彼女が留学生でかわいい上にめっちゃ優しいから幸せに身を任せ喜んで首を絞められます。 作:槍ヶ岳の丘
でも今回もただのラブコメ(?)になってしまった。
「Hey! マサルさん!」
食堂の端っこの方でスマホをいじる俺に声をかけてきたのは、先日昼食をとろうと提案したマリアさんだった。花が咲いたような笑顔は今日も変わらず綺麗だ。
「うっす。どうもです」
立ち上がりながら挨拶する。バスの中でのスキンシップでいろいろ慣れたようで、マリアさんとなら緊張することなく会話できるようになった。中高生の時や大学でも部活の仲間なら兎も角、例えば初対面の女性とグループ活動する際に日常的な会話するのは少し難易度が高い。だからこうして出会って間もない女性と難なく言葉を交わすことが出来るのは大いに自信になる。もっともマリアさん自身、会話しやすい人柄というのもあるのだろうが。
俺の挨拶に「はいっ」と元気よく返事をしたマリアさん。彼女はご飯とみそ汁などのまさに『THE 日本食』が載せられたプレートを置いて席につく。しかし俺が座っている方の机を見て不思議そうな顔をした。
「どうしました?」
「はい、マサルさんは食事をなさらないんですか?」
「いえ。実は俺学食ではご飯を食べないで、その代わりにっと」
言いながらバックから巾着袋を取り出す。するとマリアさんはグワっと前のめりになって巾着袋を見つめ始めた。
「ひょっとしてJapanese BENTOですか!?」
アメリカ人だから当たり前なのだが、すっごくネイティブな発音。いや弁当は日本の言葉だからネイティブっていう表現も少しおかしいか。しかしそれにしてもすごい食いつき具合である。
「そ、そうですよ」
「中を見てもよろしいですか?」
「ええ、それは構いませんけど……大したものはないですよ?」
「Not at all! 日本のOBENTOはアメリカよりも手が込んでいるという事を私は知っています!」
弁当の製作者である俺よりも俺の弁当を擁護するマリアさんは「失礼します」と慎重な手つきで弁当箱の蓋を開けた。心なしか目がキラキラ光っている気がする。なんかこっちまで緊張してくる。ここまで期待を持たれるとがっかりさせたくない気持ちが強くなる。マジで大したのないんだけども。
実際俺の弁当はコストを気にして作ったものだ。それに社会人になった時に自炊できないのも如何なものかと思ったから、今少しでも料理に慣れようとしているに過ぎないわけで、この弁当に入っているものは本当に最低限のものしかない。言ってしまえば何もかも素人の弁当だ。
しかし俺の心配は杞憂に終わる。
「Wow! なんて素敵なのでしょう! 白いご飯の上にウメを置いた、ええ、これが噂の日の丸弁当ですね! Oh! しかも二段構造になってて、中にはフライドチキンとタマゴヤキですね、マサルさん!?」
俺の前には絶賛というか、弁当のおかず一つ一つに興奮するマリアさんの姿があった。子供みたいでちょっと面白い。ところでフライドチキンと唐揚げって同じものなのだろうか。
「そうですよ。まぁその唐揚げ、フライドチキンは冷凍なんですけどね」
「なるほど、日本では冷凍食品も使って弁当を作っているのですね。たくさんおかずがあるのは良いことです。なにより見ていて楽しいですからね!」
あれ、思ってた反応と違う。外国人だからだろうか、冷凍食品にあまり悪い感情を持っていないのは。いや別に冷凍食品は決して悪いモノではないし、むしろ作るのに手間のかからないおかずと考えれば一人暮らしの頼もしい味方といえる、ちょっと高いけど。ただ弁当といえばやはり手作りが至高というか。まぁでも野郎が手作りにこだわるのも少し意識しすぎか。
「ところでマサルさん、この黒いものはなんでしょうか?」
「ん、わかめときゅうりの酢の物かな」
「わかめ、seaweedのことですよね……」
意外である。マリアさんが難色を示したのはわかめだった。いやでも待てよ。
「でもマリアさんもみそ汁を頼んでって」
マリアさんのプレートを覗いてみると、そこには綺麗にわかめだけ取り除かれた豆腐のみのみそ汁があった。なるほど、わかめが嫌いなのだろうか。
「マリアさんはわかめ、嫌いですか?」
俺が聞くと、彼女は少し申し訳なさそうに伏し目になる。
「その、アメリカではわかめや海苔などの海藻は食べられてません。だから前提としてアメリカ人は海藻を食べ物として認識していないのです」
「へー、マジか」
ダブルショック。こんなところで文化の違いを思い知らされるとは。とはいえ、確かにわかめや海苔は海に生えた草だ。陸で置き換えてみればそこらへんに生えた葉っぱのようなものである。それを日本人はむしゃむしゃおいしそうに食べるのだから、海外から見てみれば奇怪な光景として映るだろう。あ、でも韓国海苔って食べ物があるくらいだから韓国はノーカンか。
「……でも、わかめも日本の文化の一つ。マサルさん。一つお願いを聞いてもらってもいいですか?」
俺が密かにカルチャーショックを受けている間に、マリアさんはどこか決意を込めた目でそんなことを言うのだった。むろん内容によるが、マリアさんの頼みごとを断る理由はない。俺は「いいですよ」と答えると、
「それを一口下さい」
だなんて、声を押し殺すように告げた。なんなら涙ぐんでる気がする。いやそんなにいやなら無理して食べなくともいいのではなかろうか。
「えーと、それは別にいいですけど。あまり無理しなくても」
「いいえ、食べます。これは文化の理解です。マサルさんの作った料理を食べてみたいという気持ちもあります。お願いできませんでしょうか?」
そこまで言うなら、気恥ずかしいが俺も止める言葉を持たない。「どうぞ」と弁当を差し出した。
マリアさんは拙いながらもお箸を用いて、酢の物をふっくらした唇の前まで持ち上げる。匂いをかいだのだろう、彼女は「ビネガーですね」と呟いた。そしてそのまま勢いよく、それこそ放り投げるように酢の物を口に含んだ。
するとマリアさんは目を見開いた。
「おいしいです! おいしいですよマサルさん! 少しサワーな感じですが、シャキシャキして、わかめもいいですね!」
一拍おいてから、彼女は満面の笑みで酢の物を絶賛した。未知の味が面白いのだろう、よく噛みながら「うーん」と嬉しそうに唸っている。
マリアさんの反応は、はっきり言って意外だった。俺も酢の物は嫌いではないが、幼いころは好んで食べようとは思わなかった料理だ。あの酸っぱさがそこまで好きになれなかったのだ。しかし彼女はそれを一口でおいしいと言ってのけた。ひょっとするとマリアさんは味覚がかなり広い人なのかもしれない。
ともあれ、自分の作った(いかに簡単なものと言えど)料理をおいしいと言ってもらえたのだ。それはもう嬉しくない訳がなく、自分でもキモイ顔してるかもと思う程度に頬を緩ませた。
「それはよかった」
「はい! ありがとうございます!」
曇りのない、朗らかな笑みを浮かべる。まるで黄色い花火が瞬くような、そんな激しく純粋な表情を俺は見た。
「そういえば、どうしてそんなに弁当に興味があるんですか?」
「知らないんですかマサルさん? 今アメリカでは日本のBENTO文化に注目してるんですよ」
「なるほどなー」
「あ、それでは明日は私も弁当を作ってきます! というわけでマサルさん、明日は食べ比べしましょう!」
「……あ、明日も?」
「嫌ですか?」
「まぁ、嫌じゃないっすよ」
ヒロインが魅力的に描写できているか、それが問題だ。
実際ヤンデレさせるヒロインに魅力がなければ面白くないのです。
激しくも無垢って、なんだよってな(笑