たった一人の堕ちた英雄の物語

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月の下の英雄

月の下の英雄

 

 

見渡す限りにフジツボと奇怪な虫が蔓延っている悪夢の最奥、漁村。全ての罪の始まりの場所であり、ビルゲンワースが抱える最大級の秘匿である。

それを暴かんが為にやって来たのが、黒い羽根飾りのような意匠を拵えた帽子に覆面、更に黒いコートとブーツ、手袋をつけた異様な人間だった。

 

その名は「狩人」

 

それ以外の名を持たぬ夢見る者であり、これ以上ない良い狩人でもある。上位者と呼ばれる諸々の存在、認知出来る限りのそれに対しあらん限りの憎悪を持ち、故に善悪関係無く全てを狩り尽くさんとする。今も彼は眷属と成り果てた漁村民に剣を突き立てた所であった。

衣服に飛び散った液体と肉片を払いながら、その剣を抜き肩に担ぐ。

ふと、狩人の濁った瞳がその剣を見つめた。少し色褪せた銀の美しい刀身を持ったその大剣は、しかしまだ真の輝きを隠している。

狩人がそれをなぞるとまるで彼に呼応するかのように触れた場所から緑色の粒子がふわりと散るのは、その場所に似合わぬ幻想的な雰囲気をしばし醸し出した。

狩人の濁った瞳が、まるで憐れむかのように少し細められ輝きを取り戻す。

 

狩人にとって本来のその剣の持ち主は、この糞溜めのような悪夢の中で一際輝いていた人物だった。

 

 

 

先程石ころ集めの婆の臓腑を抜いた手をぞんざいに振るって少しだけ綺麗にする。そうしなければ脂まみれの血によって武器を取り落としてしまいそうになってしまうからだ。

血に塗れるのは悪い気分ではないが、だからといって横着すればそれはそれで面倒な事になる。

だから狩人はさっと手を払い衣服で血を落とし、眼前の死体溜まりに目をやる。

血の河にも蠢くような人の死体の山が数多くあったがここは一際悍ましい。腐乱臭と鉄臭さが混ざり合い、この世の物とは思えぬ異臭を醸し出す。

最早瘴気と化したそれを吸わぬように、狩人はより一層口と鼻を覆うマスクを深く着ける。

それにそうしなければいけない理由はその臭い以外にもあった。

 

「あぁ...あんた、助けてくれ...」

 

「あいつが...醜い獣がやってくる...」

 

「あぁ、呪われた、ルドウイークが...」

 

死体の一つがそう言って懺悔の言葉を吐き出すと同時に、死体溜まりの奥にいた巨体がこちらに足を踏み出してくる。

いや、それは脚ではなく腕だったかもしれない。もしかしたらどれでもない別の何かだったかもしれない。

だがそれはゆっくりと歩み寄る。醜悪さを極めた馬を更に醜悪にしたような、異常な獣憑きが。

身体のあちこちには明らかに不必要であろう人間の足や腕が余分に何本も生え、何かの触覚のようにゆっくりと上下している。

馬の頭の横についた丸い穴のような口の中には無数の目玉が張り付き、開いた瞬間狩人をぎょろりと見つめた。

 

あぁ成る程、これは確かに化け物だ

 

狩人が今まで見た中で最も悍ましいと感じるそれは嗄れた甲高い雄叫びをあげる。それはまるで憎悪を吐き出すかのようで、どこか救いを求めているようで、不快な鳴き声だった。

 

それの名はルドウイーク。悍ましい獣と化した、英雄の成れの果てである。

 

 

 

 

 

 

ルドウイークは英雄だった。

医療教会最初の狩人としてヤーナムに蔓延り出した獣を狩り、英雄となった。その人柄と持っていた巨大な剣を擬えて「聖剣の狩人」と呼ばれ、大々的に獣を狩っていた。

夜にひっそりと、誰に知られる事も無く獣を狩っていた最初の狩人の時代から新しい狩人の在り方の時代になったという事だったのであろう。

それがルドウイークには誇らしかった。狩人が明るみに出る。つまりこれからは遠慮なく人を守れる。知られる事が無いようにという制約のなかではやはり助けられる人数には限りがあった。しかしそうではない、医療教会として、また英雄として全ての民衆を守る事が出来る。

ルドウイークにはそれが酷く誇らしかったのである。

 

 

 

 

 

耳をつんざくような絶叫を上げながら、醜い獣は狩人にその巨体を弾丸にして突撃する。馬車などというレベルではない、それは最早走る鉄の塊、列車のようである。

地面に溜まった血を飛沫として撒き散らしながら迫り来るそれを狩人は容易く右に躱し、頭が壁に当たって隙が出来た所を手に持ったノコギリ鉈で脚部の皮肉を削ぎ落とす。

それに反応し醜い獣が後ろ足で勢いよく蹴り上げるがそれも狩人は一重に左に躱し、今度は胴体を削り切る。

 

あぁ、やはりつまらない

 

英雄と聞いていたルドウイーク。その成れの果てがこのザマだと誰が想像しただろうか?

確かに獣となったルドウイークは強い。巨体でありながらどの獣よりも素早く動き、ただ獣化した訳ではない醜い身体は逆に意表をつく動きとなって狩人に襲いかかった。

ルドウイークが異常に伸びた右腕でこちらを叩き潰さんと猛烈な速さで追撃してくる。

それを躱し銃撃で牽制しようとするとめり込んだ腕を地面の石畳ごと引き剥がしてこちらに振りかぶってくる。

正に暴力の塊、獣の極致。本能のままに暴れまわるそれは手がつけられない。

だが狩人にとってはそれだけだった。結局奴は「獣」なのだ。自分が狩る側であちらが狩られる側、それは例え何十回死のうが変わらない。

意志がない、誇りがない。故に昂りも起こらない。冷めた頭と目で醜い獣を見やり身体だけは限界まで動かしながら狩人はそう考えた。

いつもこうだった。意志無き相手を狩るだけの戦いとも言えぬ戦い。勿論一方的などという事はない、何回も何十回も何百回も死んだだろう。だが昂りは無い。最初は恐怖から逃れる為に、次は向かいくる火の粉を払う為に、最終的にはただ事務的に戦った。

 

今回もそうなるだろう。醜い獣が英雄であった名残をちらりと見て、深い溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

「けっ、何が英雄だ。ただの血喰らいのキチガイ共じゃないか。関わるな関わるな、あいつらが獣を蔓延らせてるって噂もあるんだ」

 

ある獣狩りの夜。とある一人の壮年のヤーナム民がルドウイークら聖剣の狩人を見てそう吐き捨てた。ルドウイークは、それを聞いて顔をしかめる。

知っている。最近血に酔った狩人が増えていると同時に獣が増えている事も、自分が英雄でない事も何もかも。

心が折れそうだった。民衆の為にどれだけ身を削ろうと血に塗れようと仲間の死を看取ろうと、報われるどころか落ちぶれていった。

 

何故だ?何故?

 

ただただ疑問ばかりが増えていった。剣を振るう腕も重くなり、迷いが増える。

だがそれでも、それでもこの剣の光と月明かりだけは彼を見守っていた。

 

 

 

 

悲鳴。絶叫。慟哭。

どれとも付かない醜い叫びが死体溜まりに響く。馬のような口から吐き出された血と共にその声が吐き出され、揺れる足は崩れて遂に穢れた体躯がズシンと狩人によって叩き伏せられた。

白濁した瞳がまるで夢遊病のように宙を彷徨う。あぁどこまでも醜悪さを極めた化け物だ、呪いなどという表現は生ぬるい。つくづく狩人はそう思う。

 

早くこんな狩りは終わりにしよう。

 

狩人はノコギリを鉈へと変えその馬のような頭部へと狙いを定める。如何なる化け物であろうとその頭蓋をかち割られればたまったものではない。勿論頭蓋を割ろうと動く奴はいるが、ならば動かなくなるまでこの鉈を振り下ろして肉塊へと変えてしまえばよい。

勢いよく腕を振り上げ、鉈を持つ手に思い切りの力を込める。

 

――その時、彼の英雄の名残が地面へと落ちて突き刺さった

 

 

 

 

ルドウイークは血に呑まれた。理性の話ではない、文字通り医療教会の実験により身体を壊された。上位者の血を過剰注入する事による戦闘能力の拡張、その最初の実験体として選ばれたのがルドウイークであった。

何故ならば、彼の持つ剣が上位者由来の遺物であったから。その影響を受けながら正気を保った彼だからこそ実験に値すると医療教会は踏んだのであろう。

ルドウイークはただ絶望に塗れた。信じていた月光はただの遺物で、導きの光は上位者の力であるだけだった。だからこそ彼は、絶望のせいで醜悪な獣と化した。医療教会の当事者は故にこう言うのだろう、呪われたルドウイークだと。

そうなったとしても彼はまだ忘れられなかった。自らの月光を、導きを、師を。目の前から無くなってしまった薄暗く光るその剣を。

自らが英雄となったその証を、夢に呑まれた後も決して忘れる事は無かった。

 

 

 

 

目が、それを見る。薄暗く光る月明かりのその剣を。

身体が、反射的に動く。自分の英雄の名残がそこにあったから。

そうだ、そうであった。

何故自分は忘れていたのだろう。この月明かりの光を、導きを、月光の大剣を。

手に握る。あぁ何と懐かしい感触だろうか。冷たい鉄の感触。だがどこか暖かい、自らの一部のような感覚。

 

「あぁ...ずっと、ずっと側に居てくれたのか」

 

「我が師、導きの月光よ...」

 

私は剣を構えた。眼前に居る素晴らしい狩人に感謝する。と同時に、彼を狩るべき敵として見やる。

これはきっとわがままなのだろう。英雄のまま倒してほしいという自分勝手な私の願い。だが罪悪感は無い、むしろ清々しい。きっと彼は私の全力を受け止めてくれる、私の生き様を脳裏に焼き付けてくれる。だから全力で戦おう。私の狩りを、月光を、彼という恩師に覚えてもらおう。

そうだ、何故忘れていた。私が聖剣の狩人として言われていた事を。

フゥと息を吐き、脚に力を込めて剣を持つ腕を引き締め、それを思い出した。

 

 

 

 

 

だからルドウイークは心折れぬ、ただ狩りの中でならば

 

 

 

 

狩人は驚愕した、そして狂喜した。彼が英雄の生き様を忘れていなかった事に。

聞こえてくる、彼の声が。感じる、彼の闘志が。

構える剣から覗く目は意志に溢れ、爛々と輝いている。あぁこれだ、これこそ英雄だ。最早彼は獣などという下等な存在ではない。

彼はもう狩人、ただ一人の英雄だ。

口がどうしても笑みで歪んでしまう。ここまで喜んだ事はヤーナムではあり得なかった。

この狂喜は隠さないむしろこれを含めた自分の全力で戦う。そう決意し武器を変える。

 

ルドウイークの聖剣

 

鞘が大剣となっているそれは自分にとっては獣用ではない対人用の武器であるが、故に絶対に使う事は無いだろうと思っていた。

だが彼はそれを握る、当たり前だろう。英雄と対するならば獣に対する武器など無礼に値する。だから英雄には英雄の武器を持ち出したのだ。

直剣を鞘に差し込み繋ぎ合わせて大剣と成してルドウイークを真正面に見据えて構える。

ふとルドウイークの口が微笑んだ気がした。

 

さぁ、始めよう

 

そう目で伝えると彼は静かに首肯し、同時に月光の大剣の光が膨れ上がる。

そして剣を振るったと同時に、巨大な光の波が狩人に襲い掛かった。

ゆっくりとしかし確実に進み来るそれを下にスライディングして掻い潜ると同時に起き上がり、前へとステップして突撃する。

狙うは突き。この巨体ならば下手な斬撃よりも一番深く肉に食い込む突きが効果的であろう。

そう考え剣を構えて突撃するがそれを甘んじて受けるルドウイークではない。光波を放つ為に振るった腕を素早く引き戻し、彼も突きの構えを取る。大剣に月明かりの奔流を纏わせ膨張させた絶大な一撃。狩人はそう分かって敢えて突きの構えを崩さない。

そして切っ先同士がぶつかり合い、凄まじい衝撃が狩人を襲う。

身体の内側で暴れ狂うような強烈すぎる肉体の破損を甘んじて受け入れ、突きが終わって暫し空中に固定された鞘から直剣を抜き取る。

そうこれは仕掛け武器。ありとあらゆる状況に対応する為に工房が考え出した偽物の聖剣。だが時として贋作が本物を超える事もあり得る。鞘を敢えて血溜まりに落とすと同時に抜きはなった直剣を構え前にステップし、懐に飛び込むと共に剣で肉を真横に切り裂く。そして散弾銃を密着させ撃ち放った衝撃を活かしてすぐさまバックステップし鞘を拾って背に背負う。

意表を突いた素早い一撃離脱、まずはそれで肉を削る。

だが鞘を拾う隙をルドウイークは見逃さない、狩人が一瞬視線を外した時にすぐさま両腕を振りかぶり横に一閃する。豪快な風切り音を立てながら迫り来るそれを狩人は屈んで避ける。

だがとてつもない速さで続く返しの横一閃を放ってくる。正しく豪剣であり、避けるのが最善手ではあろう。だが縮めた脚では横に跳ぶのはいささか無理がある。だから狩人は大剣状態にした聖剣の鞘部分でその剣を受け止める。突きとは違う横殴りの衝撃が狩人の身体ごと壁へと吹き飛ばした。

だが距離はなんとか取った、大きな衝撃で骨が何本か折れたかもしれないがそれだけだ。

 

だが狩人には未だ光波は意識外であった。

 

輸血液を入れ前を見るとそこには光の波を蓄え今にも発射せんとするルドウイークが居る。

吹き飛ばされた体躯を何とか起き上がらせて横へ飛ぶが、光波が壁に当たり、出来た薄緑色の爆発に巻き込まれて狩人は入り口へとまた大きく吹き飛ばされる。だが吹き飛ばされた事により距離を大きく開ける事が出来たのは僥倖だった。

剣を杖代わりにして起き上がり、ふぅと短く息を吐いて眼前の英雄に集中する。

それはあちらも同じようで、両腕をゆらりと落とし休んでいるが眼は狩人の身体全てを射抜いていた。

 

一瞬の間。その後に再びルドウイークが動く。

 

光をあまり溜めずに光波を二連続で切り上げるように放ち狩人を牽制する。避けるのは容易い。だが右に左に身体を動かさせて疲労を蓄積させる目的があった。

ルドウイークの狙い通りに狩人は右に左に華麗にステップで避ける。

舞いのような鮮やかな回避だったが光波を放った後すぐルドウイークはその馬のように膨れ上がった脚を動かし剣を振り上げながら駆ける。

速度自体は獣の時に比べれば大した事は無いが、一分の隙もありはしない。懐に入れば恐らくそのまま踏み潰される、かと言って距離はこれ以上離せない。

だからこそ彼は左横一文字に振るわれたそれを踏み台にして高く跳躍した。

狙いは一つ、一撃必殺。落下する時の重力を活かして巨大な体躯を力任せに斬り裂こうという算段だ。

跳んだ場所にあった腕を踏み更に跳躍する。常人離れした脚力を持つ狩人だからこそ為せる技だ。

だがルドウイークはそれをも読んでいた。自分のこの巨大な体躯を利用してくるであろうと。

だからこそ彼は剣を振りかぶった勢いに任せて身体を回転させる。そして剣を遠心力を利用して上へと持ち上げ大上段から空中に浮いた狩人の身体を真っ二つにせんと振り下ろした。

空中でならば避けようがあるまいと言わんばかりに無慈悲に迫るそれを見て、咄嗟に狩人は腰に提げていた散弾銃を抜き放ち右に発砲する。一見意味が無いように思えるが、この散弾銃は尋常の物ではない。

獣を狩る為に調整されたそれの反動は凄まじく、空中でありながら狩人の身体を左に動かす事に成功した。

ルドウイークの斬撃は正確無比であると狩人は何度かの打ち合いで判断した。空中に浮いていようが何をしようが正確に身体の中心を狙って剣を振るってくる様は、聖剣の狩人に相応しい素晴らしさである。

だがそれは同時にイレギュラーには対処し難いという事でもある。

一分のブレも無く振り下ろされた月光の大剣は散弾銃を半分に切り落とす結果に終わった。

そしてガラクタと化した散弾銃を投げ捨て聖剣を両手にしっかりと握り、大きく振りかぶる。

重力に力を任せて身体に食い込んだ聖剣は、臓腑や骨肉全てを巻き込んでルドウイークの肩口から一番下まで切り裂いていった。

傷口から血が滝のように流れ出で、ルドウイークの顔が苦悶に歪む。

だが終わらない、終わりはしない。ルドウイークはそういう狩人だ。

崩れ落ちそうになる身体に力をあらんだけ込めて起き上がらせ、今まで以上の月光を大剣に纏わせていく。

そして両手で剣を持ち、地面へと切っ先を向け、更に光を凝縮する。

 

不味い

 

直感的にそう判断した狩人はそれが振り下ろされる前にバックステップし何とか距離を取ろうとする。

だが見立てが甘かった、それは光の波などという生易しいものでは無かった。

それは濃縮された月光の爆発。方陣のようにルドウイークを囲い周囲の全てを吹き飛ばす。

その余りの力に血は浄化され、血飛沫では無く水飛沫がルドウイークの周りに飛び散る。

だがこれでは終わらない。突き刺した剣に先程よりも更に更に光を貯めていく。

それはまるで満月のように。薄明かり以上の明るさは幻想的であり、甲高い共鳴音はどう考えても人間が耐え切れるものでは無い事を暗示している。

狩人は爆発は何とか避けた。だがその爆発を避けるのに精一杯でもう動く力を全て使い果たしてしまった。あの剣が振り下ろされないワケが無い。当たれば痛みも無く全て消滅するだろう。

 

 

狩人は懸けた。自らの肉体が動いてくれる事に。

 

 

 

 

「ぬおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

気合いと共に最大まで溜めた光波が正に奔流となって前方全ての存在を消し飛ばす。

血溜まりは全て水となり、石畳は塵と化し空気に混ざる。予想通りの圧倒的な光の濁流は、確かに全てを飲み込み無へと帰した。

 

だがその奔流の奥から聖剣が投げ飛ばされる。

 

それはルドウイークの傷口に深く突き刺さり、大きく傷を広げていく。

剣と肉の間から血が吹き出し、水を汚す。

 

そして奔流の奥から狩人が勢いよく駆けてきた。

左腕を奔流により消し飛ばされた痛みなど感じていないかのように猛然と狩人は突き進む。

そして刺さった大剣を右手で掴むと同時に捻り混んで中を搔きまわし、力任せに右にルドウイークの骨ごと切り裂いた。

さしもの英雄も剣を杖にし、膝を折って崩れ落ちる。

ここだ、今こそが英雄に打ち勝つ最後のチャンスだ。

ルドウイークの聖剣は片腕で振り回すには余りにも重い。だが狩人は全身全霊の力を込めて項垂れた首元へと大剣を切り上げる。

あまりの負荷に右腕の肉が裂け、骨が飛び出る。だが痛みなど気にしている場合ではない。今やっと、彼の悪夢を終わらせられるのだから。

 

 

 

そして贋作の大剣は、英雄の首を跳ね飛ばした

 

 

 

 

水場と化した死体溜まりの隅に首が転がる。満身創痍の状態で狩人はその首に向かって歩んでいった。

 

ふと、首が動く。

 

眼ははっきりとこちらを捉え、息をしている。こんな状態でも生きてしまうほど英雄の呪いは深いのかと、狩人は憐れみの目を向ける。

彼に見つめられたからか、憐れみを感じたからか。ゆっくりとルドウイークは喋り出した

 

「狩人よ...教えてくれ」

 

「教会の狩人は、光を見ているかね?」

 

「私がかつて願ったように、彼等は名誉ある教会の剣なのかね...?」

 

とてもそうだと言える状態では無かった。医療教会の意志や名誉などとうの昔に腐り落ちている。教会の狩人は医療者と名前を変え、民を食い物にしている。民衆からもハエの如く嫌われ名誉などありはしない。

.....だが、狩人は英雄を呪縛から解き放ってやりたかった。

導きの光と、堕ちた英雄という呪縛から。

今までなら知るものかと一蹴していただろう。だが彼は少なくとも、侮辱に値する狩人では決して無かった。

だから、あぁそうだと頷いた。彼等は今も名誉ある、聖剣の狩人に連なる狩人達であると。

それは狩人が吐いた初めての優しい嘘であった。

 

「おぉ、そうか、それは良かった...」

 

「嘲りと罵倒、それでも私は成し得たのだな...」

 

「暗い夜に、しかし確かに、月光を見たのだと...」

 

その言葉を最後に英雄は目を瞑り、寝息を立て始める。

何とまぁ呑気な事だと思うと同時に、生という呪縛からは逃がれられなかったという事実に悪寒が走った。

狩人は、もう少しルドウイークに近づくと、先程まで使っていた贋作の聖剣を墓前の花の様に供える。今の彼には在りし日の呪縛よりも、未来の教会の剣の名誉の証が必要だと思ったからだ。

代わりに狩人は地面に突き刺さった月光の聖剣をゆっくりと引き抜く。

刀身を舐めるように見渡した後、手で刀身をなぞってみる

すると薄緑色の燐光が寄り集まり一つの大刃へと変じた。

 

なるほど美しい

 

芸術に疎い狩人でも分かる程の魅入られるような美しさの剣は、やはりどこか昏い物を感じる。上位者由来の遺物である事はまず間違い無いだろう。

燐光を振り払い大剣へと戻すと空いた背中に背負う。

きっとこれは新たな力になる。そう考えながら狩人はゆっくりと悪夢の先へと歩みを進めていった。

 

 

英雄の切なる願いを叶え、この暗闇に月光を齎す為に

 




どうも下級騎士です。何とかルドウイークの短編も書き上げる事が出来ました...!今は何とか色々書けるようになってきて嬉しいですねぇ。相変わらず駄文ですが...

ルドウイークさんは最高にカッコいい、はっきりわかんだね

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