たとえ咲かない花だとしても   作:北間 ユウリ

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 続かせました。新しく登場する人形を決めあぐね、気付いたら3日経ってたみたいです。


File.3

 

 途端に、世界が色褪せた。

 

 この辺り? いえ、もう少し上。あ、ちょっと行き過ぎ。はい、そこで止めて。

 風は? ほぼ吹いてない。だから、少し右に修正。

 タイミングは? 今。

 

 カチリ。当たった。

 

 色が戻った。

 

「100点に命中。流石ね」

 

 左から声が聞こえた。そう言えば、同僚に観測手を頼んでいたのだった。

 

「それ、胴体に当たったってこと?」

「そうだけど?」

「なら外してるわ」

「どういうこと?」

 

 観測手、Five-seveNが、おかしなものを見るような目をしながら聞いてきた。確かに、100点に当てておきながら外れたとは意味が分からないだろう。

 だが、それではダメなのだ。何故なら、

 

「私、頭を狙ったの。人間なら胴でもいいけど、私達の敵はソコじゃ止まらないでしょ?」

 

 だから、外れてるのよ。

 

 なるほどねぇ、と納得した様子のFive-seveNを余所に、ライフルを片付ける。今訓練したところで、変な癖が残るだけだ。

 

「1000mで当てるだけでも凄いと思うけど」

「ライフルなら当たり前よ。寧ろ、相手が動かないなら外す方が難しいくらいね」

「ふーん、そうなの。それで、今日は一発でおしまい?」

「私、感覚派なの。変な癖が付いたりしたら、直すの大変なのよ」

 

 修復して3日経つが、未だに左腕には違和感が残っている。この状態で当たるように調整しても、慣れた頃にはまた外すようになってしまう。それならやらない方が良い。

 

「ふーん。私にはあんまり分かんないわね」

「ちっ。これだから天才って奴は……」

 

 舌打ちしてからライフルケースを担ぎ、未だに双眼鏡で的を見ているFive-seveNに声を掛ける。

 

「私は戻るけど、アンタはどうすんの?」

「んー、アタシはもうちょっと居るわ。何だかアタシも撃ちたくなっちゃった♪」

 

 そう言って、彼女はホルスターから彼女の名の元となった銃を取り出した。

 ふふーんと鼻歌を歌い出した彼女に背を向けて、出口に向かって歩き出す。

 

「じゃあね」

「調子が戻ったらまた呼んでね~」

 

 挨拶を交わして、射撃場を後にした。

 

 

 

 データルームには、過去の作戦記録が全て保管されている。許可さえ取れば自由に閲覧できるため、新しく配属された人形の多くは、閲覧することでこの基地での闘い方を学習する。

 私がデータルームを訪れたのは、過去に参加した作戦を振り返り、イメージトレーニングを行うためだ。狙撃訓練が出来ないなら、過去を追体験するのが有意義な訓練になると私は考えている。

 指揮官が見つからなかった為、カリーナに許可を貰い、私はデータルームに入った。どうやら先客が居るらしく、既に部屋には電灯が点いていた。

 一応挨拶をしておこうと、その姿を探すと……

 

「……指揮官!?」

 

 散らばった書類の上に突っ伏したまま、ピクリとも動かない指揮官の姿を見つけてしまった。最悪な想像が脳裏に浮かぶ。急いで駆け寄り、その小さい身体を揺らして声を掛ける。

 

「ちょっと、大丈夫!? ねぇ、ねぇったら! 起きて、起きなさい!!」

「……うる、さい……」

 

 ぼそりと、小さくだが確かに声が聞こえた。そして、ゆっくりと顔を上げる。ちゃんと生きていた事に、ほっと安堵の息を吐く。

 

「良かった……」

「荒く起こされた私は、ちっとも良くないんだけどね」

 

 睡眠を邪魔され、不機嫌らしい指揮官が頬を膨らませた。怒ってますと表現したいのか、目を細めて睨んでいるが、迫力は無い。

 

「そもそも、どうして死んでるなんて思ったの? 普通、寝てるって考えるでしょ」

「だ、だって、貴女、ピクリとも動かないから……」

「……そんなこと、とっくに知ってるでしょ」

 

 拗ねたように彼女は言うが、私はそんなこと知らない。そもそも、指揮官が寝ている姿を見たのも今日が初めてなのだ。

 だが、そう言ったら彼女は更に機嫌を悪くするだろう。今回の事は、落ち着いて対処しなかった私に非がある。

 なので、話を逸らすことにした。

 

「そ、それで! 貴女、ここで何してたの? そこに散らばってる書類は何なのよ?」

「……これ? これは作戦記録だよ。だいたい、3ヵ月くらい前からの」

 

 そう言って、彼女は散らばった作戦記録を片付け始めた。盗み見れば、確かに3ヵ月前の日付が記されている。ただ、全てではないようで、幾つか抜き出していたらしい。

 その日付と作戦内容を見て、それが私の目当ての物でもあることに気付いた。

 

「それ、そのままでいいわよ。私も見るから」

「えっ?」

「それ、私も参加した作戦の記録でしょ?」

 

 空気が凍った。

 驚きと、怯え、だろうか。

 彼女の表情に、そんな色が現れた。

 

「私、目が良いの。この程度の距離なら、小さな文字でも見えるわよ」

 

 だから、驚き「は」解消する。怯えは、その理由が分からないから。

 

「そう言えば、カリーナが探してたわよ。何か話があるみたい」

「……うん、分かった。それじゃあ、これの片付け、よろしくね」

 

 そう言って、指揮官はデータルームを出た。その姿を見送って、机一面に散らばった作戦記録を一つに纏める。

 

「……これ、数時間で読み終わる量じゃないわよ」

 

 分厚い本を数冊重ねたかのような紙の山を前に、ぼそりと呟いた。

 もし、私のように追体験をするなら、それこそ3日掛けてやっと終わるか、というところだろう。

 変な想像を頭を振って追い出し、山から適当に数枚の作戦記録を抜き出す。

 

 そうして一つ一つ、時間を掛けて読み返した。

 

 




 読んでくださり、ありがとうございます。

 次も遅くなるでしょう。きっと。
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