お姉ちゃんだけど妹みたいな人   作:岸雨 三月

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7月7日の夜に

私にとって大事な人が目の前から消えるのは、いつも突然のことでした。

お母さんのこと。

うさぎになってしまった、おじいちゃんのこと。

夏の始まりのこの日が来るたび、私はいなくなった人に思いを馳せてしまいます。

天の神さまに引き裂かれた星同士は、それでも1年に1度は会える訳だけれども。

人の世界と星の世界に隔てられたら、もう二度と会うことも出来ません。

 

悲しみから明けたあの春に、風のように突然現れたあの人。

私にとって隣にいるのが当たり前になりつつある、あの人も――

いなくなる時は突然なのでしょうか?

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「えっ? ココア、七夕のお願い事、したことがないのか?」

 

じんわり汗ばんで制服のシャツが肌に貼り付くような、7月のある日のことです。私がいつものように学校を終えてラビットハウスに帰ってくると、ココアさんとリゼさんが何やら話をしていました。

 

「うん、私の実家のほうでは、七夕の習慣ってあんまり無かったからねー。テレビで見たことしかないや。たしか、短冊に願い事を書いて、魚の頭を枝に刺したやつにぶら下げて家の門の前に飾るんだっけ?」

「まてまて、違うイベントと混ざっておかしなことになってるぞ……。短冊は竹にぶら下げるんだよ。本当に、七夕やったことがないんだな。でもココアは去年もこの街にいただろ? 去年はやらなかったのか?」

「……ココアさんは去年は期末テストの追試に追われていてそれどころじゃなかったんですよ」

「おうふっ! どこからともなく現れたチノちゃんからの鋭いツッコミが!」

「いつの間に帰ってきてたのか、チノ。おかえり」

 

聞くと夏の恒例イベントの話をしている、ココアさんとリゼさんです。思わず、「ただいま」の挨拶をする前に会話に割り込んでしまいました。ココアさんは数学や物理が得意だったりと意外な特技もあるのですが、文系科目は壊滅的で、去年の今頃は、国語の追試対策に追われていたりしたのでした。

 

「でも今年は千夜ちゃん達に勉強教えてもらったおかげで、追試にならなかったよ! 七夕参加できるよ!」

「良かったな。それで、テスト何点だったんだ?」

「うーん、平均点から20点ほど下だったけど、何とか追試は免れたから大丈夫! ちょっと先生から追加の課題を出されたりしたけど!」

「大丈夫じゃねえ! それどっちみち赤点の救済措置じゃないか! 千夜も今頃泣いてるぞ!」

「ココアさんは1年経っても相変わらずですね……」

 

思わず、やれやれ、という感じのため息が出てしまいます。私の姉を自称する割には、肝心なところではいつもお姉ちゃんぽくない、ココアさんなのでした。

木組みの街的には、七夕の後に来る花火大会と夏祭りの方が、観光客もたくさん集まる大イベントなのですが、去年は雨で中止だったのでココアさんはそちらにも参加していないことを思い出しました。ココアさんは大事なイベントには参加し損ねるような星の巡り合わせなのでしょうか。

 

「で、でも課題の提出までは少し時間あるから、七夕参加できるのは本当だよ! みんなで願い事、飾りに行こうよ!」

「まあそれはいいけど……ココア、そもそも七夕が何のお祭りなのかは知ってるのか?」

「それは流石に知ってるよー。確か、天の川を挟んで引き裂かれた織姫と彦星?が、1年に1度だけ、出会えるのがこの日なんだよね」

「ああ、そうだな。織姫と彦星は、元々恋人同士で愛し合っていたんだ。でも天帝の怒りを買ってしまい、引き裂かれてしまった……。悲恋の物語だな。もちろん、本当にあったお話じゃない。昔の人が、ベガとアルタイルの二つの星を、織姫と彦星に見立てたんだ」

「好きな人と1年に1度しか会えないなんて辛すぎるよ……。もし私がチノちゃんと引き裂かれちゃって1年に1度しか会えなくなったら、悲しすぎてお姉ちゃん泣いちゃうよ!」

「ココアさん、ただでさえ今日は暑いのに、余計暑苦しくするのやめてください……」

 

ココアさんがぎゅーっと私に抱きついてきます。外を歩いてきたので結構汗ばんでるけど、ココアさん気にならないのかな……。

 

「しかし、確か恒星の寿命って凄く長いんだろ。10億年とか。1年に1度しか会えないとしても、人間の感覚で言えば結構会ってそうだな」

「うーん、人間の寿命を100年で計算すると、ざっと3秒に1回は会ってくらいにはなるね」

「会いすぎだろ!? 少しは自分の時間が欲しくなるレベルだな! てか、その計算パッと出来るのも凄いな……」

「私はチノちゃんとだったら3秒に1回でも何の問題も無いよ! 3秒でもふもふ~♪」

「それは私のほうが問題です……。というか3秒でもふもふって何なんですか意味分かりません」

 

意味の分からない言葉を発しながら相変わらず抱きついてくるココアさんを、流石に暑いので無理やり引き剥がします。ココアさんはめげずにこう続けます。

 

「じゃあ、今日の仕事が終わったら早速みんなで願い事飾りに行かない? 確かマルシェのある広場に、笹竹飾られてたよね」

「いいんじゃないか? あそこなら誰でも飾れるしな。あっそうだココア、願い事書いた短冊、うさぎに取られないよう気をつけろよ」

「えー? リゼちゃん、さすがの私でも短冊をうさぎに取られるとか、そこまでぼーっとしてないよー?」

「いやいや、今のは本気で文字どおりの意味で言ったわけじゃなくてだな……。この街の七夕ではこういう都市伝説があるんだ。短冊をうさぎに取られるとその願い事は叶わない。織姫彦星の代わりにうさぎが願い事を持っていってしまったんだ……ってね」

「へぇー、うさぎがいっぱいのこの街らしいと言えばらしいけど……。でも、この街のうさぎさん大人しいし、短冊を取っていくなんて、そんなに起こりそうもないけどなぁ。それとも、うさぎって短冊を食べたりするのかな?」

「ヤギじゃないんだからそれは無いと思うけど……。でも誰か取られた奴がいるから、そういう言い伝えが出来たんだろうな」

「了解! じゃあ、うさぎの妨害工作に気をつけながら、七夕作戦を決行するであります! サー! チノちゃんも一緒に来るよね?」

 

「わたしは……」

七夕。うさぎ。

――私の記憶の中から、数年前のある七夕の日のことが蘇ります。

「わたしは……行かないです」

反射的に、そう答えました。

「えー、何でー? チノちゃんとも一緒に行きたいよ!」

「そ、そもそもココアさん、七夕なんて行っている場合じゃないのでは……? 追加課題だってちゃんとやらなきゃ留年してしまいますよ」

「うっ、それを言われると返す言葉が無いけど……」

「だいたいココアさんは、私のお姉ちゃんを自称する割に、お姉ちゃんらしくないです。お姉ちゃんだったら、ちゃんと良い成績取って、お姉ちゃんらしくしてください!」

バタン。そのまま勢いでドアを開け、更衣室のほうへ行ってしまいました。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ヴェアアア……、チノちゃんから嫌われた……、それにお姉ちゃんらしくないって……」

「ああいう不機嫌なチノを見るの、最近珍しい気がするな。あの様子だと多分何か行きたくない事情があるんだろ、あまり気にし過ぎるなよ」

「本当? リゼちゃんにそう言ってもらえると少しは気が休まるけど」

「成績のほうは気にした方がいいと思うけどな」

「うっ……、追加課題はちゃんとやるよ! じゃあリゼちゃんと二人でも良いから、願い事飾りに行くの付き合ってよ」

「付き合うけど、帰ってきたらちゃんと課題やるんだぞ。ところで、ココアの願い事って何なんだ?」

「私? 私の願い事はね……」




新作です。ごちうさです。ココチノです。
6~7話くらいの中編になると思います。
過去作と異なり書き溜めが一切ありませんので、投稿ペース遅いです。
気長にお待ちください。
過去作も全てごちうさですのでよろしければどうぞ
https://syosetu.org/?mode=user&uid=239269
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