帝華魔法戦争   作:#NkY

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第6話4 -開戦の予兆-

 しばらく、公園ではやてと海は時間を共有していた。はやてたちは、一人の魔法使いに対しては異常な量が発生したゴブリンの群れを一掃したものの、その後異常な点は特別見受けられなかった。

 

 はやては一言、海に断りを入れるとM-Phoneを取り出して通話を掛ける。

 

「もしもし、中島です。――はい、無事終わりました。大量発生ではあったのですが、特にこれといった異変は見受けられなかったです――」

 

 海は電話をしているはやての横顔をじっと見つめていた。新雪のように真っ白で、柔らかそうな頬。直接触れることが叶えば、たちまちとろけてしまいそうだった。

 確かにはやての端正な顔を眺めるのは海にとって至福だった。しかし、電話の時間が経つにつれて、はやての表情が硬くなっていく。海の見たい表情からどんどん遠ざかっていった。海は、嫌な意味で胸が締め付けられるのを覚えた。

 

 既に太陽は地平線に姿を消そうとしていた。

 

「――はい。では、失礼しますね」

 

 電話を切り、M-Phoneをしまう。はやては宮咲校長への報告を終えると、海に深刻そうな顔を向けた。海が見たくない表情だ。

 

「どうしたの……?」

 

 はやてに、めったに見せない表情を向けられた海は、不安を隠せない様子ではやてに聞き返す。はやては声を潜めて言った。

 

「あのね……学校に巨大な魔物の反応が生まれ始めたんだって」

「巨大な……?」

 

 いまいちピンと来ない海。

 

「それって、あの時の魔物より大きい?」

「多分。予兆があるってことは、そういうことだと思う」

「予兆……」

「僕には分からないんだけど、リオン様なら違和感を覚えるんじゃないのかな……」

 

 海は複雑そうな表情で、小さくうなずいた。はやては続ける。

 

「とにかく、もうすぐ大規模な作戦が実行されるみたい。基本は全国から集めたOB・OGを主戦力にして退治するらしいんだけど……特進クラスの生徒も、周囲の雑魚散らしで募集がかかるかもしれない、とは言ってた」

 

 海はその作戦を聞いて、事の重大さを初めて理解した。帝華学園グループの卒業生達を集め、一丸となって退治する。それだけのことが必要な、あまりにも強大な魔物が出現するというのだ。

 

「……まるで、戦争」

 

 海の唇から、ぽつりと言葉がこぼれ落ちた。

 

「校長先生も言ってた。『これは、現代の魔法戦争にもなりうる』って」

 

 はやては海の手を握った。自分自身を落ち着けるかのように、しっかりと。海は心臓が高鳴る感覚を感じたが、それは決して心地よいものではなかった。


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