星花女子プロジェクト 作:煉音
次回の更新をまたお楽しみください。
「やっほー」
「外で待機してたんちゃうやろな」
城ケ崎先輩と入れ替わりで教室に戻ってきた葎に毒づきながら簡易な楽器の清掃をする。ホルンは管が長いうえに細かいパーツで構成させている楽器で、大事に吹き続けるには普段の扱い方や吹き方だけやなく、吹く前吹いた後、他にも食べ物にも気をつけなあかん。とはいえ毎日細かい作業をやるのは部品の紛失とか手違いで破損させるかもしれへんから、ある程度周期を決めてやることにしてる。
「ちゃんと部活行ってきました!怒られたけど」
「怒られたんかいな」
ふんわりとかおる石鹸の匂いと、汗のせいか少ししっとりした髪が嘘でないと主張している。と、そんな確認よりもどうして葎が戻ってきたかのほうが重要やな。
「それより君、下校時刻は過ぎとるやろ。うちは片付けるのに時間かかるさかいはよ帰りよ」
「ちょっと忘れ物しただけだよ。せんちゃんがいたからバイバイを言いにきたんだよ」
扉の前でピョンピョン飛び跳ねながらいう葎は、構ってほしさに駄々をこねる子どもみたいや。どちらにしろうちと違って寮生でない葎や、暗くなる前にはよ帰ってもらうわなあかん。
「そうけ、また明日やな。お疲れさん」
「うん!また明日ね!!」
「あ、葎、すまん」
「どしたの?」
ふと反射的に帰らせてかけたのを呼び止める。ちょうど先輩も帰った。言いそびれた大切な言葉を今、言わなあかんな。せっかく全て察して接してくれたのに、たった一言おくる言葉もないのは、友達以前に人として失礼や。
「葎、今日は、ありがとうな」
少し目を見開いて固まったが、すぐに口角を上げて微笑んだ。
「うん、どういたしまして!」
たった、一言のために顔が熱くなった。うちとしては久しぶりに使ったちゃんと感情を込めた言葉を葎はしっかり聞いてくれたみたいや。なんとか伝えられたことに妙な達成感を覚えて、また一つ肩の荷が下りるのを感じたのだった。
寮に戻るとルームメイトの一ノ瀬がベッドで眠っとった。いつもやったら無愛想に机で勉強しとるかアルバイトで出払ってるのに、まだルームメイトになって長いわけやないけど、これからの学生生活でこの時間に寝顔が見れるのはおそらく今回限り、やろうな。
最近葎が絡んでんのよく見るし、もしかしたら葎に寄られて少し疲れたのかもしれんな。
楽器ケースを下ろし、机の灯りをつけた。入寮してから全く変わらない部屋はお互いが突っ込んだ趣味を持っていないことを物語っている。変なところで似たもん同士なんも、なんかおもろいもんやな。
小さく寝息を立てる一ノ瀬は小洒落たヘッドホンをつけている。枕元には何冊か心理に関する本がおいてあった。一ノ瀬らしいというかなんというか。ポニーテールを解き、部屋着に着替えて、椅子に座る。
「お互い、あの小さいのに振り回されるのも、似てるんかもな」
一人小さく笑って机に教科書を広げたのだった。
予習復習を始めてしばらく経った。一ノ瀬がおるし夕食を一緒にしようと思ってるけど、当の本人がなかなか起きへん。食堂が閉まるのも時間の問題と考えたら起こした方がよさそうやな。
ヘッドホンを外して呼びかける。
「一ノ瀬はん」
肩をポンポンと叩き、さらに呼びかけた。
「ん」
「一ノ瀬はん、そろそろ起きたらどうなん?」
目を覚ましたようで、部屋の明かりが眩しいのか目を固くつぶる動作をする。一ノ瀬が状況確認する間、解いていた髪を再度まとめる。
「あ、……ごめん、待っててくれたの?」
「別に、目覚めが悪いだけやし、早よ行かな食堂閉まるで?」
「うん、……悪かったわね、待たせて」
そこで会話は途切れ、続いて部屋を出る。寝起きですぐ食事というのは少し悪いなと思いながら、いつもより遅いその歩幅に合わせて食堂へ向かう。横目に見たその表情はいつもと変わらず不機嫌そうだが、いつもよりもその視線が低い。考え事するんはいいけどぶつからんといてな。と、なんとなく考えていることを察しながら障害物を確認しておくのだった。