのか。いや、そんなハズはない。

 未練は無いと、自分に言い聞かせていたが、やはり心の奥底に心残りはあったのか。

 あそこに戻らなければ。

 あの旗の下、再び仲間達と戦うのだ。

 だが帰るべき鎮守府は徐々に遠ざかっていった。

 やはり、駄目か。

 せめて・・・・・・腹の奥から声が漏れ出た。

 

 ――如月のこと、忘れないでね・・・・・・

 

 瞳を閉じた。

 冷たく、重い何かが如月の体を包み込んだ。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

 不意に温かいものが、如月の体を包んだ。

 纏わり付いていた重いものが消え、体が軽くなった。

 誰かが自分を抱きかかえている。 

 驚いて目を開いた。

 目の前に知っている顔がある。

 ずっとずっと、待ち望んだ人の柔和な顔が、如月を見下ろしていた。

 

「司令官・・・・・・」

 

 声が漏れた。

 如月の言葉を聞いて、目の前の青年はにっこりと笑った。

 本物だ。間違いない。

 涙が溢れてきた。

 

「司令官・・・・・・あ、会いたかった・・・・・如月、会いたかったの・・・・・・」

 

 抱きついた。

 この人にもう一度、会う。そのためだけに同志を集め、長い時間をかけて準備をしてきたのだ。

 

 

「司令官・・・・・・もう離さない・・・・・・これからはずっと・・・・・・ずっと一緒よ・・・・・・」

 

 困ったように提督は笑った。

 優しく頭を撫でてくれる。海水で痛んでしまった髪を、愛おしげに撫でてくれる。

 それだけで嬉しかった。

 

「司令官ったら・・・・・・ありがとう、好きよ」

 

 如月の言葉に、提督はどこか悲しげに微笑んだ。

 そのまま提督は歩み始めた。

 何処に向かっているのだろう。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 大好きな提督と、これからはずっと一緒にいられるのだ。

 色んな話をしよう。これまでのことと、これからのこと。

 お話ししたい事は、山のようにあるのだ。

 

 もう体に纏わり付く闇も重さも、完全に消えていた。

 そればかりか、眩いばかりの光が二人を包んでいく。

 暖かい。まるで今の如月の心を現わしたように、幸せな暖かみだった。

 提督は如月を抱いて進んでいく。

 その先には光溢れる世界が広がっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。