俺達の兄貴視点メイン回
エイダヲダセー!
* * * * *
リ・エスティーゼ王国南東に位置する"城塞"都市――エ・ランテル。
都市の頭に冠せられた物々しい通称が示す通り、その都市は隣国、バハルス帝国との間で慣例のように行われるようになった領土紛争において、王国側の要所としての役目を担っている。
加えるに周辺国家最大の領土を誇る王国の国王直轄地にして軍駐屯地を兼ねたこの土地は、近年の大改革により発展著しい帝国、そして周辺国家最強の国力を持つスレイン法国の境界に位置しているということもあって、様々な流通が活発でもあった。
勿論それは物資に限った話ではない。
関所こそあれ王国民以外の者が立ち入ることも珍しくないこの都市は、人の出入りもまた盛んだった。
商人、傭兵、開拓民―― 様々な肩書きや背景を持つ彼らの他、エ・ランテルに立ち寄る者達の中には国境の垣根や人種、性別を問わず就くことを認め許されている職業に就いている者も多かった。
彼らの仕事内容と範囲は多岐に渡るため、一括りにすべきではないかもしれないが…… あえて最も従事する作業を指して挙げるならば「対モンスター用の傭兵」となるだろうか。主な活動として人間達が生きる土地に出没するモンスターを狩り、その報酬に日々の糧を得る―― 王国はそんな彼らをして『冒険者』と呼んでいる。
冒険者達は建前上、国家の枠を超えて独立する「冒険者組合」に所属し、しがらみを抱えながらも人類種全体規模の警備職―― あるいはただの便利屋 ――としての活動が保障されており、その中でも一部の優秀な実力を持つ者達に至っては、身分を問わずに国境を越えた活動を求められることも珍しくない。
彼ら高位の実力者達にあって、三国と接する土地に位置するこの都市の利用頻度は決して低くないのである。
需要があれば、それに相応しい供給が生まれる。
このエ・ランテルの中で活動するほとんどの商人達にとって、最も主要な顧客は平民である。王国全体の人口比率を考えれば当然ではあるが、加えて通年行われる戦場に近い城塞都市とあっては、そんなところに居を構える貴族や王族は稀である以上は尚更だった。
そして冒険者という職に就く者達は生死を賭けた戦闘を前提とした生活をしていることもあり、命と引き換えに手に入れる報酬は、平均的な平民達が就ける職種で得られるソレと比べ、往々にして高額である。加えて命を繋ぐ装備や消耗品、日常を後悔しないために日々の娯楽などに払われる金回りの良さといったら、日々の生活や税の徴収に喘ぐ他の平民達はもとより、下手な貧乏貴族達よりも豪華であった。
それゆえに商人、いやエ・ランテルの運営を担う者達は、そんな彼らに金銭を都市内に還元して貰うべく、国軍を受け入れて養うだけの施設とは別に、冒険者を対象としたアイテムを取り扱う露店、または飲食施設を充実させてきたのであった。
しかし都市内に滞在する以上、ほぼ必ず利用される重要な施設――『宿』であるが、この都市の冒険者組合によって紹介される公式に認められた冒険者用の宿泊施設は、わずか3件しか存在していない。
もちろん、冒険者達にはそんな数少ない宿を使わなければならない、という義務はない。
にもかかわらず、特別宿泊しない理由でも限りほとんどの彼らは、この宿のいずれかで夜を明かすことを選んでいた。
これには理由がある。
冒険者という職種にはグレードが存在し、達成した依頼実績に応じてその合計8段階の格付けが厳密に与えられており、その位階が高い者達ほど依頼される仕事の難易度は上がり、比例するように報酬は多くなる仕組みがあった。そこで冒険者に提供されるサービスの質を報酬に見合った、上・中・下に明確に区別した3種類の宿を組合側が斡旋することによって、そこには『自らと近い実力者達が集まる場所』という環境が自動的に生まれるのである。
そんな場に身を寄せることが出来るという一点だけで、冒険者にとっては組合紹介の宿に泊まる理由としては十分過ぎるのだ。
冒険者ランクが近ければ、受注する依頼の種類や傾向、難易度も似通ってくる。
基本的に複数人のパーティーで行動することを基本とする彼らにとって、組合側が実力的に近い者を勝手に振り分けてくれる『宿』は、新しく迎えたい仲間を求める場所としてうってつけであることは言うまでもなく、何より同業者が集まる場所なので様々な情報を入手しやすいというのが最大のメリットだ。
もし特定モンスター討伐の際、事前にそのモンスターの討伐実績を持つ冒険者と交流を持つことが出来ていれば、その経験からもたらされる助言が討伐の難易度を大きく下げるだろう。予期せぬ未知のモンスターとの遭遇戦では、他パーティーに所属する冒険者との何気ない雑談から得られた切っ掛けが、生死を分ける閃きとなって命を救うかもしれない。一見簡単そうに見えた依頼であっても、自分達のパーティーだけでは気付けなかった落とし穴の存在が同業者の経験談から浮き彫りとなり、自分達の安全を優先して依頼を受注しない判断の助けとも成り得るはずだ。
加えて日常の一部を共有し、同じ釜の飯を食べる彼らは、有事の際に手を取り合うことを躊躇わない。
社会的な地位が一部の例外を除いて傭兵同然の扱いを受ける、所詮は根無し草でしかない冒険者達。大した後ろ盾もない状態で日常的に命を懸ける必要がある彼らにとって背中を預ける仲間、あるいは最低でも突然背中を斬られないと思える隣人は万金の価値がある存在であり、その考え方は一部の破綻者達を除いて、冒険者達の間で普遍的なものでもあった。
情報や経験、技術や仲間。
生死を分ける程に無視してはならない要素を数多く共有できる場所―― それが『冒険者の宿』なのである。
この場所を重要視しない冒険者は無能であり、長生き出来ず、やがて誰かに助けられることもなく死んでいく。彼らが人間種という大陸の中でもひ弱な種族であることから逃れられない以上、群れを離れて生きるという生き方は、わざわざ選ぶメリットなどない愚者の選択なのだ。
それは例え高ランク、最高位のアダマンタイト級冒険者になっても外れることのない真理であり、むしろ一瞬の判断ミスが死に直結する瞬間を多く経験する彼らだからこそ、情報共有の大切さを強く心得ているといっても過言ではないだろう。
……現在のところ、王国にその最高位たるアダマンタイトを預かるパーティーは一組しか存在していないため、彼らの求めるレベルの情報が宿屋の雑談から得られることなど、ほとんどないのかもしれなかったが。
ここで重要なのは、エ・ランテルが誇る冒険者御用達の最高ランクの宿――"黄金の輝き亭"に併設された酒場には、毎晩多くの高位冒険者達が集まり、一期一会となるかもしれない縁を結ぼうと交流してきた事実である。
深紅の鎧を纏った大柄の女丈夫と、まるで陽光を振り撒いているかのような存在感を放つ、輝く金糸の髪を持った少女。
単独で冒険者活動をしてきた2人の冒険者がその日その宿で出会った背景には、そんな冒険者に配慮された仕組みの影響が少なからずあった…… 結論すれば、これはそれだけの話なのであった。
* * * * *
「……まぁそんな訳で、トブの大森林って場所はとにかく危険が多いトコなのさ。もっとも、この辺りをホームにしている俺達『クラルグラ』ほどになれば、ある程度その環境への慣れと理解もあるがね…… 大抵の連中は、その前にコロっとくたばっちまうんだよ 」
――この街で最も位階の高いらしい冒険者パーティーのリーダーはそう言って、俺の奢った酒で唇を湿らせた。
合間合間に差し込ませなくては気が済まないらしい自慢話にはいい加減、ツッコむ気も無くなってきたが、流石にミスリルの冠を頂いているだけの冒険者ではあるのだろう。語られた内容自体はこれまで集めた情報と食い違うことのない、信憑性の高い代物だった。
ただ、この手合いはどうも食指が動かねぇな。鼻につく喋り方も減点だ。
童貞じゃなさそうだし。
……トブの大森林とはリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の国境を縦断するアゼルリシア山脈、その南端に位置する広大な森林地帯のことを指して呼ばれる土地の名称だ。
その名だけなら王国に住む民のほとんどが知るだろう有名なモノだが、では一体この森がどれほどの規模を誇るのか、おおよその総面積を聞いたところでピンとくる平民なんてほとんどいねえだろう。あるいは目先の金以外のことについては不勉強でいらっしゃる大多数の貴族様達にだって、それほど多くはいないのかもしれねぇ。
これでも俺は基本的に特定のパーティーを組まずに
それはデケェのか? まぁデカいんだろうな…… 確かそんな第一印象だった気がする。
冒険者御用達のこの酒場で、そんな大森林の話題を振ってきたフォレスト・ストーカーのクラスを名乗る男は、こちらが返した薄い反応を先刻ご承知だったらしい。
「俺はアンタよりもこの森について詳しい人間なんだが、明日の依頼に備えて情報を集めてみようって冒険者の心構えは持ってるかい……? 」などと、言外に要求されたこの店で一番高い酒を奢ってみれば、辺りに聞こえるデケェ声で如何に大森林が恐ろしい場所か、そんな危険地帯に踏み入る自分達がどれだけ優秀かを語って聞かせてきたのだ。
それだけならまぁ可愛い跳ね返りにも思えたんだが…… より分かり易い喩えを教えてやろうと言いながら、勿体つけて出したモノが「900万近くの人口を誇る王国の生活圏、その1/5に匹敵する規模」という、結局一般的には伝わり難いだろう言い回しで、コッチを再び値踏みしてきやがった。
抱いて極上の夢を見せてやろうって親切心も失せるってもんだ。
コチラの無教養でもねちっこく指摘して「決まったパーティーを組まないままに単独のミスリルを名乗る大戦士サマと言ってもこの程度 」とでも喚いてみれば、周囲への牽制と自らの博識さをアピール出来るとでも思ったのかもしれねぇが…… 有難いことに王国中を渡り歩き、この国が有する領土の大きさを自らの足で知っている俺にとっては、その喩えのお陰で森の広大さを大まかに推し測ることが出来ていた。
もうこの野郎と膝突き合わせて酒を飲む必要もねぇだろう。
だが――
(しっかしコレ。出任せ聞かされてんじゃなかったら、ちっとも明るい情報じゃねぇなぁ…… )
リ・エスティーゼ王国の生活圏。その1/5に匹敵する規模。
問題はコレだ。
国の1/5という字面だけ切り取ってみれば、あるいは生まれた村から一歩も出たことのない村娘などであれば狭いかもと思ったりするかも知らんが……この国が分母となった"1/5"の数字が示す広大さを、俺は想像出来ちまう。しかもその地は大森林という名称が表す通り、少し奥に立ち入ることだけでも困難な人外魔境ときているのだ。
生い茂る草木によって制限され、昼でもなお暗い悪条件の視界。
そんな地形を利用し、奇襲を絶えず仕掛けてくる平野とは段違いに厄介なモンスター達。
そして何より噂に名高い、『森の賢王』と呼ばれる圧倒的な強者の存在。
――瓶に残っていた酒を手酌で注いで煽りつつ、この宿に入る前に立ち寄った、冒険者組合の依頼掲示板に掲げられていた真新しい依頼票を思い出す。
周りの冒険者達には舐められないだけの返事はついさっき返してやったので、何やら騒ぎ始めた目の前の男はもう放置だ。
(とてもじゃないが城塞都市の観光ついでなんてノリで、出掛けられるような場所っぽくねぇよ )
依頼票に掲示された内容は、複数の冒険者パーティーを対象にした、トブの大森林内に自生する新たな薬草群生地の捜索依頼だった。
この都市の薬師組合に所属する者達による連名で出されていたこの依頼は、同じくエ・ランテルに住まう最高の薬師、リイジー・バレアレ個人の店が卸すポーションに対抗するための素材探しの一貫だというのが、この店に集まった冒険者達の見解らしかった。なんでもバレアレ印のポーションはその原材料にトブの大森林から採集された素材を多く使用しているらしく、そこには技術の差もあるのだろうが、価格の差以上に価値のある品質を誇っているのだという。
……そんな品質のポーションに対してエ・ランテルの他店はこれまで、品質に劣りながらも価格を抑えることで需要を取り合って競合することは避けていたらしいのだが、どうやら最近店を継いだばかりの若い1人の薬師が、その均衡に喧嘩を売る大層な気炎を上げたそうなのである。
曰く、「神の血を示すポーション」を目指さず現状に甘んじる薬師に、存在する意味はあるのかと。
よりよい効能を持ったポーションを目指し、研究するには、今自分達が使っている薬草よりも高い効果を持つことが期待できる素材が必要ではないかと声を上げたらしい。そこで目をつけたのが、自分よりも確実に1歩以上前を歩いているバレアレが取り扱っているトブの大森林原産の薬草という辺り、ぶち上げた気炎の割には中々堅実な思考をしている人間なのだろう。
同じような立場でポーション作りに情熱はあっても資金はないという若い薬師と金を出し合い、後追いであってもまず、現実的な範囲で新しいことに挑戦しようという青い気概は、中々天晴れな心持ちでもある。少なくともバレアレの店に忍び込んで技術を盗もうとせず、馬鹿正直に依頼を張り出して正面から堂々と喧嘩を売る姿勢は、世慣れしない真っ直ぐさの表れなのだろう。
(……バカ正直に連名で依頼を出しちまってるもんだから、少なくとも今のところ、名前を乗せてた店が扱っているポーションよりはバレアレのそれの方が品質の高い品物だと認めて宣伝してるようなアホをやらかしてんだが…… あぁいう童貞臭さは嫌いじゃねぇんだよなぁ )
依頼を見た時は一丁、パパッとこなして依頼主の顔でも拝みに行ってやるかとも思ったが…… どうにも単純な護衛任務などとは違い、ややこしいことになりそうな目的地なのだ。
――酒場の喧騒が少し大きくなる。店に入って来たばかりらしい、それまで無かった女の声が耳に響く。
――その煩わしい声を考え事をしている頭から追いやりたくて、杯に残していた酒を一気に飲み干す。
依頼自体に、何ら後ろ暗いモノはない。
公的な機関である薬師組合を通して発注された内容なだけあって報酬はそれほど旨みはなかったが、決まった期日は設けられていない上、初回ということで若者を応援する薬師組合の計らいか、この依頼に参加する意思のある冒険者集団を輸送する馬車が、明日この都市を出発することになっているらしい。
集団移動で保障される道程の気楽さと、同行する薬師によって見つけた薬草の査定をその場で行って貰えるというお手軽さは正直魅力ではある。何より専門家付きで現地の薬草収集ノウハウを教われる機会なんて、そうそうあるものではない。
単独活動が多い俺の冒険者生活にあって、そうしたいざという時に役立つ知識は宝であることは間違いなく、恐らく童貞の依頼主の件や金銭の報酬は抜きにしても、参加するメリットは大きいはずなのだが……
(恐らく今回の依頼で冒険者全体の指揮を取るのは、エ・ランテルをホームにしている中でも最高位のミスリルパーティー『クラルグラ』の連中になるんだろうが…… メンバーのヤツらはともかく、どうにもリーダーの野郎が気に食わねぇ )
確かイグヴァルジ、と言ったか。
野外活動に秀でるフォレスト・ストーカーのクラスを有したこの男は、確かにトブの大森林という場所にあっては頼もしい技能を持っているのだろう。しかし言動や振る舞いに見え隠れする、露骨な功名心が頂けない。
もちろん冒険者である以上、大なり小なりの名声欲は持ってて当然であるし、逆にそれがない者は大成しにくい。「いつかアダマンタイトに」「歴史に残る武具を手にしたい」――そんな野望を持つことは多いに結構だろう。否定はしない。
だがイグヴァルジから感じるソレには、目的を叶えるためなら平然と他者を踏み台の道具にして蹴落とすことも躊躇わない浅ましさのようなモノが宿っているように思えてならないのだ。
仮に大森林の中でトラブルが起こった時、コイツは窮地に陥った者を救う性根を持った者ではないのだろう。最悪、自らが生還する確率を高めることに繋がるのであれば、喜々として切り捨てようとするかもしれない。会話の間中ずっとコチラの弱みを探ろうとしていた男からは、そんな据えた臭い混じりの気配を感じていた。
そんな男が指揮する集団と状況によっては深入りするには、トブの大森林という場所は危険な場所なはずだ。
……金銭には余裕があり、この依頼をこなさないといけない理由がある訳ではない。
やはりこの酒を呑み終わったらさっさと部屋に戻って、明日は別の依頼でも見繕うとするか―― そう思い、杯を空にすべく傾けた、その時であった。
「すいません! 明日私はトブの大森林って場所に薬草を探しに行く依頼を受けたのですけど!……えーっと、貴方がイグヴァルジさん? そこの事情に詳しい方は貴方だって聞いたので、良かったらお話聞かせて貰えませんか!? 」
――目の前に突然、太陽が飛び込んできたのは。
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『朱の雫』――王国唯一のアダマンタイト級冒険者パーティー。
そのパーティーリーダーは貴族出身の変り種として実力ともに有名であったが、最近になってその有名人にまつわる噂がもう一つ増えていた。
それは彼の姪、正真正銘の貴族令嬢がまだ成人にすらなっていないにもかかわらず、家を飛び出して冒険者になったという噂話である。家を追い出された貴族の三男、四男坊辺りが身を持ち崩した最後に冒険者となること自体はそう珍しくもないものの、王に直接謁見が叶うほどに力ある貴族の娘が冒険者に―― そう、冒険者達の間で噂になるほどの存在感を持った冒険者になるのは非常に珍しい。
今、テーブルに着いたままだったイグヴァルジの真向かい、丁度私の隣に座る形で席についた少女。
一瞬太陽とさえ見違えた見事な金髪を、依然として照明の灯りの下に輝かせている彼女こそ噂の貴族令嬢冒険者―― ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラだった。
乱入してきた娘はこの宿屋に入ってきたばかりだったらしく、まだ食事を済ませていないということで、そのまま俺とヤツが座っていたテーブルの内、空いていた席へと腰掛けていた。
先程キンキンと耳に煩かった声の持ち主だったらしいことも、話し始めてすぐに気付く。
澄んだガラスのように遠くまで響くこの声は、酒の入った頭で近くで聞くには辛いかもしれねぇと初め思っていたものの、活力に溢れた屈託のない表情と合わせて聞くだけで、不思議と不快に感じることはなかった。
「ミスリルの俺が持つ情報を、お前みたいな餓鬼に話してどうなる 」
……もしかすると本人は上手く隠しているつもりかもしれなかったが、今日が初対面の俺にだって分かるほどに、コイツは自尊心が高過ぎるほどに高い男だった。そう言って追い払おうとし、その顔に先程まで浮かばせていたはずの薄ら笑いも今は消え、嫉妬をにじませた目をその少女に向けているのがハッキリと分かった。
彼女が胸元から取り出して見せた冒険者の格を示すプレートが金色に輝いている様を見た時から変わった表情から察するに、恐らくはコイツも噂を聞いたことがあり、彼女の正体を察したらしい。
「冒険者合同でトブの大森林へ向かう依頼、貴方も参加するのでしょう? 私はそこに行くの初めてだから、用心の為に先達の方から心得があるのなら伺おうかと思いまして? ……あぁ、それとご心配なく。見ての通りこれでも
まさか従者の一人もつけず、自分と同じ
冒険者は、くぐった死線の数だけ成長する。
モンスターを狩れば狩るほど、襲い来る苦難を超えれば超えるだけ、剣の振りは鋭く重くなり、唱えられる魔法の位階は上昇するものだ。ただ訓練を重ねる兵士より冒険者達の方が強力なのはチームによる連携力とは別に、そうした経験の差であると俺は思っている。
しかしそんな冒険者の中にあって、彼女は際立った異彩を放つ存在なのである。
冒険を一つこなす度、連れ立った同業者達と比べるべくもなく成長するという彼女。ある大型の
恐らく組んでいた冒険者とはその成長スピードが噛み合わず、解散と合流を繰り返した結果が今の
ぶら下げているプレートこそ
タレントが告げる将来性。
貴族という生まれがそうさせるのか、人目を引き付ける生来のカリスマ。
そして令嬢とは思えないほどに冒険者をするのに向いた、物怖じしない負けん気の強さ。
(面白そうなお嬢ちゃんだ )
そう思う。
俺っち自慢の一品"
……ただ、およそ成人してすらいないだろうことが分かる幼い顔をしているものの貴族の社交界を経験しているはずにしては、長年を費やしてようやく潜り抜けただろう地位にあっさりと指を掛けられたことに妬心を滾らせる男の感情を察せられない節穴ぶりに、何とも言えない不安を感じさせやがる。
「私はラキュース。『青薔薇』のラキュースよ! 貴方も行くなら、明日はよろしくね! 」
村娘、ましてや冒険者では有り得ないほどに手入れされた様子の金髪が揺れる。
穢れを知らない花のような表情で、気がつけばコチラに詰め寄っていた彼女が綻んでいた。
「……あー、まぁそうだな。明日はよろしく頼むぜ? 俺は戦士のガガーラン。アンタの噂は聞いてるから期待してるよ、『青薔薇』のお嬢 」
"不可能"を可能にする―― そんな英雄を目指す上で考えたというたった一人しかいない
特に理由のないレッテル貼りが、既にミスリルの地位を築いている有能なイグヴァルジさんを襲う……!(=本編時期までまるで成長していない)
節穴ラキュースさん14歳、謎多し可憐なる戦士と出会う。
※「魔法に適正を持ち、通常の倍速で魔法を習得可能」なんていう帝国の爺様が知れば嫉妬で狂いそうなニニャのタレントより有名で、「あらゆるマジックアイテムを使える」なんていうチートなンフィーレアのタレントに、離れた王都で活動していながら地元の冒険者に匹敵する知名度と言わしめるラキュースさんのタレント。まだ原作ではハッキリしていませんが、一体どんな代物なのでしょうか?
拙作では彼女のタレントを、貴族の家を自分の判断で出奔出来る年齢までは真面目に貴族令嬢をしている点から冒険者として活動している期間は余り長くないはずにも関わらず、原作6巻末の紹介文にて「既に『英雄』の領域に足を踏み込んだ神官戦士」「まだまだ成長の余地を残している」「伝説にうたわれる可能性が非常に高い」とハッキリ文面化されている点から、"十三英雄のリーダーに準ずる成長バフ"としております。
……「名前を言う必要のない」あの技の他に武技らしい武技を使ってないラキュースさんが、復活魔法を使う詠唱者ではなく神官戦士として身を立てていられるのは、イビルアイに迫れる程度には豊かなステータスを純粋なレベル補正で獲得しているからだと思ったり思わなかったり。
そんなスピードで成長したのなら、帝国の爺様が実は早熟なだけで才能頭打ちであるアルシェに重い期待を掛けていたように、英雄候補として噂されることもあるだろうなと。
――ちなみにこの設定は、さして重要ではないのでさらっと流して頂いて大丈夫です!