高遠遙一は、地獄の傀儡師となりえるのか   作:wisterina

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第七話『組み合わせ』

 前夜祭が開始するニ十分前になると、マジック部の部室には顧問である姫野先生を除いた部員たちが勢ぞろいしていた。

 一年である高遠と霧島を除いた先輩たちはソファーに座って、テーブルの上に広げたローテーション表を組んでいた。講堂で行われるマジック部のショーが公開されるまでの間、展示物を見守らないとならないのである。しかし、マジック部の展示物はマジックショー自体であり、部室にはこれまでの活動記録と藤枝が学生マジックコンクールで優勝したときの新聞の切り抜きが貼られたA4用紙一枚だけ、なので実質的には各部員のマジックの最終調整がメインである。

 しかし、全員がこの狭い部室でお祭りを差し置いてカンヅメにされるのは暴動ものであるから、六人の部員のうちの二人が祭りを謳歌できるように先輩たちが頭をひねっているのだ。

 

 高遠の予想では、全体準備をしていた一年生が先に自由時間を与えられると考えていた。その次に二年生の藤枝と黒江。そして三年の片倉部長と荒木田副部長の順番。この順なら、一番に考えが浮かびやすい逆年功序列型で最も合理的である。むしろこの順番こそが最も高遠の望んでいる順番だ。

 同じ一年である霧島の行動を監視できて、藤枝と引き合わせることがないケース。しかも高遠自らが一緒に巡ろうと声をかければ、霧島は藤枝に対しての動きが取れない。トイレでさえも連れしょんとでもすれば問題がない。

 

「高遠。どこから巡る? 俺さっきの自由時間に地図に線を入れてどこを巡るか考えていたんだ」

 

 霧島が秀央高校指定である黒のズボンのポケットから四つ折りにした緑の紙を高遠に広げてみせた。緑のわら半紙の上でもはっきりとわかる赤の線で校舎から校庭までの順路を引き、『ゼッタイ』という赤文字で各部活の出し物コーナーに矢印をつけている。 

 

「俺なりに期待できそうな所をピックアップしたんだ。登山部に所属している友達から試食の焼きそばを食ってみたらなかなかいけてさ。早くいきてえなぁ~可愛い子いるかな~」

「フフッ、本祭の明日にならないと他所の人たちは来ないよ。みんな顔見知りばかりだ」

 

 秀央高校の五月祭は、外部の人たちが入れるのは翌日の本祭からで前夜祭は学生や親類ぐらいしか入れないことになっている。その事実を知らなかった霧島はちぇっと舌打ちしてがっかりした。

 

「けど、人の少ない今日ならここは意外と人がいなくて見ものらしい」

 

 高遠が指した場所は、マジック部がある校舎の一階の隅の部屋。そこには『女子更衣室』と書かれていた。

 霧島は高遠が何を言わんとしているのか察したようで、にんまりと両口の端を上げてサムズアップする。

 

「サンキューな高遠。俺たちは親友だ」

「二人ともおしゃべりは厳禁だよ。もしかしたら組み分けが変わるかもしれないよ」

 

 黒江が後ろの後輩二人に注意する。霧島は「またまた~」と冗談のようにとらえていたが、片倉部長の一言でそれが現実になった。

 

「う~ん。マジックの練習をするなら、学年ごとでのローテーションは少し見直した方が良いかな」

「そうですね部長。特に霧島君はまだ人前に見せるには粗削りですから二年生と三年生でみっちりと調整させたほうが良いと思います」

 

 藤枝も片倉部長の意見に賛成して、細い指先に消しゴムを持ってさっきまでシャープペンシルで書いていたローテーション表を消していく。

 

「だから女王様なんだよ」

 

 本来ならば副部長である荒木田が反対か賛成かに意見を述べるはずが、権力のない二年生部員にもかかわらず自ら率先して動く藤枝に黒江が小さく藤枝に毒を吐くが、話は変わらず高遠の想定していた順番から変更されていく。

 予想が外れたか。だがまだ修正ができる範囲内だと高遠は表情を崩さずに頭の中で予定を組み立てなおす。

 そしてようやく口を開いた荒木田が遅い同意見を出した。

 

「まあ確かに霧島の腕だと会場の前で失敗する可能性があるよな」

「人のこと言えないだろ。むしろ毎回披露しては失敗している常習犯はお前の方だろ」

「タッハ! こりゃごもっともで」

 

 荒木田は手を後頭部に持っていき大きく口を開けて笑ってタッハ節を繰り出すが、片倉部長は細い目が線になるほど目を細める。

 

「それじゃあ一人がマジックして、二人がそれを別の方向から見てアドバイスする。で、残りの二人か三人かが休憩に回るというのはどうですか?」

 

 藤枝が別案を提案したが、後者の三人体制はあっさりと否決された。二対一でマジックを見る以上、誰か一人は部室の展示物の見張りと来客対応しないとならないからだ。結局二人が二時間ずつで十六時までローテーションを組むということになったが誰と誰が行くかということが争点になった。

 先に最初の居残り組決定となったのは実力不足の霧島と荒木田だった。そして残りの二人となったとき、高遠は焦りを感じた。ここで藤枝を自分とのペアに組ませないと自分の目が届かない範囲に入り、マジックは瓦解して霧島が凶行に走ってしまうからだ。

 残りの二人を誰にするか上級生組も頭を悩ませていた。終いには黒江が鉛筆をもって運否天賦にする方法まで持ち出してきた。

 

「じゃあ残りは鉛筆でも転がして決める? それともじゃんけんでもする?」

「う~ん。公平だがそれで納得するか……」

 

 このままでは、予定が天運という不確実性の塊のせいで狂ってしまう。それだけは避けたいがため高遠は挙手して初めて発言した。

 

「あのすみません。実は希望の時間があるのですが。ほかの先輩方も僕と同じように希望する時間帯で相談しあうというのはどうでしょうか」

「そうか。他のみんなは希望の時間とかあるか?」

 

 片倉部長が高遠の希望時間帯案を飲み、高遠は内心ほっとした。そして高遠のマジックを応援するかのようにツキが回ってきた。

 

「じゃああたし最初がいい」

「僕も最初の時間でお願いします」

 

 藤枝が先に手を挙げて希望の時間を告げたと同時に、間髪入れず高遠も同じ時間にねじ込んだ。藤枝が先に希望時間を告げてくれたおかげで後追いで同じペアになった。予定が変わったが、これで藤枝と霧島が同じペアになるという可能性はなくなった。他の組も次々に決まり、すっかり書記の地位に収まっている藤枝がローテーション表に書き込む。

 最初の二人が部室から出る。次の予定では、高遠から藤枝に声をかけて祭りを巡るという算段であった。万が一霧島がトイレなどの名目をつけて部室から離れて藤枝に犯行を及ぶ可能性は十分にあるからだ。

 

「高遠君、祭りどこから巡る予定?」

 

 藤枝からの質問に高遠は少々目線をそらした。

 すでにマジックの仕掛けは全体準備の後の自由時間で済ませておいたため、後は時を待つだけで特にこれといって向かう予定の場所はなかった。昨日見ていた地図も昨日マジックのためだけに場所を見ていただけで、屋台とか出し物とか一切頭になかった。

 高遠は必死に思考を巡らせたが、頭に浮かんだのが先ほど霧島が言ってくれた焼きそばぐらいしか思いつかなかった。

 

「そうですね。登山部の焼きそばに行ってそれから……音楽室でピアノでもと」

「せっかくの五月祭なんだから他に行きたい出店とかないの?」

「すみません」

「すぐに謝る。じゃあ、あたしと一緒に祭りを回りましょ」

 

 藤枝が高遠の手をつかんだ時、これは好都合であった。姫野先生から孤独であると言われている高遠が自ら声をかけるより、藤枝の方から誘う方が自然であるからだ。

 

「ほら、早くしないと時間なくなっちゃうわよ」

 

 高遠の思惑を露知らず、藤枝は高遠の手を引いて祭りの会場へと向かっていく。その背後で、昨日と同じくチッと舌打ちする音が聞こえていた。

 

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