帝華魔法戦争   作:#NkY

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序章
プロローグ


 灰色の壁で四方を囲まれた、明かりのない暗い密室。人が一人だけしか入らない広さの空間の中で、高校生の少女――中島はやては目覚めた。

 

(ここ、は……どこだ?)

 

 はやては戸惑った。手を伸ばせば、すぐに壁。目を覚ました場所がこんな場所なのだ、戸惑わない訳がない。

なぜ、こんな場所で目覚めたのか。はやては記憶を取り出そうとした。

 

(嘘、思い出せない……何も、分からない……!)

 

 取り出す記憶が、消えていた。はやては混乱した。混乱の中、一つだけ把握できたこととすれば、ここから脱出しなければならないということだった。

 若干の喪失感を抱きながら、はやては脱出の手がかりを探して暗闇の中を手を伸ばして探る。しかし、いくら探ろうとも手のひらからは金属の冷たい感触しか得られない。脱出に役立ちそうな情報を得ることは、到底不可能に近かった。

 

 知らない場所、極めて狭い空間に、視界を制限されて放り込まれる。脱出の手がかりは掴めそうにない――。

 はやては得も言われぬ恐怖を感じていた。このまま出られずに餓死か、それとも窒息死か。記憶喪失の衝撃を忘れ、人生の終わりが突如として近くなったことをハッキリと実感した。

 

 心臓が早く脈を刻み、過呼吸を起こした。極度の不安で胸が押し潰されそうになった――その時。

 

 突如、地鳴りのような轟音と共に、激しい振動がはやてを襲った。恐怖でギュッと目を閉じ、縮こまるはやて。

 刹那、はやての脳内に映像が流れ込む。薄暗い実験室らしき場所に投げ出され、そこに待ち構えている白衣を着た研究員らしき人が4人。彼らはハンドガンで、はやてを殺しにかかる。

 

 すぐにその状況は起こった。振動が収まり密室が開け放たれた途端、薄暗い空間の中で一斉にハンドガンの銃声が響く。

 

「――っ!」

 

 はやては驚異的な反応速度を見せた。とっさに隠し持っていた2本のナイフで器用に銃弾を弾き返した。

 

「うっ……ぐ……!」

 

 跳ね返した銃弾が研究員の1人に命中し、白衣が赤に染まりそのまま腹を抑えながらゆっくり倒れる。

 

「くっ……緊急事態発生! 『副産物』の対処に失敗、増援求む!」

 

 それを見た残りの3人はそそくさと逃げ出した。1人はトランシーバーのようなものを使用し、何やら連絡を取っていた。

 

 はやては息を切らして辺りを見渡した。薄暗い部屋、おそらく研究室だろう。厳重に囲われたケースの中には、宝石のようなものが妖しく鈍い紅の光を放っていた。はやてはその宝石に危険を感じて、近付こうとはしなかった。

 

「いった……ちょっと、食らったかも」

 

 少し落ち着いてくると鎖骨の辺りに鈍い痛みを自覚した。おそらく跳ね返し損ねた銃弾が命中したのだろう。おそらく、服は自分の血で染まっている。

 

 しばらくして、非常警報のサイレンがけたたましく鳴り始める。僕はここにいてはならない。彼女はそう認識すると、両手に2本のナイフを携え駆け出した。

 

 再び脳裏に映像がよぎる。部屋から出ると、日本刀のようなものを持った金属のロボが前後から挟撃してくる映像が。

 

 そして、そのとおりになる。ボタンを押して金属で出来た頑強な横開きの二重の扉が開かれると、大人の男性ぐらいの身長のロボットに挟撃された。その凶刃は、同時に素早く的確に首を狙ってきた。

 はやてはそれを予測していた。ギリギリまでひきつけた上で、姿勢を低くして間一髪避ける。ロボットの正確さと素早さが災いして、向かい合ったロボット同士を同時に斬りつけ合う形となった。

 金属の塊となったロボットが崩れ落ち、ガチャン、と真っ二つになった上半身が床に落ちる。断線したコードからは漏電が起こっていた。はやてはそれに構う間もなく、廊下を駆け出した。床には日本刀に斬られた黒髪が少し散っていた。

 

 サイレンの中、赤い警告灯に照らされながら、はやては時折脳裏に流れこむ映像を利用し、建物内の数々の罠を突破していった。レーザートラップを軽快な身のこなしで避け、タレットの銃弾をナイフで弾き返し――。小さな傷さえ負ったものの、体力は充分なまま非常口へと向かう。非常口への道筋は、建物内の避難経路図から得た情報だった。

 

「対象と接触! 詠唱を始めよ!」

 

 そして、非常口の前。大人5人位が通れるサイズの狭い廊下にて、金属製のライオットシールドを持った黒いアーマーをまとった軍団、およそ50人が縦に横にいっぱい広がり行く手を塞ぐ。威厳ある老獪な声の号令に従い、彼らは確実にはやてを『処理』すべく、一斉に魔法の詠唱を始めた。

 

(映像が……来ない……!)

 

 予測が出来ない状況に戸惑うが、スキを晒せば死ぬ。はやての防御手段はナイフ2本、あまりにも脆弱である。とはいえ、ここで逃げることなど出来ない。はやては盾持ち相手に果敢に切りつけにかかる。

 しかし、狭い廊下で裏を取れない状況下。重装備相手にナイフはあまりにも分が悪すぎた。ライオットシールドによってたやすく弾かれ、体勢を崩し尻もちをついてしまう。

 

「放て!!」

 

 好機と言わんばかりに、号令と共に詠唱を完了した魔法使い達による魔法――それも、長時間の詠唱を必要とする大魔法――の弾幕が一斉に襲いかかる。避ける間もない無数の火球の弾幕――というよりは炎の壁に、風がまといより威力が増加する。

 

 はやては絶望的な感情を抱いた。大量の冷や汗が頬を伝った。逃れ得ぬ死が、目の前にじわりじわりと迫っている。逃げなければいけない、しかし恐怖で身体が硬直して動かない――!

 

 橙色の輝きと熱風で威圧をしながら、炎の壁はスキを晒しているはやてを押しつぶす。炎の壁が消滅している頃には、はやての姿は塵芥一つ残さず消えて『処理』されていることだろう。

 

 その、はずだった。

 

 炎の壁は、跡形もなく消えた。自然消滅ではない、『消された』のだ。

 

「なっ……!?」

 

 はやては、何がなんだか分からなかった。ただ、自分が生きていることだけは感じ取れた。

 

「黒蝶石か!? いや違う、黒蝶石と言えども発動した後の魔法は打ち消せられないはず……!」

 

 そして、もう一つ。――この状況はチャンスだ。

 

 はやては慌てふためく軍団の上を取り、頭を地面に見立て踏みつけながら非常口へと向かった。

 大魔法の反動か、はたまたそれが効かなかったショックか。敵の抵抗は皆無に等しかった。さして苦労することなく、はやては非常口へとたどり着いた。

 

 しかし。

 

「うぁ……っ!?」

 

 気が緩んだのだろうか。非常口を通った瞬間、無警戒だったはやてにレーザーが降り注いだ。脳を揺らされるような衝撃を受け、一瞬はやての意識はブラックアウトし体勢をふらつかせた。だが、すぐに持ち直してはやては駆け出し、行方をくらませることに成功した。

 どうやら敵は、あの軍団で確実にはやてを始末できると踏んだのだろう。脱出後の追跡はそれほど厳しくはなかった。

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