第五遊撃部隊の出撃は、連合艦隊の後になるという話だった。吹雪はそれを聞き、睦月の元へ向かうことにしたのだ。
睦月は榛名の隊でこの鎮守府の防衛に回ることになっている。夕立はリンガ救援部隊の第一陣として、先程抜錨していったばかりだった。
たった六人でトラック救援に向かう。それを知った時、吹雪は言い様もない不安に襲われたのだ。パラオを経由していくとは言え道中には危険が多い。深海棲艦がいつ湧いてくるか分からないのである。吹雪が未だに深海棲艦と交戦していないことも、不安へと繋がった。
「吹雪ちゃん!」
睦月はいつもの場所に座っていた。
「どうしたの? もう出撃するって聞いていたけど」
「うん。直前で変わったんだ。リンガでも反乱が起きたんだって。トラックには私達だけが行く」
睦月は不安げに俯いた。
ショートランドとトラックは共に古参が配置されている。それ故に激戦になっていると噂されている。そこに向かうという事は轟沈の危険があるということだった。
「・・・・・・如月ちゃんがいれば、皆を止めてくれるのに」
睦月の絞り出すような声に、吹雪は思わず目を伏せた。
彼女は未だに如月の帰りを待っているのだ。
だがそれは誰にも責められない。
如月がかつて愛していたと言われる場所には、未だに多くの艦娘が現れるのだ。
確かに如月がいればこの戦いは止められるかもしれない。だがその如月が死んだことによって、この戦争は始まったのだ。
艦娘同士の戦い。
そんなことが始まった事を知ったら、天国の如月は何と言うだろうか。
「睦月ちゃん。私もすぐに出撃するんだ・・・・・・えっと・・・・・・だから」
吹雪は言葉を詰まらせた後、睦月を抱きしめた。
「鎮守府を頼むね」
しばし、静寂が流れた。
睦月が震えている。いや、自分か。あるいは両方か。
如月が死んだ。どんなに強い艦娘も簡単に死ぬ。ひどくあっさり、淡々と。それが戦争だ。そのことを新兵達は如月の乱で理解したのだ。それでも行かなければならないのだ。艦娘は軍人である。秩序と平和を守るために、戦いに行かなければならないのだ。
夕立は笑って出撃していった。吹雪もそうしたかったが、やはり難しかった。
気が付くと涙が溢れていた。それは睦月も同じようだ。
少し経って、二人は離れた。
互いに涙を拭い、顔を上げたときには二人とも笑顔だった。
「じゃあ・・・・・・また、三人で」
「うん、いってらっしゃい」
吹雪は手を挙げて言った。睦月も大きく頷いた。
第五遊撃部隊が待機している場所は港の近くにある待機室のハズだ。吹雪はその方向へと歩いて行った。
「吹雪ちゃん!」
睦月に呼ばれ、吹雪は振り返った。
「はりきって、まいりましょー!」
大きく拳を振り上げて、叫んでいた。
吹雪はその激励に笑顔で返した。
「吹雪、頑張ります!」
必ずここに帰ってこよう。
そう誓って、吹雪は駆け出した。
第五遊撃部隊の旗艦は金剛がするということになった。
尤も、あくまで仮の話である。
個々人が強烈な個性を持つ第五遊撃部隊は、誰が旗艦になっても揉めるのは確実だった。
そこで最年長の金剛が便宜的に旗艦をするということになったのである。
皆、無言だった。
陽気な金剛ですら、表情を硬くしている。
「第五遊撃部隊、出撃開始して下さい」
大淀の声が聞こえてきた。
「・・・・・・私達の出番ネ! Follow me! 皆さん、本気でついて来て下さいネー!」
金剛の号令と同時に、皆が艤装を纏って海へ向かっていく。
吹雪も己の艤装を装備し、海原へと突っ込んでいった。
潮の匂いが鼻腔をつく。吹雪は旗艦である金剛の護衛が主な役目だった。なので金剛の横について進んでいく。
不意に吹雪は後ろを振り向いた。
鎮守府はすでに、遠くなっていた。