扶桑が帰ってきた。
波止場で出迎えた山城は、二年ぶりに見る姉に抱き着きたい衝動の駆られたが、ぐっと堪えた。
周りには大勢の訓練生が集まっている。
大先輩、しかも歴戦の勇士である扶桑の姿を一目見ようとほぼ全て訓練生が、ここに集結しているのだ。
「お帰りなさい姉様! ああ、ご無事で何よりです……」
「うふふ、ただいま山城。我儘も言ってごめんなさいね。時雨も留守中色々ありがとう」
扶桑は柔和な笑みを浮かべ、山城と時雨に敬礼する。
それに対し山城は感極まりながら、敬礼を返した。
「ずっとこの調子でね。扶桑が帰ってくるのが嬉し過ぎて、朝からそわそわしっぱなしだよ」
「だって……二年も姉様に会っていないのよ? ようやく会えると思ったら嬉しくて嬉しくて……」
涙ぐむ山城に苦笑しつつ時雨は扶桑の後ろに控えている少女に目を向けた。
練習生125番。
あの扶桑が認め、直々に育てた少女。
時雨もこの少女のことは知っている。元々は志願して艦娘の穴に入ってきた子だ。
その頃の彼女は、驚くほど何も出来なくて、立ち振る舞いもどこか頼りなさげな印象があった。
だが、今、目の前にいる彼女は見違えるようだ。
いい目をしている。澄んだ瞳だ。
扶桑に大分鍛えられたのだろう。
尤も、大勢の出迎えに緊張しているのか、恥ずかしげにはにかんでいる。
まだまだ学ばなければならないこともありそうだ。
「姉様、海上移動は疲れたでしょう。ゆっくり休んで」
「大丈夫よ、山城。あの島とここは思ったほど離れていないの」
「いえ、既に帰還の祝宴が準備できています。姉様のために山城は手文庫を空にしました。本土から最上級の珍味と酒を用意したのよ?」
「あらあら」
困ったように笑うと扶桑は山城に手を引かれていく。
それを追って吹雪は歩き始め、ある方向から嫌な気配を感じた。
その方向を見ると、練習生の中で一際大きい少女が、こちらを見ていた。
規格外の大きさだった。
頭が二つほど周囲より出ている。
顔も厳つく、それでいて不敵な笑みを浮かべこちらを品定めするように見ていた。
あの子が自分の対戦相手か。
吹雪はほとんど直感でそう感じていた。
「大丈夫かい?」
時雨が尋ねた。
「え……あ、ああ、はい、大丈夫です!」
びしっと敬礼する吹雪に、時雨はぷっと噴き出した。
「そこまでかしこまらなくてもいいよ。これから宴会だ。おかえりなさい、扶桑の酒宴だ。君も来るといい」
「はいっ」
そう答えると、吹雪は時雨の後を歩いて行った。。
その後ろを他の練習生たちが付いてくる。
いつの間にかあの巨大な練習生の姿は見えなくなっていた。