高校一年生の夏の日。
それは、突然起きたことだった。同時に、今まで恐怖を抱いた存在だった、幽霊やらなんやらの怪奇現象モノに一つの終止符を打ち、俺がそういう類いに対する価値観を変えることになった時のことだった。
「輝道、お母さんから連絡があった。君は今すぐ帰りなさい」
「は……?」
家。
「おい、急になんだよ……?部活早退するほど何か……!?」
「央義、荷物をまとめて。すぐに行けるようにしなさいよ」
「え?だから何が……」
「亡くなったの。お父さんのお爺さんが」
「へ……?」
その日、俺の祖父が死んだ。
サッカー部に入っていた俺は部活中。俺は親に言われるがままに東から西に移動して、式場へと向かわされた。
そこには確かに祖父の遺体があった。
特別に遺体を触らせてくれた時、あの人間とは思えない冷たさと、硬いアイスクリームを触っているようなグジョグジョした感覚を始めて味わった。
俺は祖父と深い関わり合いがなかった。
親父の祖父母が離婚していたせいだ。だから、家族であって家族じゃ無い。
本当は仲直りしたかったんだろう。
だから祖父の死に深い悲しみはなかった。
でも、いつもと違う黒い服を着て、式が始まり、誰かの涙が流れ、棺を運び、火葬し、骨になった姿を見て、俺は何か大きなものを本能的に感じた。
悲しみは無くても、死にたく無いって心から思うようになった。
今生きてることが、これほど素晴らしいことなんだって思い、過去に小さな嫌なことで死にたいと感じた俺を殴りたくなった。
遺書には、自分の骨は海に捨ててくれ、と縁の無いことが書かれていた。だが海に捨てるのは簡単に法律が許してはくれない。それに、祖父と俺は深い関わりがなくても、一度だけ、出会ったことがあるのは確かだ。だからこそ、残った骨を入れた物は未だに俺の家の中にある。離婚して、まともに俺の一家と出会わず、家族がいなかった祖父は、死んでから始めて俺達の家族になれた。俺の祖父はきっと救われたんだと思う。
そして、俺達は一つの遺産を相続した。金の虎の像を。
この像に触れた時、今まで怪奇現象でビビっていた俺が急にバカらしくなった。
何が怖いことだ。バカ言え、俺が出会ってきた幽霊どもみんな死んでたんだ。誰にも救われずに。
幽霊でもなんでも来いよ。
今日はその怪奇現象で祖父と出会いたいんだ。
祖父の死を越えてから俺は、ホラーに恐怖を抱かなくなっていた。
抱いてはいけないんだと思った。
俺は、今ある生活を受け入れることを決めた。
生きていれば、それでいい。
そしてその日から、俺はパソコンを開いて、打ちこんだ。
この物語を伝える為に。
最後まで読んでくれてありがとよ。
人生ってもんは嫌になることばかりだ。
だからこそ、これから何があっても絶対に投げ捨ててはいけない。
そう、例え俺のようにどんなに怖いモノに襲われても、きっとゴールはある。
だから、その日が来るまで、またお会いしましょう。
完。