帝華高校、中庭。
「光線、貫け!」
リオンは簡単に詠唱し、スライム型の魔物に短杖を向ける。そこから白銀の光線が発射され、スライムは紅のもやを伴って蒸発する。
「……大丈夫? 怪我はないかしら?」
リオンは、後ろに隠れていた女子生徒の方を振り向き声を掛ける。恐怖に怯えていた女子生徒は、リオンの優しい声で幾分か冷静さを取り戻した。
「リオ様……あ、ありがとうございました! リオ様!」
助けられた女子生徒は少し頬を朱に染めながら、深々とお礼をした。それを見ていた周りの女子生徒たちも『リオ様素敵!』『リオ様かっこいい!』などと興奮気味に黄色い歓声を上げた。
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「……ということがあったのよ。おかげさまで今日の仕事はやたら声を掛けられたからいつもよりだいぶ疲れたわ……」
風紀委員室、放課後。風紀委員の仕事を終えたリオンは、ひなしかいないことをいいことにせんべいをボリボリ食べながら愚痴をこぼした。その姿は普段見せているカリスマ性のかけらすら感じない。もっとも、ひなはそういう所も含めてリオンに好いているが。
「そっかぁ、それでリオ様いつもより人気だったんだねー」
ひなは、近所のコンビニで普通に売られているようなグミであるひもQをかじっている。もちろん高価そうなお菓子を食べることもあるが、大体は庶民的なお菓子を食べているのがこの二人である。カレルチャペックの紅茶を添えて。
「あ、そうそうリオ様。今日、はやてちゃんも人気集めてたよね」
「そうね、校庭に出た魔物を一瞬で片付けたのよね。さすがはやてって言った所かしら。正直羨ましいわ、魔力なしであんな力出せるなんて」
「だねー……どうなってるんだろう? 不思議ー、ちょっと解剖したい」
「たまに怖いこと言うわよねアンタ……」
「病院の娘だし、こういうのは気になるところなんだー」
「ひもQ食べながらそんなこと言うかしら普通」
「えー?」
そんな自然体な会話が落ち着いたところで、二人は誰もいない窓際のソファに目を向けた。そこは、普段はやてがいる場所。
「今日もまた、『用事がある』って言ってたね。はやてちゃん」
「正直……心配は心配よね。もう甲冑の魔物使いはいないから大丈夫、って言っていたから信じるけれど」
リオンはどこか落ち着かない様子でつぶやく。あの時はやてを救えたのは、はやて自身の異常とも言える自然治癒力のおかげでもあるが、ひなの魔力吸収からの解放によって魔物使いを魔物共々全滅させたからこそである。一応屋根をぶち破り甲冑の魔物軍団を相手に多少削った功績はあれど、はやての救出自体にリオンはあまり直接関わってなかった。そのためリオンには、その時の心残りが少なからずあった。
「んー……ひなは何も感じないかな、今の所。大丈夫だと思うよ?」
不安げなリオンに、ひなはふわりとした微笑を向けた。昨日
「ひながそう言うなら、私はひなを信じるわ」
「信じるのはひなじゃなくてはやてちゃんだよ、リオ様」
ひなはリオンに向かってウインクした。
「ふふ、それもそう、ねっ!」
リオンもお返しでウインクしようとしたが、両目をつぶってしまいうまく出来なかった。えい、えい、と言いながら何度もチャレンジするリオンだったが、戦果は芳しくなかった。
「……出来たかしら?」
「出来てないよ?」
「なんでひなは出来るの、教えて」
「片目をつぶるというよりも、片目を思い切り開くって考えるとやりやすいんだよ?」
「それが出来ないのよー!」
「リオ様可愛い」
「うるさいわねもう!」