Fairy Tales End.   作:風鈴@夢幻の残響

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※続きません。


篭められた想い

 その日、マグノリアに在する魔導師ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の広間(ホール)を兼ねる酒場は、お祭り騒ぎに沸いていた。

 正確に言うのなら、このギルドはほぼ毎日騒いでいるようなものなのだが、今回は騒ぐ為の口実(・・)があるため尚更である。

 

「そんじゃあ、新しい仲間、ルーシィにカンパーイ!」

 

 そんな何度目かも解らない音頭を聞きながら、その口実にされた少女──ルーシィ・ハートフィリアは、疲れた様子でカウンター席へと避難した。

 「ただの宴会がなんでこんなに激しいの……」と漏らしたルーシィを出迎えたのは、「みんな元気だからねぇ」と少しズレた答えを朗らかに返した、看板娘のミラジェーン・ストラウス。そしてカウンターの上に胡座をかいて座り、パイプを吹かすギルドマスターのマカロフ・ドレアーだ。

 どっと疲れた様子で「ちょっと休憩……」と、一番左端から二番目の席に座ろうとしたルーシィを、ミラジェーンが慌てて止める。

 

「あ、ルーシィ、そことその隣の二席はダメよ」

「……? この席、何かあるんですか?」

「マスターが言うには、リザーブ席なんですって。……って言っても、マスターとギルダーツ以外、そこが誰の席なのか知らないし、誰かが座っているのを見たこともないらしいんだけどね」

 

 奇妙な話だと思った。今のミラジェーンの話し振りだと、もう何ヶ月……いや、何年もこの席に誰も座っていないということか、もしくは本当に誰も居ない時にのみ、この席に座る人が来るということになるだろう。何か曰くのある席なのだろうか。そう思いながら、件の席からさらに一つ空けた、左から四つめの席に座り、何とも為しにその二席を眺めるルーシィ。

 そんな彼女へ、マカロフがパイプを吹かしながら「気になるかね?」と声を掛けた。

 

「ええっと……はい、そりゃまあ、気になります」

「そうさな……ま、別に秘密にしとるっちゅう訳でもないしな」

 

 マカロフのその言葉に、ルーシィとミラジェーンが話を聞こうと身を乗り出した時だった。

 外へと続く両開きの扉を開け、誰かがギルド内に入ってきた。

 ルーシィがこのギルドに来た時に、彼女を連れてきたナツ・ドラグニルのように、騒々しく乱入するように入ってきた訳では無い。静かに……とても、自然に。場の空気を壊すことなく、するりと。事実、今の広間の喧噪も相まってか、多くの者は入ってきたことにすら気付いていなかった。

 入ってきた人物は二人。一人はフードを目深に被っているため顔はうかがい知れないが、恐らくは成人男性。そしてフードの彼の側を付いていく、年の頃は十前後だろうか、蒼銀色の髪の小柄な少女。

 フードの人物は悠々と、少女は戸惑うような様子を見せながら、マカロフの元へと近づいて来る。

 そして当然それに気付いた一人であるマカロフは、その人物へと顔を向けた所で驚愕するように目を見開いて、手に持っていたパイプを取り落とした。

 普段のマカロフの様子を熟知しているミラジェーンのみならず、この日初めて会ったばかりのルーシィにも“普通ではない”と解るマカロフの雰囲気にあてられ、彼の視線を追っていったところで、件の二人に気がついた。

 

「久しいな、三代目。もうどれぐらい振りかな?」

 

 マカロフの側まで来た男性はそう言いながらフードを取る。そこから出てきたのは、まだ年若い──恐らくは二十代前半と思わしき顔立ちの青年だった。

 青年は自身の横に居た少女を抱え上げてルーシィの横の席に座らせると、自分はその隣──先程ルーシィが座ろうとしてミラジェーンに止められた、左から二番目の『リザーブ席』に座る。

 それを見たルーシィが咄嗟に「あの、そこは……」と声を上げかけるも、マカロフが「いや、良いんじゃよ」とルーシィを制すと、「お久しぶりですな」と言いながら頭を下げた。

 

「今回は十年……とは言え、前に戻られた時はすぐに出られましたからな。その前と合わせるともう十七年になりますな」

「あぁ……いつの間にかそんなにか。そりゃあ知らない顔ばかりになるか」

 

 マカロフの答えに苦笑を浮かべた青年は、軽く振り向いて広間の様子を伺ったあと、隣で若干落ち着かなく、どことなく不安そうな表情を浮かべる少女の頭を撫でる。

 この時点で、見知らぬ人物が居ることに気付いた者も幾人も居たが、その人物が話している相手がギルドマスターであり、それなりに親しげな様子を見せているところから、不審には思いつつも様子を伺っていた。

 

「まぁ、巷で集まる程度の情報はいつも仕入れていたけどな。中々楽しくやっているようで何よりだよ」

 

 これは、ギルドメンバー達が依頼(クエスト)先で起こす様々なトラブルや騒動を指しての言葉であろう。とは言え、別段不快気と言うでもなく、言葉通り「楽しそう」と思っているのが解る声音であったからか、マカロフもまた「そうでしょう」と静かに笑みを浮かべた。

 

「ところで、その娘は?」

「弟子。……何時だったかな、実の姉がある集団に攫われたらしくてね。一人で取り戻そうと無茶していたところを保護したら、押しかけられてな」

 

 簡単に少女の境遇を説明し、「ほれ、挨拶」と青年が促すと、それまで静かに様子を伺っていた少女が、マカロフとミラジェーン、そして自分の隣に座っているルーシィの顔を順番に見たあと、ぺこりと頭を下げる。

 

「ユキノ、です」

 

 おずおずと名前を名乗った少女──ユキノに対し、ミラジェーンとルーシィがそれぞれ「よろしくね」と名乗り返し、マカロフは好好爺然とした表情を浮かべ、ウムウムと頷いた。

 そしてカウンターから中へと降り、ミラジェーンに、ユキノに果実水(ジュース)でも出してやるように言った後、自身はカクテルシェーカーを手に取る。

 

「ミラよ、よく見ておきなさい。彼がここに座ったら、コレを出して差し上げるように」

「マスター、それは?」

「……『フェアリーホワイト』。まぁ、俺の我儘で作ってもらった、オリジナルカクテルだよ」

 

 ミラジェーンの問いに、青年が答えた。

 出来上がったのは、白みがかった透明の、澄んだカクテル。マカロフはそれを二つのカクテルグラスに注ぐと、青年の前と、その隣──誰も座っていない、一番左の席に置く。

 グラスを手に取った青年が、それを隣の、誰も居ない席のグラスと軽く合わせ──チン、と響く、澄んだ音。

 ここに至りミラジェーンとルーシィは、このリザーブ席が、青年と、もう一人の“誰か”──恐らく、青年にとって大切な誰か──のものであると理解する。

 いや、青年が座った時にマカロフが止めなかった時点で、予想はしていた。それが確信に変わったというべきか。

 

「あの……ところで、この人はどなたですか?」

 

 そのまま、誰も言葉を発さない、幾許かの静寂が過ぎた後、タイミング的に丁度良いと思ったか、ルーシィがマカロフへ問いかける。

 それに対して何か言いかけたマカロフを手で制し、「そう言えば名乗っていなかったな」とルーシィとミラジェーンに向き直り、

 

「名前はリヴェルグ。理由(わけ)あって長い間旅に出ていてね。ほとんど籍を置いてるだけみたいになっているが、一応ここのメンバーだよ」

 

 そう言って「ほら」と右腕の袖を捲って前腕を出す青年──リヴェルグ。そこには確かにフェアリーテイルのギルドエンブレムが押されている。

 

「あ、じゃあさっきマスターが言っていた、十年と七年って……」

「ギルドを空けていた期間だね」

「ええぇ?!」

 

 ミラジェーンの疑問にサラリと答えたリヴェルグに対し、その余りに長い期間にミラジェーンとルーシィがと揃って驚きの声を上げたのも仕方無かろうか。

 

「それじゃあ、さっきからマスターが気を使っているっぽいのって……リヴェルグさんって、実は凄い人……?」

 

 上目遣いにそう聞いてくるルーシィの姿からは、何か凄い答えが飛び出すんじゃないかと期待しているのがよく解る。

 それに返された答えは、苦笑を浮かべて「いやいや」と頭を振るもの。

 

それなり(・・・・)に昔からギルドに在籍しているからな。三代目ともそこそこ(・・・・)の付き合いがあるのさ。後は……そう、昔ちょっと貸し(・・)があってね。だから、気を使ってくれているんだよ」

 

 つらつらリヴェルグが述べた理由を聞いたマカロフは、なんとも言えない表情を浮かべ──「まあ、そんな感じじゃ」とどこか諦めたように息を吐いた。

 

「……ああそうだ、それはそれとして三代目。ユキノもギルドに入れてやりたいんだが」

「この子をですかな? ……ふむ。無論構いませんぞ」

 

 話を切り替えるようにリヴェルグが言うと、少しユキノをじっと見たマカロフが、何かに納得したように頷いて同意する。

 それを受け、ミラジェーンがギルドエンブレムを入れるための、スタンプの魔道具を用意すると、ユキノに視線を合わせて笑いかける。

 

「ユキノちゃんは、どこにエンブレムを入れたい?」

「……お師さまと、同じところ」

 

 そう言って差し出されたユキノの右腕に、ミラジェーンがポンッとスタンプを押す。

 ユキノは自分の右前腕に入ったフェアリーテイルのエンブレムを見て、次いで視線をリヴェルグに移し、嬉しそうに笑みを零した。

 

「ふむ……今回戻られたのはその子のことを?」

 

 ユキノの様子に「やあぁん、可愛い!」と嬌声を上げるルーシィとミラジェーンを横目に、マカロフがリヴェルグに問うと、「それもあるが……方法(・・)を見つけたんだ」との答え。

 それを聞いたマカロフは目を見開いて──「然様ですか」と、感慨深げに息を吐く。

 

「灯台もと暗しだったよ。まぁ……とは言え、ようやく“妖精の背中が見えた”……って程度だけどな。これからはこっちに留まって、実験と検証を行うってところさ」

 

 「まだまだ問題は山積みだよ」と言うリヴェルグに、マカロフは「それでも、ようございました」と笑みを浮かべた。

 そんな二人の話は、当然すぐ側に居るミラジェーンとルーシィにも聞こえてくる。

 とは言え二人の話し振りから、あえて解らないように、抽象的に話をしていると言うのは理解できるし、であるならば、何の話なのか気にはなるが、突っ込まない方がいいのだろう。

 そう判断したルーシィは、「そう言えば、ユキノちゃん」と、自分の隣に座る可愛らしい少女に視線を向ける。

 

「あたしも今日、ここに入ったんだ。お揃いだね」

 

 ニコリと笑いながら掛けられたルーシィの言葉に、ユキノははにかみながら「はい」と頷く。

 

「ユキノちゃんは、どんな魔法を使うの?」

「……幻影の魔法を、習ってます」

 

 ルーシィの問いに、一度リヴェルグの顔を見たユキノはそう答えるが、一方のリヴェルグは「そうなんだけどなぁ」と苦笑しながらユキノを撫でる。

 

「実際のところ、ユキノは星霊魔法の方に適性があるんだよ。だからそっちをメインにした方がいいと思うんだが……俺はそれを教えられなくてな」

 

 「すまんな」と謝るリヴェルグに、ユキノはううん、と首を振り──二人のやり取りを聞いたルーシィが、「あの」と声を上げた。

 

「あたし、星霊魔法使うんですけど、良かったらユキノちゃんにアドバイスしましょうか?」

「いいのか? そりゃ助かるが」

「はい。あ、ユキノちゃんが良ければですけど」

 

 「どうする?」と訊くリヴェルグを見て、次いでルーシィの顔を見てからしばし考え……「よろしくお願いします」と頭を下げるユキノ。

 ルーシィは自分の胸をドンと叩いて、「任せといて!」と朗らかに笑った。

 

「そう言えば、ルーシィ……だったよな? 君は、このギルド……『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』っていう名前に篭められた意味を知っているかい?」

 

 掛けられた問いに対し、頭を振って「何か特別な意味ってあるんですか?」と逆に問うルーシィ。

 彼女の答えに、リヴェルグはどーなってんだ、とマカロフへジト目を向ける。

 

「……今って新人にその辺教えてないのか?」

「うむ……いや、申し訳ない」

 

 気まずげに言うマカロフに、確りしろよと言いたげに軽く溜め息を吐く。

 今の発言を鑑みるに、ルーシィにその問いをしたのも、彼女の先程の「自分も入ったばかりだ」という言葉を受けてなのだろう。……であるならば、彼にとって『ギルド名に篭められた意味』は、ギルドメンバーに知っていて欲しいものだったのだ。

 見た目年若い青年に、老人が注意されるという……というか、普段とは調子の違うギルドマスターの姿を見かねたというのもあるが、彼の気持ちをくみ取ったミラジェーンが「私も聞きたいです」と願い、同時にリヴェルグの袖を引いたユキノが「わたしも」と言ったことで、リヴェルグもまあいいかと切り替える。

 逆に言えば、知らないながらも『ギルドの想い』を汲んだようなことを言ってくれたのだ。そういう人材が自然と集まるのであれば、それほど嬉しい事も無いのだ。

 そう思い直したリヴェルグが意識を周囲に向ければ、どうやらこちらを気にしている幾人かも耳をそばだてているようだと認識し、ミラジェーンやルーシィ、ユキノだけではなく、他のギルドメンバーにも語りかけるように問いかけた。

 

「君達は、妖精が居ると思うかい?」

 

 唐突な話題転換にも思える問いに、戸惑いつつも「居ると思う」「居ないだろう」と、あちこちから様々な声が上がる。

 妖精。ギルドの名前にもなっている、不可思議なもの。居るとも言えず、居ないとも言えない、おとぎ話(フェアリーテール)の代名詞。ならばこそ。

 リヴェルグはカウンターチェアから立ち上がり、身体の向きを変えて、広場に居る全員に相対する。

 

「居るかどうかも解らない妖精の、有るかどうかも解らない尻尾を追い求める。故に、永遠の謎、永遠の冒険……それこそが、このギルドの名前に篭められた意味。

 その過程で手に入れるだろう、金も名誉も──他者から下されるだろう、賞賛も、罵倒も……そんなものは須く、ただの福次品。おまけに過ぎない。

 だからこそ──尽き果てぬ冒険心と探究心を胸に宿し、何処までも続く謎と冒険を求めて世界に飛び出せ! それが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導師だ!」

 

 かつての彼女(・・)の言葉をなぞるように、唄い上げるように、高らかに言い放ち──

 

「そして、その冒険が、いつまでも続く、終わらないものだとしても大丈夫。このギルドが、君達の帰るべき場所としてここに在るから……それこそが、このギルドそのものに篭められた想い」

 

 ギルドの名前と、ギルドそのものに篭められた彼女(・・)の想いを家族(メンバー)へと伝え、自身の胸を、軽く握った拳で叩いた。

 そう、全ては、ここ(・・)にあるのだと言うように。

 

「“ヴァーミリオン”の名に於いて、もう一度、君達に問おう」

 ──貴方達に問います。

 

 それは、その青年が醸し出す空気に当てられたのかもしれない。ただの、幻だったのかもしれない。

 けれど確かに、その場に居た者は皆──青年の隣に寄り添うように立つ、白い少女の姿を見たという。

 

 ──(そこ)に、妖精は居ますか?




・タイトルの「Fairly Tale」はおとぎ話の意。すなわち、おとぎ話の終わりに。
仮にこの話が続いたならば、それはきっと妖精を追い求めた少女が、妖精よりも素敵なものを手に入れて、おとぎ話を終わらせる話になるのでしょう。

・ユキノを攫ってきました(違う)。狂言回しではないですが、コイツ(リヴェルグ)をまともに係わらせるには、某かの切っ掛けが必要になりますので、その切っ掛け役ですかね。
ていうかニルヴァーナにユキノを連れて行ったら、早々にソラノと再会してしまいますね。ソラノちゃん妖精入りフラグ……? いやいや。
ちなみに天狼島にユキノがいかない場合は、七年後は原作と同じ十八歳ユキノ。行った場合はロリノのままになります。

・それなりに昔から=創設メンバー。そこそこの付き合い=産まれた時から知ってる。
原作でのウォーロッドに対する態度から考えると、コイツ(リヴェルグ)が居ると、マカロフさんすごくやりづらそうです。
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