つ づ い た。
今回前後編構成です。筆がのっちゃったからね。
後編はお待ちください。
深く、鋭く息を吐く。
憎たらしいほどに輝く星を見上げ、普段に増して明るい夜空を睨む。
「……こんな日に光ってるんじゃないわよ」
毒づいたところで星が消えるわけでもなく。
視線を下ろし、周囲の警戒を再開した。
そもそもの発端は、作戦司令部が奇襲された事に始まる。
その作戦は本部直々の辞令だったらしく、普段は通信によって司令室から指揮をしている指揮官が戦場に同伴することとなった。
別に、それは珍しい事ではない。重要な作戦であれば彼女は自ら戦場に赴いたし、過去に何度か本部の命令で同じような事はあった。
ただ、今回は「おつかい」と揶揄される作戦だったのが災いした。戦力をほぼ前線に投入し、司令部には数体しか人形を残していなかったのだ。
鉄血の奴らは本体とは別に、別動隊を編成していたらしい。たった数体だけだったとはいえ、作戦を終え、帰還準備を始めていた私達の不意を突くには十分だった。
指揮官の咄嗟の指揮で司令部を放棄、バラバラに別れて難を逃れたものの、合流地点を定めてなかったため、日が暮れても合流する事が叶わなかった。広域通信を使うという手段もあったが、他の皆がどんな状況にあるのか分からないため、使うのは控えた方がいいと判断した。
私達の状況は先に帰還した本隊からグリフィンに伝わっているだろうが、救助が来るのは早くても明日になるだろう。夜間の行動は非常に危険だからだ。
つまり、一夜を明かす場所を確保する必要があった。それは、同伴者の為にも必須なことであった。
「……指揮官、まだ歩ける?」
「うん……、大丈夫……」
指揮官は、何とかそう言った。体力の限界が近いのだろう。かなり体の揺れが大きかった。
司令部から撤退する際、指揮官も誰かに着いて逃げる必要があった。あくまで人間である彼女には、鉄血と闘う手段が無いからだ。
他の人形が敵奇襲部隊に牽制している中、彼女を連れ出す役目を命じられたのは、彼女に一番近かった私だった。
急いでライフルを背負い、彼女を横抱きに抱えた私は、真っ先に司令部を飛び出した。
そのまま全速力で距離を稼ぎ、ある程度離れた所で彼女を下ろし、仲間と合流するために歩き始めたのだが、やはりまだ年若い人間の少女にはかなりの負担だったのだろう。
「辛くなったら言いなさいよ。背負ってあげるから」
「……大丈夫。ワルサーは、警戒を、お願い。私は、気に、しないで……」
そう言って、彼女は弱々しく、強がりの笑顔を浮かべた。
無理をしているのは分かっている。しかし、ここで彼女を背負えば、いざというときに動きにくくなることを彼女も分かっているのだ。だから、気丈に振る舞おうとする。
だから、彼女の負担を少なくする速度で、しかし急いで休める場所を探した。
日が完全に落ちる少し前にようやく見つけたのは、放棄された何かの倉庫だった。所々朽ちてはいるが、一晩過ごすには問題は無いだろう。
中を覗いてみれば、空の木箱が幾つか転がっているだけで、何か有るわけでは無さそうだった。少なくとも、ここ最近に何かが居たわけではなさそうだ。
「……大丈夫そうね。ここで休むわよ」
「……やっと、着いたぁ……」
疲労の限界だったのか、倉庫の壁に手をつき、よろよろと座り込む指揮官。
そんな彼女を抱き上げ、私は倉庫の中に入った。
「ほら、もう少し頑張りなさい。休むならちゃんとした所じゃないと」
「……うん」
かなり疲れているのだろう。指揮官は、微かに頷いて、そのまま黙ってしまった。
仮眠室を見つけ、中に入ってみれば酷いものだった。シーツの殆どは虫食いが酷く、ベッドは脚が折れていたり曲がっていたりと散々だった。
その中から比較的マシな物を選び、何とか及第点のベッドを用意した。
「基地のベッドよりは固いでしょうけど、休めない程じゃないわ。ま、我慢しなさい」
「……ううん。ありがとう」
横になった指揮官は、お礼を言って、微笑んだ。
しかし、ベッドが自分の分しか無いことに気付いたのだろう。手を伸ばして、私の服の袖を引く。
「ねぇ、ワルサーのベッドは?」
「あのねぇ、ここは敵地なのよ? 見張りも無しに夜なんか明かせるわけないでしょ」
「でも、ワルサーも寝なきゃ……」
「いい? 私は人形なの。一日寝なかったとしても、何の影響もないわ」
できるだけ優しく彼女の指をほどき、ベッドの上に戻す。
「寝る前に、私に命令しなさい。そうしたら、絶対に貴女を守ってみせるから」
彼女の目を見つめ、優しく言い聞かせる。しばらく見つめ合い、やがて彼女はこくりと頷いた。
「……ワルサーWA2000に、倉庫周辺の見張りを命じます。敵については、自身の判断で対応。私の判断を仰ぐ必要はありません」
よっぽど疲れていたのだろう。他の人形と同じように私に命令した後、指揮官はすぐに眠った。ピクリとも動かないが、呼吸の音だけは薄く聞こえた。
彼女に一枚残しておいた無事なシーツを掛けてから、私はライフルを持って倉庫の屋根に登った。既に日は落ち、周りは暗くなっていた。
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