リオンとひなは、際限ないように思われた甲冑の魔物の軍勢を少しずつ削り取っていく。段々と地面に散らばる金属片が増え、魔物の密度もまばらになっていく。
「はぁっ! ――さすがにちょっと骨が折れるわ」
「だねー……わわ。リオ様とくっついちゃった」
お互いに背中合わせになる。二人共夢中で戦っていたせいか、気がつけば周囲は魔物だらけで完全に包囲されてしまった。当然、二人にとってこれだけの数の魔物を相手にするのは初めてのことだ。
しかし――二人の脳内に絶望の文字は、どこにも見当たらなかった。
「ひな、不思議と力が湧いてくるの」
ひなは杖を両手で握りしめる。
「私もよ。今の状況、全然怖くないもの」
リオンは光をまとう鎌を肩に担ぐ。いつでも来い、と言う気概を持って。
ほんの少しの静寂の直後。甲冑の魔物の大群が、まるで示し合わせたかのようにタイミングを合わせて、二人目がけて全方位からなだれ込んできた。
「甘いわね、逃げ場はあるのよ!」
リオンは地面を蹴り、大きく跳躍した。
「空を舞い、我を導け――
ひなは詠唱し、美しいエメラルド色をしたミニバン位の大きさの巨大な風の鳥を実体化させる。ひなはその背中に座り、空中へ飛び立つ。
攻撃対象が一瞬で空に逃げたことにより、甲冑の魔物たちは反対側から来る魔物に真正面からぶつかり合い転倒する。
「リオ様、こっち!」
ひなが作り出した風の鳥に、リオンが飛び乗った。2人を乗せても風の鳥は安定して低空を舞っている。
「あ、ありがとう。ひな、いつの間にこんな魔法使えるようになったのかしら」
「今、出来るかなって思ってやったら出来た」
「天才か。……何にせよありがとう、あとは私に任せて」
この場所からなら、詠唱に時間のかかる大技も問題なく撃てる。そして、今から放つこの大魔法で、おそらく駅前広場を覆い尽くす魔物達を一掃出来るだろう、とリオンは踏んでいた。
リオンは目を閉じ、神経を集中させる。魔法のイメージを緻密に思い浮かべ、息をゆっくりと吐いた。そして、緩やかに、白くおぼろげに光る大鎌を天に向かって掲げる。
リオンの唇が、詠唱の言葉を発し始める。
「純なる
リオンのゆっくりとした呼びかけに、空がほのかに白く輝き始める。金色のツインテールが魔力の波動に揺られてなびき、空の柔和な光に照らされ輝く。メイド服のフリルスカートもはためき、魔力がほとばしっていた。おぼろげだった鎌が発する光の輝きも、詠唱が進むにつれて次第に増していく。
「遥か
地面では攻撃対象を見失った甲冑の魔物達が明らかに混乱した様子で、ガチャガチャと鈍い金属音を立て、衝突を繰り返していた。ひなは下から詠唱中のリオンに向かって飛びかかってくるのを警戒していたが、その心配はいらなかった。
「存在を許されぬ
リオンが最後まで詠唱を終えると、大鎌の持つ純白色のまばゆい光が、天高く飛び立ち、粒子となってばらばらに弾けた。空の輝きが一層強くなる。
――まるで、時間が止まったかのような一瞬の静寂――。
「――これで、雑魚共は全て消える」
リオンがそう呟いた瞬間、きらびやかに発光する無数の光の雨が、虹を携えながらゲリラ豪雨のごとく激しく降ってきた。光の雨は駅前広場に余すことなく降り注ぎ、混乱して右往左往している甲冑の魔物達に容赦なく打ち付け、鋭く貫いた。
光の雨に少しでも触れた甲冑の魔物達は、まるで金属が一瞬で気化するかのように簡単に消えていく。地面に散乱した金属片も全て、光の雨によって蒸発して、正常な魔力へと空気中に還元されていった。
一瞬の出来事だった。リオンの『光の雨』によって、駅前広場を埋め尽くしていた甲冑の魔物の軍団は、
「ひ……な……」
大魔法を撃ち、魔力と体力を使い果たしたリオンは、風の鳥の上でふらりとひなに倒れかかる。ひなはリオンを優しく受け止めた。
「リオ様。かっこよかったよ」
リオンの頭を優しく撫でるひな。普段はそんなことをやるとすぐにその手を払いのけるリオンだが、今はそれを受け入れた。
「ありがと。……あとは、よろしくね」
リオンのまぶたが落ちると、すぐに寝息を立てて深い眠りに入った。ひなはリオンの頭をなでながら、風の鳥を人が少なそうな路地裏に着陸させた。風の鳥は無数の美しい羽毛となって、空気中へと消えていった。
「んー……何か、いつもより目が冴えている気がする……」
眠くならないことに、ひなは首をかしげた。
ひなは普段、少しでも魔法を使うとすぐに眠ってしまう。しかし、なぜだか今日は眠くならない。それどころか、むしろいつもより眠れなさそうまである。
わずかばかりの違和感を感じながら、ひなはリオンを近くにあるベンチに寝かせた。
寝息を立て、すやすやと気持ち良さげに眠るメイド服のリオン。ひなは自分の膝にリオンの頭を乗せてあげた。
んんぅ、と眠りながら声を漏らすリオン。メイド喫茶に来たときのツンツンしたリオンの姿はどこにも見当たらなかった。
「……かわいい」
ひなは小さい頃からリオンと一緒にいたのだが、こうやってしっかりとリオンの寝顔を眺めるのは中々なかった。その逆なら、ひながしょっちゅう昼寝をするせいでいくらでもあるのだが。
起きないことをいいことに、リオンの頬に軽く触れる。ふにっとした柔らかさと、きめ細やかな肌の質感が指先から伝わってくる。
「リオ様、肌きれいだなぁ……」
ひなはフリルスカートから顔を覗かせている太ももに目を向ける。色白の肌は透き通っていて、もちもちとした見た目にひなは手が出てしまいそうになる。
しかし、その魅惑の太ももに触ってしまえば、リオンへの『好き』の意味が変わってしまいそうな気がした。ひなはそれに危機感を覚えて、すぐに太ももから目を逸らした。
「あ、そうだ。チェキが撮れなかった分、だからね……♪」
ひなは思い出したようにM-Phoneを取り出し、カメラでリオンの寝顔をカシャリと撮った。
もちろん、きっちり15枚である。