外では異様な喧騒の中、恐慌状態に陥った一般人達が駅の方から逃げてきていた。中には怪我を負って血を流している者もいる。
「まずいわね、これ……!」
嫌な胸の高鳴りを覚えながら、リオンはひなの手をしっかり握った。ひなも手を離さまいと、確実に握り返す。
逃げ惑う人達の流れに逆らい、魔力が溢れ出ているであろう場所に向かって全力で走る。歪んだ魔力の圧が次第に強くなっていくが、持ち前の精神力でなんとか耐え切った。
魔力の源――駅前広場までたどりついたリオン達が見た光景は、想像を絶するものだった。
「な――」
おびただしい数の、剣を携えた
本来、魔物は何らかの原因で空気中の魔力が異常に増えた上で、魔法族の持つ魔力に呼応することで初めて出現する。その上魔物は魔法族相手には敵意を剥き出しにするが、一般人には全く見向きもしない性質を持つ。
それが、今起こっている事態は何だ。辺り一面魔物が覆い尽くし、その上一般人にも襲いかかっているではないか。リオンにとってこの事態は、まさに『信じられなかった』。
原因やら元凶やらを考える暇はない。しかし、このまま放っておけば取り返しがつかなくなってしまうのは考えるまでもなく明白だった。
もはや、リオン達には魔法使いであることをわざわざ隠しておく理由などなかった。リオンが短杖を、ひなが双葉のついた杖をそれぞれ取り出す。
「もう、戻れないわ。ひな……生き残るわよ」
「リオ様、分かった。……信じてて、ひなを」
お互いの顔を確認し、頷きあう。
「……行くわよ!」
リオンは短杖を巨大な鎌にし、一つ素振りをする。
「うん……!」
ひなは杖を自分の身長以上に大きくさせ、祈るように両手で頭上に掲げる。
甲冑の魔物の軍団は、魔法使いである二人を認識すると、今まで襲っていた一般人のことはお構いなしに、錆びついた金属の鈍い音をけたたましく立てながら、地面を震わせるような怒涛の勢いで銀色の津波のごとく襲いかかってきた。
「近づくな、雑魚共ッ!!」
リオンが鎌の柄を地面に叩きつけると、そこからまばゆい光の波が円状に解き放たれた。甲冑の魔物達は一瞬ひるみ、体勢が後ろに傾く。そのスキに、リオンは天高く跳び上がった。鎌がまとう光の軌跡を残しながら、美しく。
「三日月の刃、闇を切り裂け――消えて無くなれッ!!」
リオンは殺気に満ちた声で叫んだ。
滞空したまま甲冑の魔物達の塊に向かって、白く美しい光をまとった鎌を大きく横に薙ぐ。すると、鎌の刃から半月の形をした巨大な光の衝撃波が鋭く発射され、地面にいる甲冑の魔物達を真っ直ぐに貫いた。一振りで数十体もの甲冑の魔物が、鈍い金属音を上げながら砕け散った。
空気中に銀色の粉塵が舞い上がり、地面には甲冑の一部だった金属の破片がバラバラと落ちる。そのままリオンは光の粉を振り撒きながら、地面にふわりと華麗に降り立った。
「数が多いだけの雑魚、かしら。大したことないわね」
周囲に漂う魔力は確かに異常だが、魔物自体の強さはさほどでもない。それどころか、あの日遭遇した狼の魔物より弱いまである。いくら数が多いとは言え、質が悪すぎる。これくらいならどうにかなりそうだ。
「リオ様の言う通り。これならひな、でもっ!」
ひなは杖を両手でしっかりと握りしめ、迫りくる甲冑の魔物にハンマーのように思い切り叩きつける。
魔法使いが魔力の増幅のために使用する道具は、所有者にとっては羽のように軽く感じるが実際は非常に重い代物である。そのため、単純に鈍器として使用してもかなりの効果を挙げることが可能なのだ。
「あまり無茶はしないで、ひな!」
「大丈夫、リオ様に助けてもらえるような位置で戦うか、らっ!」
不意打ちのつもりだろうか、ひなの後ろから甲冑の魔物のうちの1体が鋼の剣を振り下ろした。
「ひなを、ナメないでっ!」
しかし、ひなはそれをたやすく杖で弾き、甲冑の魔物が体勢を崩したスキに、バットをフルスイングするかのように思い切り振り抜き、重い一撃をぶちかました。甲冑の魔物は後ろにいた数体の魔物を巻き込みながら、奥へ吹き飛んでいく。
「ひなも腕を上げたわね。強くなっているわ」
はやてが編入してからというもの、ひなはリオンの屋敷で使用人に戦闘術を学んでいた。
結果的にひなの魔力自体はあまり伸びなかったものの、その代わり魔力をあまり使用しない杖を用いた体術をある程度会得できた。
「リオ様に守られてばかりじゃダメだからね」
ひなは、少し自慢げにリオンに言った。