魔王な嫁が世界を滅ぼす三秒前   作:織葉 黎旺

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見物と依頼の四分前

 

「大体この辺かしら?」

 

「おお、ここが……!」

 

 光己が感嘆の声を上げた。ロサーズキャッスルと城下町から数キロ、目の前に広がるのは古戦場だった。折れた槍、刺さったままの弓矢、点在するクレーターなど、未だ戦の傷跡が風化せずに残っている。

 

「たしかに、至る所に魔力の残滓が見えるね」

 

 光己の『拘束されぬ瞳(リベレートアイズ)』が光る。そのまま比較的大きなクレーターへと向かって歩けば、中に細かい魔石が散乱していた。

 

「こんなのがゴロゴロ転がってるのか……」

 

「うむ、実に期待できるね! 早速Aランクの魔石が見つかるとは!」

 

 光己が石を手に取りながら言った。魔石と言ってもピンからキリで、最低のEから最高位のSSまであり、大きさ・質・不純物の割合などでランクが定められている。Aといえば相当な価値があり、平民が買う給料三ヶ月分の指輪が大体このランク帯だ。手元の石だと、大きさ的には十数人分くらいになるだろうか。

 

「概ねこの辺りを採掘地にすればよさそうだな。ありがとうローザ嬢!」

 

「ホントに静かにやってよね? どうせこんなところ、あんまり来ないからいいけど」

 

「徹頭徹尾気をつける! 何だったら君の城に防音魔法を張っても──」

 

「ああ、いいいい。そーゆーのすらいらないから。創作と鑑賞の邪魔さえなきゃなんでもいいの♡」

 

「ほう! 鑑賞への干渉はやめてくれ、と!」

 

「上手いこと言ったみたいな面しないでくれる?」

 

 漫才じみたやりとりをしている二人に苦笑しながら、周囲を散策する。

 

「あっ」

 

「どうしたんだい、友よ?」

 

「いや、そこに落ちてるのって──」

 

「うん、どう見ても骨ね」

 

 人の、とローザが付け加える。土を被って所々罅割れたそれを見ても、これが人の果てだとは思えなかった。

 

 

「古戦場だし、珍しい物でもないでしょう」

 

「まあそれはそうなんですけど、なんとなく気になって」

 

 ここまで状態が悪いと、ルーティの能力で動かすこともままならないのだろうなとぼんやり思う。

 

「ちゃんとした死体見たのって、初めてかもしれないです」

 

「ルシファルちゃんの傍にいたらそんなの無限に見てそうな気がしたけど──そっか、あんたが来たのはあの子が丸くなってからだっけ?」

 

「そうですね。それに彼女──綺麗好きじゃないですか」

 

「ああ──そうね♡」

 

 魔王の癇癪に触れた者は、死体すら残らない──そういうことだ。親族もおらず葬式の機会なんてなかったから、『死』というものへの実感が希薄だった。そんなもの、骨だけ見ても何も得られないが。

 

「目の前で人が跡形もなく消し飛ぶのって、死への実感も何もないですからね──元からそんな人いなかったんじゃないか、って目を疑うばかりですよ」

 

「ふうん……? ♡」

 

「なんですか、その意味深な瞳は」

 

「いやー、色々あったのね♡」

 

「ああ、彼は深い深い人間だからね!」

 

「変なフォローをするな」

 

 言いつつも、光己は遺骨に触った。おいそんな不謹慎な──と止める間もなく、奴は骨の隙間から赤い何かを取り出した。

 

「ほら──深いからこそ、何でもなさそうな無縁仏から、SSランクの魔石を見出す!」

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

 先程の物よりずっと紅く、朱い魔石。無縁仏から取り出されたそれが、陽を受けてギラギラと輝く。

 

「いやあ、流石の俺も久々にお目にかかるね、こんなに純度の高い魔石は!」

 

「え、マジじゃんすごー♡」

 

 多少は驚いている様子だったが、二人ともそこまでテンションが上がっているようには見えない。五本の指に入る財閥の御曹司と、伝説の四地王の一人であれば当然か。

 

「たぶん相当な兵だったのだろうな、この無縁仏は!」

 

「お婿くん何やってんの?」

 

「いや、魔石貰っちゃったしせめて骨を埋めさせてもらおうと思って」

 

 丁度いいサイズのクレーターに骨を集めて、土を被せる。大した埋葬もできなくて申し訳ないが、せめてもの礼儀である。

 

「そうだな──古戦場を採掘現場にする訳だし、その道のプロに一度鎮魂を頼むべきかもしれないな!」

 

「あー、そういうの怠ってアンデッド系のモンスターに襲われたって話もあるもんね?」

 

「となるともしかして──」

 

「ああ──友よ! 四地王の一人、ルーティ嬢にお願いできないだろうか!?」

 

「いや無理無理無理。私、あの子にめっちゃ嫌われてるから。一応最近和解はしたけど、物を頼めるような関係じゃないよ」

 

「でもあたしから頼んでも断られるわよ? ミーティちゃんに避けられてるもん」

 

「ああ……」

 

 何となくそんな気はしていた。ローザ自身は何も思ってないだろうが、明らかにルーティは苦手そうなタイプだものな。

 

「お祓いなんて誰がやっても同じでしょ、お抱えの聖歌隊とかにやってもらったら♡?」

 

「それもそうか!」

 

「納得するな」

 

 気持ちが大事というし、鎮魂を試みるだけマシなのかもしれないが──まあいいか。

 

「そういえば我が友よ、君に渡す謝礼の内容を決めていなかったね。何か欲しい物はあるかい?」

 

 金でも物でも俺に渡せる物なら何でも渡そう、と光己は景気のいいことを言った。

 

「はーっ、婿くんはこれでも魔王の夫なのよ? そんな彼が満足いくものをあんたはあげられるのかしら?」

 

「正直厳しいだろうね! だが言うだけならタダだ、当然無理なものは無理と突っぱねるが、出来る限り検討しよう!」

 

 ため息混じりのローザに光己は笑顔で返した。

 欲しい物──そうだな、ここが魔石の採掘場ということを踏まえても丁度いいかもしれない。

 

「────と、─────をお願いしたい」

 

「ああ、そのくらいお易い御用だとも!」

 

「ふーん、そういえばまだだったのね」

 

 ローザも光己も、どこか嬉しそうに見えた。「その時が来たら、二人とも呼びますね」と微笑みだけ返して、品物の完成を心待ちにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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