歌が響く、命を擦りなおそれでも人を救おうとする歌、白き施設に響く少女の思い。
その思いが、その願いが、その魂が、とある聖遺物を、魔人の目を覚ました。
業火の中、一つの勾玉が鼓動を始めた、最初は弱々しいが、その鼓動はどんどん強くなっていく。
やがてその勾玉は変化を始めた。始めに勾玉の周りに赤いモヤがかかっていく、次第にそれは人の形に変わっていき、人ならざる人へと変わって行った、例えるならば魔人だろう、体全体に通る黒きライン、頸から突き出た黒き角、うっすらとほのかに光る緑のオーラ、これを見て人と思う人はいないだろう。
魔人の閉じていた瞳が開いた。
見える景色は崩壊した施設、その景色は、魔人として生まれた場所に似ているが、決定的に違うのは、今まさに炎で燃えているところだ。
長い眠りについていたのだが、何故ここにいるのか、ここは何処なのか、少しだけ考えたが、すぐにどうでも良くなった。
アクマがいたとしても害をなせば殺せばいいし、何もしなければ放置すればいい。
そして魔人はふと気付いた、マガツヒが薄くなっていることを。先ほどまでと比べてマガツヒが徐々に減ってきている。
やがてマガツヒが薄くなったのが終わり一定のマガツヒが残った。魔 人は最低限活動するのには困らないが本調子にはならない程度にとどまった。
今ので完全にここはボルテクス界ではないことが魔人にはわかった。そして魔人は気付いたことを試そうと思った。
ふと女の叫び声が聞こえる。だが魔人にはどうでもいいらしく考えを進める。
『ピクシー聞こえるか、来い。』
魔人の目の前に稲妻が走り、その中心に羽が生えた小さな小さな少女が現れた。
「あーッ!シン!ようやく呼んでくれたの」
「すまないピクシー、俺は何をしていた?、何故ここにいるかわかるか?」
「あたしがわかるわけないでしょ、あとシンはきゅうにきえちゃってたの探したんだからね」
小さな少女ピクシーは魔人シンに頭に抱きついてスリスリする。それはまるで小動物的な可愛さであった。
「そうか、他の奴らはどうしている」
「シンが呼ばないから、そこらへんで暴れてるわよ、今頃光の軍勢をボコボコにしてるでしょ」
どこからか多人数の足音が音と振動で伝わってきた。音からして男で武器を持ったりしている可能性が高いだろう。
「ピクシー」
シンは多人数の人間が近づいていることに気がついたのか、ピクシーに注意を呼びかける。
「はいはーい」
「まずは様子見だ」
シンとピクシーの会話が終わる頃にはそこには武装した兵士と白衣を着た男が現れた。
「やあ、こんにちは聖遺物勾玉さん、僕はジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス、気軽にウェルで構いません」
白髪で眼鏡をかけた如何にも好青年な色白で白いフレームの眼鏡をつけた白衣の男ウェルが話しかけてきた。
「そうか、ここは何処だ」
「つれないですねぇ、まぁ構いません、ここはただの研究所ですよ」
「そうか」
シンはどうでもよさそうにウェルを見ている、ピクシーはさっそく飽きて欠伸をして何処かへ飛んで行った。
「それで少々聞きたいのですが、よろしいでしょうか?勾玉さん」
「構わないが、勾玉さんとはなんだ?」
「あぁ、貴方が持ったものの名称ですよ、名称。聖遺物勾玉、それが貴方が今持っている物の名前ですよ、それが嫌でしたら名前をおっしゃってくれません?」
「そうか、なら……人修羅でいい」
人修羅その名はボルテクス界で生まれた魔人であるシンのもう一つの名前。
「そうですか、人修羅さん、質問なのですが、先程映像を少々見たのですが、勾玉を触媒に貴方は現れたように僕は見えたのですよ、そしてさらに先程までいた妖精の召喚、なかなかに興味深いことをしているので、貴方の体を調べたいのですよ」
「別に構わない」
その言葉にウェルは少しだけ眼鏡が落ちた、どんな人間でも急に体を調べたいと言ってくる人間に体を預ける事は無いはず、そのためにウェルはある程度の報酬を出す事や可能ならば強制的にする予定だった。
「おや?いいのですか?」
「構わない、その代わりに情報が欲しい」
「成る程ギブアンドテイクですか、いいでしょうわかりました、交渉成立です。では早速壊れていない実験室があるのでそこへ行きましょう。……あー君たちもう帰っていいですよ、残骸の処理でもしててください」
ウェルは先程少しだけ落ちた眼鏡の位置を戻しながら周りの兵士たちに退くように命じた、兵士たちは少し動じながらも去って行った。
「少し聞きたいことがある」
『おや、どうしましたか?」
「この惨状はどうしたんだ?」
施設の現状は、すでにところどころ崩壊していて、火が舞っている、天災が起きたのかというほどの惨状だ。
「ああ、それはですね、他の聖遺物が少々暴れまして、騒ぎは収まったのですが、……はぁ、全く面倒なことを起こされました」
「そうか」
「ええ、そうです、では行きましょう」
そしてシンとウェルはまだ、壊れていない区画の方に移動して行った。
そしてシンから離れたピクシーはふらふらと散歩をしていた。
「ふんふんふーん」
壊れた区画をアクロバティックに通過していく。その際ピクシーは一つ気づいた。ここって子供か白衣の人間しかいないことに。
「うーん、なんにもないわねぇ、人間がいるならお菓子があるって聞いたのに」
「あそこに子供が沢山いそう、何かないか見てきちゃお」
そしてピクシーは子供達の避難場所に侵入して行った。
ピクシーは嫁だよね