『彼』は、“六人目”だった。
四人の男の子と、一人の女の子。その子供達よりも少し年上な、少年の『彼』。
『彼』は他の子供達の面倒を良く見て、子供達にも慕われて。けれども、他の“大人達”から見れば、『彼』もまだまだ子供で──他の子供達と同じように、可愛がられ、育てられた。
時は過ぎ、やがて、運命の扉は開かれる。
問われた六に、答えられた五。足りぬ一つは誰か。
それぞれの子供達の身に潜む特性を考えれば、恐らくは『
その時、その場の彼女に為す術はなく──どうか、無事でと、祈り、願った。
◇
私が、『あの人』に出逢ったのは──忘れもしません。かつて私が所属していたギルド、『
恨まない。嘆かない。笑っていよう。そう思っていても、それでもどこか心の中では悔しかった。
だから、八つ当たりをするように、その日の仕事を一生懸命に片付けて、無理矢理に時間を作って。
私は、気晴らしをするように海岸沿いに散歩に出たんです。
そこで、私は『あの人』に出逢った。
砂浜に倒れ伏した人。
最初、死んでしまっているのかと思って、恐る恐る近づいて。
近づくにつれ、胸が緩く上下していることに気付いて、生きているのだと解ったのです。
もしも大怪我を負っていたとしても、治療法なんて知らない。その時の私には、そんな知識は無かったから。
けれども私は、何となく……そう、本当に何となく、見捨てて逃げるのは嫌で、駆け寄って。
ただ、どうしようもなく、揺さぶりながら「大丈夫ですか? しっかりして」と声をかけ続けました。
やがて、随分と衰弱しているのか苦しそうで……「水」と小さく呻くように言ったんですよね。
それで私は、確か近くにわき水の小川があったのを思い出して、そこまで駆けて行って。
もちろん器なんて無かったから、両手にすくって駆け戻って。
だけど、そんなやり方じゃ水はすぐに零れちゃって、その人の所に戻った頃には、ほんの少しが残った程度になってしまっていました。
口元に垂らしたほんの僅かな水だけど、それでも気付けにはなったんでしょうか。目を覚ましたその人は、私の頭に手をやって、優しく微笑み掛けてくれたのを覚えています。
「声をかけ続けてくれたよね? お蔭で目を覚ませたよ。ありがとう」
『あの人』から掛けられた、初めての言葉。今でもちゃんと覚えています。
きっと私は、あの時、あの瞬間から──
……そしてその日から、私はお仕事の合間を縫って、自由な時間が出来る度に、『あの人』に逢いに行くようになりました。
幸せ、って言って良いんでしょうか? ……うん、きっと、その時の私は確かに幸せだったと思います。
ギルドでのお仕事を終わらせて、『あの人』に逢いに行って、他愛のないお話をして──そんな小さな逢瀬の時間は、『赤い蜥蜴』が敵対ギルドの『
ゼーラを連れて森の中へ逃げ出して……気を失ってしまった私が次に目が覚めたとき、最初に飛び込んで来たのは、私を心配げに見つめる『あの人』とゼーラの顔。
ギルドのあった場所へ行けば、そこはもう誰も、誰も居なくて、皆死んでしまって──その時から、私と『あの人』とゼーラの、三人だけ……あぁ、『あの人』にとっては、私と『あの人』の二人だけの生活が始まったんです。
しばらく経ったころ、奇跡的に無傷で残っていた、ギルドハウス地下の書庫。そこにあった書物で魔法の勉強をすると言った私に、『あの人』も一緒に勉強したいと言ってきた。
私が学んだのは、幻影の魔法。『あの人』が学んだのは、同調の魔法。
他人と魔力を同調させる……それが基本であり、極意でもあるその魔法。
なんでそんな魔法をってその時は思ったけれど……今にして思えば、答えは簡単ですよね。
その魔法を身につけて、「それじゃあ早速」って言って、私と魔力を同調させた『あの人』。
その日以降、『あの人』からゼーラに声を掛ける姿を少しずつ見るようになったのを覚えています。……そう、『あの人』は、ゼーラの姿を見るために──ゼーラと接することが出来るようになるために、その魔法を身につけてくれたんです。それに気付いたのは、あの時……ユーリに真実を告げられて、ゼーラとお別れした、あの時以降なんですけど。
それからは、本当の意味で三人で過ごしました。
そして、ユーリとプレヒト、ウォーロッド……貴方達が来て、旅立って──マグノリアを解放した、あの日が訪れました。
皆も知っての通り、あの時私は、天狼玉の悪意のみを砕くために『ロウ』を使って、この姿のまま、年を取ることは無くなりました。
けれど……これは、私も後になって知ったのですけれど、私だけじゃなかったんです。
『ロウ』を使ったあの時、私の直ぐ側に、『あの人』も居た。私と一緒に『ロウ』を使ってくれていた。
……先に述べたように『あの人』はゼーラを認識するために、私と『同調魔法』で魔力の同調をしてくれていました。ううん、今も、この時、この瞬間も、同調し続けてくれているんです。
そして、一緒に使った『ロウ』。
……もう解りましたか? そう、あの時一緒に使った『ロウ』は、“それぞれが別々の『ロウ』を同時に使った”のではなく、本当の意味で、“一つの魔法を二人で使った”んです。
未熟な状態の『ロウ』により命の選別をしてしまった私達は、『アンクセラムの黒魔術』の呪いに掛かりましたが、使った魔法は二人で一つ。それゆえに、掛かった呪いもまた、二人で一つとなってしまって──結果として、私は『あの人』に辛い役割を押しつけてしまっていたんです。
別名で『矛盾の呪い』とも呼ばれるこの呪いは、先に挙げたように不老不死になるものと別に、もう一つの影響を周囲に及ぼします。
……それは「命を尊く思えば思う程に、自身の周囲の命を奪う」というもの。
けれども私達の呪いは二人で一つ。私が“入力”で、『あの人』が“出力”。
つまりは、私が命を尊く思う程、『あの人』の周囲で命が奪われていく。
……ギルドの中で『あの人』の近くに居ると調子が悪いとか、気分が悪くなるっていう声が出ていたのは知っています。
それは呪いのせいで、ひいては私のせいでもあります。ユーリには特に謝らないといけないですよね。……マカロフが産まれた時、リタの命が一時危ない状況になったのは、あの時私がマカロフの誕生を嬉しく思ってしまったから……あの時、たまたま『あの人』は離れた所で見ていたけれど、それでも呪いは、出産で弱っていたリタに影響を及ぼしてしまいました。
……一歩間違えれば、リタは……ううん、リタだけじゃなく、産まれたばかりのマカロフも、命を失うところだった。
あの時『あの人』が貴方達を祝うことなく、急にギルドを出ていったのは、多分それに気付いたからだと思います。
……それから、なんですよね。『あの人』がもうずっとギルドに顔を見せなくなってしまったのは。
私のせいなのに。私が、命に尊さを覚えなければ、あの人は苦しむことはないのに。けれど、あの人は自分が引くことで収めてしまった。
けど──ごめんなさい。私は、ギルドの皆が好きで、新しい生命の誕生を見れば嬉しくて……なによりも、私は、『あの人』を愛している。この想いを無くすことなんて出来ないんです。
──だから。
……皆にお願いがあります。
『あの人』を迎えに行ってきます。
『あの人』の──リヴェルグの帰る場所を、守っていてください。
きっと、その時には大丈夫になっているはずだから。リヴェルグが帰ってきたら、「お帰り」って言ってあげてください。
どうか、お願いします。
「メイビス・ヴァーミリオンの独白/あるいは回顧録」
◇
X698年。ギルド『フェアリーテイル』のギルドハウス前にて、マスター代行であるプレヒト・ゲイボルグは、一人の青年を出迎えていた。
およそ一年ほど前に、顔を見せなくなり、ギルドから消えてしまっていた青年。
彼の腕の中には、小さな少女が大切に抱えられていて、まるで眠るように、静かに横たわる白い少女の姿に、プレヒトは目を見開いた。
「……彼女は……メイビスは、死んでいるのか?」
問われた青年は、静かに首を横に振って答えた。「完全に死んではいない、けれど、生きてもいない」と。
「すぐに蘇生用の
「……お前はどうする気なんだ?」
着いてこないのか、と問うプレヒトへ、青年は告げる。「呪いを解く方法を探しにいく」と。
今はメイビスが
青年の様子に、その意思は硬く止められないと悟ったプレヒトが「メイビスは任された。いつでも帰ってこい」と告げると、青年は深く頷き応えて。
寂しげに、そして愛おしげにメイビスの頬を撫でた青年は、動かない少女へ、優しく語りかけた。
「──少しだけ、待っていて。妖精を探しに行ってくるよ」
書かなきゃ行けないものが滞っているのに、思い付いてしまったので続かないのに書いた。なので短編。書くだけ書いたらスッキリしましたが。反省。
ヒロインはメイビス。
……とはいえこれだと、ゼレフの扱いが困るんですよねぇ、話的にも、戦闘的にも。(公式)チートすぎるんよー。
ご都合主義的なアンチゼレフ能力でも考えないと……となります。
アクノロギアはもう原作展開的に片付けられるので(乱暴)どうとでもなるのですが。
多分この先があるなら、本編のスタートは原作開始と同じぐらい。
話のピークは天狼島編辺り。オリ主とメイビスの劇的な再会!片方幽霊ですが。
ちなみにサブヒロインはウェンディ。
ユキノも良いんですが、オリ主の立場というか背景的にウェンディですね。シェリアも漏れなく付いて来る(来ない)し。