WA2000と誓約したので、番外編です。
File.Extra [Wedding]
あちこちが崩れ落ち、原形を想像することも難しくなった、レンガ造りの建物。
そこらにある廃墟と同じく人に捨てられ寂れたそれが他の廃墟と違うように感じるのは、そこが元々は神聖な場所だからだろうか。
私の目の前にある廃墟は、かつて神の家と呼ばれた建物だったらしい。この辺りの昔の地図がたまたま残っていて判明した事実だ。
放置されて長い年月が経ったのに未だに朽ちていない木の重厚な扉を引いて開けると、花畑が広がっていた。両側の壁は無いに等しく、扉と反対側の壁が奇跡的に形を保っているという有り様。天井などあるはずもなく、扉が無かったら、そこが建物の中だとは思わなかっただろう。
花畑の中に僅かに残っている通路を通り、反対側の壁まで歩いてみる。床までレンガ敷だったのか、靴がコツコツと音を立てた。よく観察してみると、少しだけ赤い布があることが分かった。
十数mを時間をかけて渡りきり、段を一歩一歩登って、壁の前に立つ。
少し見上げると、大小様々な色ガラスで作られた大きな窓が目に入った。所々割れてはいるが、それは赤子を抱く女性のように見える。
鳥が飛び立つ音を聞いて振り返る。
私を此処に呼び出した人がーー指揮官が、そこに立っていた。
「遅かったわね。自分で呼び出しておいて待たせるんじゃないわよ」
本当はそんなに待ってはいないのだが、照れ隠しでついそんなことを言ってしまう。
だが、指揮官も照れ隠しであることは分かっているようで、スカート部分を摘まんで、少し笑いながらも上品に礼をする。
「お待たせして申し訳ありません、お嬢様。なにぶん、ドレスの着付けには疎いものでして」
「お嬢様はどっちよ。富裕層へのご機嫌取りで何度も社交パーティーに出てるくせに」
私がそう返すと、指揮官は口を手で隠してふふっと笑った。そんな仕草すら今の彼女には似合い過ぎていて、私は少しだけ目を逸らした。
今の私達は、いつもの服装ではない。私はいつかのパーティーで着た黒のドレス。ヒラヒラとしていて落ち着かないが、持っている中では一番それっぽい服だった。
それに対して、指揮官は白を基調とした、私のものと似たようなデザインのドレスを着ている。腕には同じ色のアームカバーをしていて、機械の腕を隠しつつ彼女の魅力を引き立てていた。
指揮官はゆっくりと段を上り、私の前に立った。そして、微笑んで、
「ワルサー、綺麗だね」
と言った。
不意打ちだったので、妙にどぎまぎとしてしまい、
「アンタもね」
と、昔のような呼び方で返すので精一杯だった。
しかし、それが指揮官のヘンなスイッチを入れてしまったようで、彼女はとてもいい笑顔を浮かべた。
「赤くなった顔も可愛い」
「うるさい」
「目を逸らすのも可愛い」
「うるさい」
「照れると私を昔みたいに『アンタ』って呼ぶの可愛い」
「うるさい指揮官貴女これで満足か」
「ずっと私の面倒を見てくれていたことが可愛い」
「うるさい」
「ずっと側に居てくれたことが可愛い」
「うるさい」
「結婚してください」
「……うるさい。聞かなくても分かるでしょ、ばか」
右手を差し出す。薬指に、彼女の手で指輪が嵌められる。
彼女と目が合う。胸の辺りが暖かくなって、自然と微笑みが浮かんだ。二人で、手を繋いだまま、笑った。
そして、指揮官は私の左手を引き寄せ、私を抱き寄せて。
そっと、私の唇に口付けをした。
ほんとうのほんとうに、しあわせです。