如月の乱が収束した次の日、鎮守府には滝のような雨が降っていた。
真っ黒い雷雲が空を覆い、大きな雨粒が鎮守府中に降り注いでいる。
まるで天が泣いているようだ。
吹雪はそう思った。
早朝から吹雪は目を覚まし、窓の外を眺めていた。
毎朝、修行のためにランニングを行う。扶桑の元にいた頃からずっと続けている習慣だった。
こんな時にも、そう思う。
しかしこんな時だからこそ、やらなければならないとも思うのだ。
雨合羽を着込み、靴を履いて外に出た。
体に雨が容赦なく降り注ぐ。冷たい外気に思わず体がぶるりと震えた。
さあ、行こう。そう思い足を踏み出した瞬間、吹雪の目に異様な光景が飛び込んできた。
雨のグラウンド。その中央に幾つもの人影が見えた。
艦娘たちだ。大勢いる。
この悪天候の中、傘もささずに立ち尽くしている。
あまりの光景に吹雪は言葉を失ったが、よく見ると彼女たちが皆、古参の艦娘であることに気が付いた。
重巡と軽巡。明石や川内たちの姿も見える。
皆無言で立ち尽くしている。皆の先には崩壊した大本営があった。
如月の死を弔っているのか。それとも戦友を死に追いやった提督や長門へと抗議か。
誰もが雨に打たれながら、静かに立ち続ける姿に吹雪は寒気を覚えた。
怒りと哀しみ。その二つが混じり合った圧倒的な気迫が怒濤となって鎮守府の中を吹き抜けていく。吹雪はそのままその光景に目を逸らし、その場を後にした。
その日は一日中豪雨のため、復旧作業はほとんど行われなかった。
遠征や演習と行った通常任務も全て中止となり、艦娘たちは皆、如月の死を悼んだ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「それで、鎮守府は何て?」
ショートランド泊地の作戦本部。
今ここに、叢雲をはじめとしたショートランドの艦娘たちが集まっていた。
「反逆罪を犯した第七駆逐隊をショートランド所属の三川艦隊が庇ったことの説明を求めています。それと第七駆逐隊・三川艦隊の引き渡しも」
「・・・・・・如月のことは?」
「・・・・・・如月ちゃんは反逆者たちの首謀者の疑いがある。それだけです」
「そう・・・・・・」
叢雲は指揮艦の椅子から立ち上がり、傍らに置かれた槍を手に取った。
船のマストを模したこの槍は叢雲の艤装の一部であり、長年愛用したモノだ。それこそ如月と同じ部隊を組んだときから・・・・・・
「寝食を共にし、長年仕えた忠臣を死に追いやって・・・・・・それでいて、なおもその声明・・・・・・」
部屋には三本の旗が飾られている。
日章旗、旭日旗、そして鎮守府の旗。
「ならば、もう私達の行くべき道は決まったわね」
そう言うと叢雲は鎮守府の旗を切って捨てた。
「我らショートランドと鎮守府の――全面戦争よ」