必ず完結までは行きますのでどうかよろしくお願い致します・・・
トラック泊地を守るのは軽巡・五十鈴だった。
五十鈴は軽巡最古参であり、最初期から水雷戦隊で戦っていた歴戦の艦娘である。
大規模作戦では第二遊撃部隊の旗艦を務め、真面目で面倒見が良い所から多くの艦娘に慕われていた。
指輪持ち達に次ぐ影響力を持ち、単機としての実力も高く、指揮艦としても優秀・・・・・・そんな五十鈴がトラックを守っていた。
五十鈴は信頼できる長良型姉妹と数人の駆逐艦で部隊を編成し、演習に余念が無かった。
ショートランド・パラオに比べれば人数は少ないが、その分少数精鋭。幾つかの小島に囲まれているという地理的優位性もあり、叢雲や初春もトラックを迂闊に攻めきれなかった。
このトラックが鎮守府にとっても反乱軍にとっても、重要な拠点となっていた。
如月戦死の報が届いたとき、五十鈴はすぐに長良型の姉妹たちを集めた。
既に如月の事を聞いているのか皆は瞳に涙を馴染ませ、怒りの表情を浮かべている。
「五十鈴ねえ、如月が・・・・・・」
「ええ、聞いているわ。未だに信じられないけど・・・・・・」
五十鈴は勿論、ここにいる長良型姉妹全員が如月と親交があった。
特に五十鈴は鎮守府黎明期からの仲で、長年の戦友である。
「納得できないよ、鎮守府は・・・・・・提督は何をやっているの!」
「由々しき事態だよ、ね・・・・・・五十鈴ちゃんはどうする気?」
長良と由良に詰め寄られ、五十鈴は深く息を吐き出すと懐から封筒を取り出した。
「勿論、このまま黙っているわけはないわ。如月の無念を果たす。でもそれには準備しなければいけないわ」
封筒から一枚の書状を五十鈴は取り出していく。それを拡げるとそこには鎮守府に対する抗議と、情報開示を要求する正文が書き記されていた。
「鎮守府に直訴する。ただ、五十鈴達だけじゃ駄目ね。隣の叢雲と初春にも協力して貰う。長月にも一応、頼んでみるつもりよ」
艦娘の中でも影響力の強い者たちと組んで、鎮守府を直訴する。五十鈴のやろうとしていることは、かなり真っ当な抗議の方法であった。
五十鈴が予想外だったのは、叢雲と初春が既に秘密裏に反乱の計画を進めてきた事である。
叢雲の決起と反乱への参加を誘う電報がショートランドから届いたのは、彼女が準備を進めている最中だった。
「馬鹿ね。どんなに正当な理由があろうと、武力に訴えた時点で反逆者の汚名は避けられないのに・・・・・・」
それが叢雲達への、五十鈴の評価であった。
すぐさまショートランドは挙兵した。鎮守府へ最短で進軍するには、トラック泊地は避けては通れない。
叢雲はトラック泊地の領海を通過することを五十鈴に通告したが、当然五十鈴は拒否した。
五十鈴はすぐに籠城を決めるとすぐに鎮守府とパラオに救援を要請した。このとき、パラオの初春は表面上反乱に加わっていなかったのである。尤も、叢雲と初春の仲を知っている五十鈴は、パラオを信用していないようだった。
パラオの救援は考えないものとする。
あくまで鎮守府本部からの救援まで籠城するというのが、五十鈴の主張であった。
すぐにトラック泊地の艦娘達は行動を開始した。
数はトラックに劣る。そのためトラック諸島の地形を生かし、防戦主体の戦いを行なう腹づもりであった。
まず、最初に航空部隊の艦載機が襲いかかってきた。
ショートランドに合流した翔鶴。また龍驤・隼鷹の部隊もそれに続いた。
まず航空機で攻撃し、その直後水雷戦隊を差し向けて一気に攻略する。それが叢雲の狙いのようだ。
防空は五十鈴の得意分野だった。
トラックの対空砲台をフルに活用し、航空隊を迎え撃つ。
「対空ーっ!」
五十鈴の号令と共に磯風と谷風が対空砲を放つ。轟音が空に炸裂し、黒煙と共に爆撃が始まった。
「全部撃ち落とす必要は無いわ! 中心だけを落とせば、爆撃はばらける!」
「五十鈴さん! 敵影や!」
浦風が叫んだ。水平線の向こうに敵影が見える。
「砲台を使いますか?」
「いえ、砲台は全部対空に回すわ。下の敵には・・・・・・」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
トラックに迫るのは虎の子の三川艦隊だった。
先頭を切るのは切り込み隊長と恐れられる天龍。
航空部隊の爆撃の直後に白兵戦をしかけ、さらに第二航空戦隊と同時に一気にトラックを攻略する作戦であった。
「出来るだけトラックと五十鈴達を傷つけずに攻略しろっていうがよ・・・・・・」
天龍は思わずぼやいた。
五十鈴の実力は嫌と言うほど知っている。トラックが重要地点であるのは勿論だが、五十鈴が反乱に加わればそれだけで一気に多くの艦娘達をこちら側に取り込める。
「だからといって手加減できる相手じゃねえぞ」
そんな愚痴をこぼしながらも、天龍達が主砲を構えた時であった。
トラックから人影が現れた。
「・・・・・・阿武隈!」
天龍が舌打ちし、後続に続いていた艦娘達もざわついた。
長良型姉妹の末妹・阿武隈は軽巡の中でも指折りの実力者だった。さらにその後ろには姉の鬼怒。磯風と浜風が続いていた。
「甲標的が来るわ、気を付けて!」
鳥海が叫ぶのと同時に水面下を這うような阿武隈の初撃が襲ってきた。
瞬時に舵を切り、回避行動に移る。大きく弧を描いて海面を動く三川艦隊の面々に阿武隈は待っていましたとばかりに、砲撃を加えていく。
「皆、攻撃だ! いっくぜー!」
間一髪攻撃を回避した天龍が、反撃に転じた。
人数的にはショートランド側が有利だが、トラックは少数精鋭の機敏さで必死に食い下がっていく。
激しい撃ち合いが続く中、航空隊の第二波攻撃が始まった。
この爆撃が終わる頃には何とかトラックに張り付きたい。
そう考える三川艦隊であったが、近づけば撃ち離れれば防御に徹する阿武隈達に苦戦する。
「くそ・・・・・・俺が一気に道を作るから、皆はそこを突け!」
勢いよく抜刀し、天龍が身構えた瞬間であった。
全く別の方向から、砲撃が加えられる。
驚き、天龍が向いた先に新しい機影が浮かび上がった。
「い、五十鈴!」
この時、五十鈴は長良と共にトラックを打って出たのである。
二人は一直線に三川艦隊に迫りながら砲撃を加えていく。そこに阿武隈達が別方向から迫るのである。
「翔鶴さん達は何を・・・・・・」
航空部隊も苦戦を強いられているようだった。
防空を指揮しているのは、由良と名取で防空戦の得意な谷風らが奮戦していた。
「阿武隈、ご期待に応えます!」
一瞬の隙を突いて阿武隈が突貫する。狙いは一番槍の天龍だった。
「このっ・・・・・・!」
接近する阿武隈に砲撃が集中する。が、それを紙一重で回避しながら阿武隈は天龍の懐まで潜り込んだ。
一閃――天龍の一太刀が宙を切り、阿武隈が思いっきり主砲を放った。
破裂音と共に天龍の体から黒煙が上がり、体が大きく揺れる。
「天龍っ!」
加古が咄嗟に天龍に近づき、その体を引っ張った。阿武隈は既にそこを離脱し始めている。
「・・・・・・退却!」
鳥海が苦虫を噛みつぶしたような顔で叫んだ。
航空部隊も被害が甚大なようだ。
やはりトラック。そして五十鈴。一筋縄ではいかないようだった。
阿武隈達も追撃はしないようだった。彼女達はトラックを守れればいいのだ。深追いする理由はないのである。
鳥海は歯がみしながら、撤退していく。
爆撃で炎が上がるトラックを尻目に、三川艦隊はその場から離脱していくのだった。
「これが五十鈴の籠城か」
ボロボロになった天龍を抱えながら、加古はそう呟くのだった。