ISΩ
1話 出会い
第2回ISモンドグロッソから数日が過ぎようとしていた。その結果はというと、決勝まで進んだ最強の女、ブリュンヒルデ『織斑千冬』はどういうわけか棄権し、大会2連覇という偉業はついには果たすことができなかった。その事情として2年後に世界を騒がす原因となる片割れが関係するのだがここでは割愛しておく。
その結果を知った友澤勇気はひどい落胆を覚えた。あそこまで圧倒的な強さを持つ彼女が何故決勝になって棄権したのか。いくら調べてもあくまで一般人である彼には知ることができなかった。
そしてその後の引退会見である。棄権した責任かどうかはわからないが引退し一時ドイツで教官職に就くという情報を叔父から教えてもらった。確かに落胆はあった。正直まだまだ現役でも行けるだろうと誰もが考えることを勇気も思った。だがISにかかわっている以上なにかあっての行動なのだろうと薄々ながら感じ取るのであった。
日曜日のある日。勇気はとあるIS研究所に訪れていた。勇気がISに興味があることを知っていた叔父は見学として勇気を誘ったのだった。織斑千冬の引退で少なからずショックを受けていたのもその要因の一つであった。それに勢いよく食いついた勇気は今までのネガティブさを打ち消すかのようにテンションが上がったのであった。
当然機密に触れるようなものを一般人である勇気に見せるわけにもいかないので、簡単な概要の説明をしたり、武器転送の仕組みなどほかのIS でも使われる技術の差しさわりのない程度の説明であった。しかしそんなことにもかかわらず、勇気は高揚気味にかつ真剣に聞いていたのだった。そんな様子から勇気の叔父、友澤源内(ともざわ げんない)は気分を良くしたのか、はたまた今では珍しく男でありながらISの構造に興味を持つ勇気に期待してか少しだけISを近くで見せることにした。(ISは女性の乗り物であり、それを整備する人も初めは男性が中心であったが次第に女性が増えつつあるのが現状である)
それがこの世界の1つの事件として後々騒がれることを源内も、その他にここで働いている研究員も、もちろんその当事者たる勇気もまだ知る由もなかった。
「さーて、こいつが今私が研究開発しているISだ。どうだい?なかなかかっこいいだろう!」
ふふん、と少し自慢げに語る源内。さながら子供が自身で作ったプラモデルを自慢するかのごとくである。その様子に少し苦笑しながらも勇気は受け答えする。研究者とはいつまでも童心を忘れないからこそ様々な発想をできるのかもしれない、と頭の片隅によぎるのであった。
そして、そんなことを考えている勇気もあまり冷静であるとは言い難い状態であった。憧れのISが今自分の目の前にいるという事実が勇気を興奮させた。
「こいつの名前はΩ(オメガ)。もうほとんどが完成に至っている。恐らく、私の知る限りでは現世界最高のスペックを保有していると自負するよ!あらゆる場面で自身の最高の性能を引き出すことができるオールラウンド型のISさ!ただ………」
そのオメガの外観はというと全体的に黄色と橙色であり、両腕には鋭利な爪。背中にはシールドを背負っている。体は鎧をまとっており防御能力も高そうである。頭は竜を思わせる外装がある。そんなオメガの性能を勢いよく説明する源内。そんな事をただの中学生に教えていいのかよ!という突っ込みが勇気の頭をよぎるが気にしない。しかし途中で説明が途切れる。
「ただ…、なんなの叔父さん?」
不審に思った勇気は疑問をそのままぶつける。一瞬の沈黙の後、源内は苦虫を噛んだかのような顔で歯切れ悪く説明を続ける。
「………あー、その、なんだ。今まであらゆるテストをしてシミュレーションでは常に期待値を上回る結果だった。そこには私も驚きながらも興奮を隠すことができなかったよ」
語るように話し始める源内。まるで昔を懐かしむような少し諦めが見える風貌であった。しかし、とまた言葉が途切れる。勇気はその雰囲気にじっと耳を傾けることしかできなかった。
「一つの節目として、こいつに人を乗せてテストすることになった。その時我々は大きな期待であふれていた。オメガは必ずISにおいて一つの革命を起こすとね。だが結果は無残なものでしかなかったよ。こいつはどんな操縦者にも反応を示さなかったのさ。今でも様々な実験を繰り返してはいるもののその原因は突き止められず、今ではこの通り置物と化しているよ」
源内は目をつむり沈黙した。勇気は改めてこのIS『オメガ』を見つめた。コードにつながれており今でも研究しているのがありありとしてわかる。しかしこの場を動かしていないのか、まるで移動跡が見つからないのである。
勇気はもう少し前で見ようとオメガの直前まで前進した。そして見上げるとそこにあるのは頭部。光が失われた目は何故か悲しそうで、そして誰かを待っているように感じた。そして一瞬目が輝いたように見えた。目の錯覚とも思えた。しかし何故自分はこんなにもこのISに心を奪われているのだろうか。勇気はその目から視線を外すことができなくなった。いけない事だとは頭では分かっていた。しかし体はそれに触れることを止めることができなかった。
源内が目を開けると、勇気がオメガに触れようとしているのが目にとれてわかった。自身がどれだけ感慨にふけっていたのかを理解し、呆れたものの、さすがに子供にISを触れさせるのも問題だろうと思い勇気を注意しようとした。
「おい勇気!ちょっとま―――」
そこまで言いかけて言葉が、いや思考が停止した。
―――プログラム起動。適正者ノ存在ヲ確認。適正者ノ搭乗次第フィッティング及ビ、フォーマットヲ開始シマス―――
そこに流れるのは機械音声。ただの機械音のはずなのに何故こうも歓喜を感じさせるのだろうか。冷静になりきれない頭をたたき起こして場をよく見る。そこには何が何だかわからない様子の甥の存在。顔を両手でたたき目を覚ます。今自分は何をしなければならないのか焦らず、すぐに道筋を頭に浮かべる。
「勇気!!落ち着くのは無理かもしれないが、無理にでも落ち着かせろ!!危険はまずないから気を高ぶらせずその場で待機!今からデータを取りながら、確実な安全を確保するために俺は少し外す!不安かもしれねえが何とか耐えてくれ!!」
自身でも何を言っているんだと、冷静な部分で思う。社会人になってからは封印していた昔の口調にもなってしまった。しかし源内の心はざわめきを落ち着かせることができないでいた。起動したのだ。自身の希望の象徴たるオメガが!!各部署に連絡を回し急いでデータを取らなければならない。オメガのためもある。しかしもっと大事な事がある。それは自身の甥の事であった。これから甥は関わらなければならない。このISに。いやでも、どんな不幸が待っていようとも。この世界の常識を覆してしまったのだから。
正直、勇気にとって自身の身に何が起こったのかよくわからなかった。IS、オメガに触れた直後、突然の機械音声。呆然としながら取り込まれていく自分。叔父の言葉も何か言っているのかはわかるが、その言葉を理解するには至らなかった。まるで他人事のように思えたそれは、やはり現実でしかなく我が身に起きたことであった。
『ISを起動することができるのは女性のみ』そんな言葉が頭によぎる。しかし現状はどうだろうか。自分は女だったのかと何とも間抜けな問いを自身にするも、そんなわけあるはずもない。ちゃんとついてるし。―――なにがとは言わないが。
頭には、自身の知りえない情報が流れ、ただ一人孤独と不安が広がるばかりであった。ただこのような混乱の中、一つ確かに安心できるものがあった。
温かかった。
この温かみが自身を支えていたのかもしれない。まるで大丈夫、心配しないでと勇気を励ましているかのようであった。
この日、源内にとっても、勇気にとっても、忘れることのできない出来事が起こったのだった。
源内はデジモンアドベンチャーを見ていた人ならわかると思いますが、そうです。あの人です。まあモデルがですけれど。性格なんかは全くのオリジナルキャラとなります。まあ名前だけです。外見のモデルは02のヤングなゲンナイさんです笑
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