世の小学生児童のいたずら業界の大目玉であり、その中の勇気ある数人がホントにやってしまう悪質ないたずらである。ゲームルールは見知らぬ一軒家のチャイムを鳴らしたら速攻逃げ、出てきた人を困惑させて時間を無駄にさせるというもの。
大人になった今に思えばタチが悪いものであるが、やはり当時の好奇心旺盛な心というものは決して理解出来ないものではない。
しかし、大小構わず、悪いことはやってはいけない。
今回は、そんなちょっと不思議な話をお見せしようじゃないか。
この物語に関してはそこまで鮮明に思い出すことは出来ない。
何しろ小1辺りの話だし、詳しく語れるもんじゃあねぇ。
だがしかし、忘れちゃあいないぜ。
あの戒め方は人生の中では群を抜いたもんだったからな。
時は流れ、五時間目の授業が終わって下校している最中のこと。
名前はもう覚えていないが、当時大切だった友達の2人…とりあえずAとBとするか。
その二人と共に、これまた記憶にないと言って等しい下校道を通っていた俺達3人。
確か…小さな森を抜けて、左右双方に一軒家が三、四つ位あってな。その内の二つ目辺りに子供でも容易に押せるほどの呼び鈴があったんだ。
そこで、ガキ思考で尚且つちょっとしたスリルを楽しみたい我ら3人の利害は一致し、この家のピンポンダッシュをしようという話になった。
「よぉし、じゃあじゃんけんで決めようー!」
「さんせーい!」
「いくっぞぉー、最初はグー、じゃんけん!!」
「ポン✋」
「ポン✊」
「ポン✌️」
「あいこか…、よし!あいこで!」
「しょ✌️!」
「しょ✋!」
「しょ✌️!」
結果的に、Aが押すことになった。
「くっそぉ…俺が押すのかぁ…」
「どんまいどんまい」
「押したら、すぐにあのコーナーまで猛ダッシュだぞ!」
「わかった。じゃあ押すぞ…あー怖い、緊張するー」
神は既に、俺達の命運の分岐点を遮断させていた。
最早俺達は抗うことは愚か、その事態に気付くことすら不可能だった。
「はやくおせよー」
「わかったわかった!じゃあいくぞー!」
「おう」
「……いくぞー!」
「はーやーくー」
「はいはい。ふぅー。よし、押すぞ!」
Aが手を伸ばそうとした矢先だった。
「なんだ……これは…!?」
空気が重い。
どんよりしている。
「動き…辛ぇ……」
妙に彩度が暗い。
「絶対ヤバイよ!これどうしよう!!」
「そんなこと僕に言われても!」
ヤバイ…。
ど
う
し
よ
う
ど
う
し
よ
う
ど
う
し
よ
う
!!!
『ピーンポーン』
「えっ」
静寂な空間を壊した一つのチャイムが響いた。
俺はAを見つめた。
しかし、あいつは押してないどころか、この状況に驚いている。
それはB、そして俺も同じことだった。
誰も触れていないのに、呼び鈴のチャイムが鳴り響いたのだ。
誰が呼び鈴を鳴らした?
誰だ?誰がやった?
A、お前は本当に押してないんだよな?
B、お前はどうだ?
それとも俺か?
違う。分かり切ってることじゃねぇか。
誰も押してねえ。
誰も。
『ピーンポーンピーンポーン』
また鳴った。
「ちょっとなんなのよアンタ!子供の癖に何回もチャイム押して!!………あれ?3人?」
その家に住むおばさんがついに痺れを切らして扉を開けた。上を見ると防犯カメラが付いていた。俺達は押してないが、結果的にもうゲームオーバーだろう。だが、そのおばさんも何か引っかかっている。
「……さ、3人って?」
「ええ、映像には確かに一人しかいなかった筈なのに、おかしいわねぇ……じゃないわ!!アンタ達!ピンポンダッシュするんじゃないわっっ!!!」
「ご…ごめんなさい……」
「……俺もう、ピンポンダッシュしようなんて考えないことにするよ」
「そうだな…あれは絶対おばけだよ、おばけがやったに決まってる!」
「おばけ……悪いことはさせねぇよってか…。そうだな」
こうして俺達はあの道を後にした。
お化け、妖怪、幽霊、宇宙人………人類を絶望へ誘う謎の存在は数知れない。
だが忘れてはいけない。その存在達が決して単なる悪といい答えで片付けられないということを。あのチャイムを鳴らした存在は、きっとそいつなりの正義を持ったやり方だったのだろう。今回はかなりマイルドなやり口であっちのがせめてもの救いだ。
しかし、人類はいずれは善と悪の構図を崩さなければいけない時が来るのかもしれない。
それでは、またお会いしましょう。