リオン達が秋葉原に出現した、大量の魔物を一掃した翌日。あの一件はニュースとなり、大々的に報道された。SNSでも話題となり、特に虹がかかっている光の雨の中をメイド服姿のリオンと私服姿のひなが緑色の巨大な鳥に乗って飛んでいる動画が出回っている。
リオンとひなは、お昼休みに校長室に呼び出されていた。二人揃って、校長室にある黒革のオフィスチェアに座っている。さすがに2人とも、緊張した面持ちだ。
「気を楽にして頂戴。あなた達を叱るつもりはないの」
宮咲校長がそう呼びかけても、リオン達の緊張は抜けなかった。校長室に呼び出されるなんてことは滅多にないことなのだから、当然だ。
「校長先生。秋葉原のこと、ですよね」
リオンが心配であることを隠しきれない様子で聞く。ひなはリオンの横顔を不安げにちらりと見やり、すぐに宮咲校長へと目を戻した。
「……ええ、そのとおりよ。例の秋葉原の一件、よく頑張ったわ。表立って表彰することは出来ないのけれど、あなた達の活躍は帝華としても誇らしいことよ」
宮咲校長が、リオン達の緊張がなるべく解けるようにと、柔らかな口調で語りかける。
「あの。……魔法を行使してしまった件については、大丈夫でしょうか?」
リオンが、彼女の一番不安に思っている点を質問した。
今回の件で、魔法使いの存在がメディアを通じて大々的に広まってしまった。魔法使いには、魔法の使えない一般人に対してその力ゆえに疎まれ、そして一般人の手で、また魔法使い同士によっても淘汰されてきた歴史がある。リオン達は当然その歴史を知っており、それ故に魔法使いバレをすることを恐れていた。現に今、バレてしまった訳だが――。
「もしあなた達が魔法を使うことを渋ったら、おそらく被害はもっと拡大していたでしょう?」
宮咲校長の言葉に、リオン達は小さく相槌を打つ。それを確認して、宮咲校長はゆっくりと言葉を続けた。
「魔力を持つ者には、その力を適切な場所で行使する義務があるとわたくしは考えているわ。そして、あなた達は魔物の大量発生という魔力を使わねばならない事態に遭遇したのよ。……何も後ろめたいことはないわ。むしろ、誇るべきよ。正しい場面で正しく魔力を行使したのだから」
リオンはどうリアクションすればいいのか分からず、とりあえず「ありがとうございます」とだけつぶやくように言った。ひなも、それに続くように言葉を言う。
「……さて。今回の事件の詳細なのだけど……特進クラス内にて、一応ざっと説明はされているわよね?」
話が切り替わることで、リオン達の少しだけ表情が和らいだ。
「そうですね。昔に同じような、魔物が大量発生する事件があったということを聞きました」
「ええ。その時に聞いた話もあるかもしれないのだけど、大事なことだから私からも話させてもらうわ」
一呼吸おいて、宮咲校長は説明を始める。
「17世紀前半のことね。スイスで、突然魔物が局地的にに大量発生して、一般人を襲い壊滅的な被害をもたらした事件があったのよ。で、その犯人は過激派の魔法使いだった。歴史で習ったでしょうけど、その時はちょうど魔女狩りの最盛期なの。非魔法使いに対して、並々ならぬ恨みを持っていたのでしょうね」
魔法使いにも派閥がある。大きく分けて、魔法で非魔法使いを支配しようと目論む派閥と、非魔法使いに寄り添い共生していこうとする派閥の2つがある。前者が過激派、後者が穏健派と俗に呼ばれており、魔女狩り等で魔法使いの数が大きく減少した現在では、その大半が穏健派と呼ぶべき思想を持つ。
当然ながら帝華学園グループも穏健派であり、それに則って特進クラスの授業内容は組まれている。
「さて、昨日の事件なのだけど……間違いなく魔法使いの仕業でしょうね」
宮咲校長の顔が真剣なものになる。しっかりと伝えるように、言葉を紡ぎ始める。
「実は、過激派に属する魔法使いの仕業だろうと思われる事件は現代でもあるにはあるのよ。でも、犯人の魔力が大したことがなく、魔法使いではない警官でも容易く逮捕出来てしまうケースが多数だったわ。……しかし、今回の事件は違う。質こそ悪いものの、あんなに大量の魔物を使役できる魔法使いはそうそういない。それにターゲットは魔法使いでなく大勢の一般人。質より量を取ったと考えると、一般人への殺意もかなり高そうだわ」
こう話を聞かされると、相当危険な魔法使いと直接ではないが対峙してしまったのだと、リオンは危機感を覚えた。
「現在帝華学園でも独自で事件を追っているのだけど――今回の事件の犯人は、言うまでもなく非常に危険よ。あなた達に復讐しに来る可能性も充分にあり得るわ。その時、学園があなた達を守れるとは限らない。……常に警戒を怠らないことね」
宮咲校長の言葉に、リオンとひなは硬くうなずいた。