IS Ω ~インフィニット・ストラトス オメガ~   作:僧正

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ようやく初戦闘です。そして、相手は原作キャラであるあの人です。


5話 初戦

ISΩ

 

 

5話 初戦

 

 

 勇気がISの訓練を開始して一月が過ぎようとしていた。学校も夏休みに入り、密度の濃い訓練が可能であった。そのため勇気は源内に頼み込みスケジュールをもっと増やしてほしいと嘆願した。まだISを起動したばかりであり、勇気自身のプライベートな時間を気にしていた源内だが、勇気の真剣な願いからか仕方ないと許可するのであった。なんだかんだ言って甥に甘い源内であった。

 勇気にとってISの訓練は目新しいものであり、そのどれもが勇気の心を躍らせるものであった。特に勇気が感動を覚えた事柄はISの花形、飛行であった。

 人類にとって飛ぶと言う事はどういうことなのだろうか。恐らくは人類の憧れの1つとも取れよう。ライト兄弟が飛行機を発明して1世紀と数十年。人間にとって飛ぶと言う事はそれ以前よりは身近なものになっていった。ハングライダーやホバークラフトなど個人としての飛行を可能にしてもいる。だが、それはある一定の方向への飛行であったり、その場での停止などはできないものであった。だがそれらを覆したのがISであった。その場での停滞はもちろん、方向転換も自由自在であった。ISが今までの兵器を圧倒するのもそれが理由の1つであった。

 そんな人類の憧れである飛行であるが、勇気とてその例外ではなかった。初めての浮遊感。初めての視点。何もかもが新鮮であった。そして少しの優越感に浸った。今まで女性しか乗れなかったISではあるが、その例外が勇気である。今までISの操縦者達はこんなにもの風景を見てきたのだと、少し嫉妬した。だが、今はドームであるが自身もこれからこの空を自由に飛べると考えると激しい高揚を感じるのであった。

 勇気にとってISによる飛行は地上での訓練以上に困難であった。まずは重心の取り方。地面がつかない状況でどのように蹴り出し、足に力を込めるのか初めのうちはまるで空回りであった。楓からは難しく考える必要はなく、イメージを持つことが大事だと教わる。何かを蹴るイメージ。何もないところで一体何を蹴ればいいのかという疑問に勇気は頭を悩ませたが、最終的には空気は固定されているものであるというイメージで問題をクリアする。

 次に間合い、空間把握といった空を利用した3次元戦闘の基本である。これについてはいまだ把握しているとは言い難い。ISは攻撃、防御、機動とすべてに優れているが、こと機動においては、前兵器群を圧倒的に上回っている。その高速の機動力を、勇気自身生かし切れていないのである。今はなんとか持ち前のセンスで補っているというのが現状だ。

 これらの問題を抱えつつも、勇気はISの素人から初心者に成長した。まだまだ、現状能力は低いものの、予想を上回る成長率であった。そこで経験という意味でIS同士の戦闘が予定に組まれるのであった。

 

 

 学生の夏休みも中盤にあたる8月上旬。勇気はとあるIS闘技場のドームに訪れていた。これから自身の初の戦闘が行われようとしている。

 車から降り、静かにピットまでたどり着く。ここまで誰にも会わなかったのは勇気が男であることが理由であることを容易に想像ができた。オメガを起動させ、源内が試合前の簡易チェックを行う。そこにいるのは勇気、源内、そして楓と複数の研究員の人達であった。これからの試合は歴史上初の男性IS操縦者の戦闘である。もっとも、公の場にはまだ知られていないが。そのため、データ収集のため人数が集められることになったのだ。

 

「よし。問題なしっと。オメガは万全の状態だ。後は勇気、お前次第だ」

 

「勇気君、気負う必要はないわ。肩の力を抜いて、悔いのないよう力を出し切りなさい」

 

 二人の激励に勇気は頷きで答える。手が震える。これは恐怖からくるものではない。武者震いである。初の戦闘という不安と精神の高揚が勇気には心地よかった。

 勇気の対戦相手は、代表でも候補生でもなかった。その候補生の前。所謂テスト生と呼ばれる存在だ。彼女らはIS学園を入学するおよそ3年前からISに乗り出し、次代の候補生、または代表として育てられる、IS適性の高いエリートである。当然、勇気よりも一年程の経験があるため苦戦は必至である。それでも勇気は負けるつもりなど、さらさらなかった。初めから負けるつもりで戦うなど、勇気のプライドが許さなかった。

 相手の名前は、更識 簪。自身と同い年で搭乗機体は打鉄。打鉄は純国産の第2世代型のIS。勇気のオメガよりスペックは劣るものの、安定した良い機体である。だが勇気と簪との経験の差から劣勢は確実だ。

 勇気は変声期とフルフェイスであることを確認し、最後に機体情報を見る。シールドエネルギーから武装まで網膜投影ですべて視認し終え、オーケーの合図を出す。

 ゲートが開かれ、部屋に光が満ちる。幕が開けたこと理解した勇気はブースターを蒸かす。

 

『オメガ、出ます!!』

 

 心臓の音が今はひどく静かである。全てを対戦相手に集中させオメガは飛び立つ。

 

 

 ひどい日差しが勇気の目に飛び込む。夏の日差しを浴びながらドームの中央まで飛ぶ。そこで待っていたのは打鉄を纏った人物。水色の髪に眼鏡をかけた少女。更識簪であった。こちらの顔を見て少し顔を見て目を少し顰めるも、こちらの事情を知っているのかそこには何も言わなかった。

 簪が対戦相手である勇気について受け取った情報はわずかでしかない。相手は()()オメガを起動させた()()であると言う事。まだ起動させてまもなく、IS経験も少ない事。そしてどんな事情があるかは知らないがその女性の情報は機密であったこと。その三点だけであった。

 それでも簪がすることは変わらなかった。相手を打ち倒すこと、ただそれだけ。あの姉に追いつくためにこんなところでは負けていられないのだから。

 

 

「―――――――」

 

『…………………』

 

「―――――――」

 

『…………………えーと、よろしく、更識簪さん』

 

 沈黙を破ったのは勇気の方であった。あまりの静かさにしびれを切らしたのか、それともこの空気に居た堪れなくなったなのか。その両方である。

 

「――――――よろしく」

 

(あ、よかった。返事帰ってきた。帰ってこなかったらどうしようかと思ったけど…)

 

『ごめんね。おr…私は事情で情報が明かせないんだ。だから、私を呼ぶときはこの機体と同じオメガでいいから』

 

「―――そう」

 

 会話が途切れる。

 

(は、話が持たない!俺にどうすればいいんだよ、この状況!?)

 

 そんな勇気の内心を知ってか知らずか、ドームに放送が流れる。助かったと顔が隠された中でほっと溜息をつく。そして気持ちを切り替える。

 

〈これより、更識簪、オメガ搭乗者、両名による模擬試合を開始します。両名は指定位置についてください〉

 

 勇気、簪の両名は指定位置に着く。そして互い見つめあい、試合合図が鳴るのを待つ。

 

〈開始五秒前〉

 

 研究員たちは忙しなくコンピューターを動かす

 

〈四〉

 

 源内と楓がモニター画面を見る

 

〈三〉

 

 簪はじっとオメガを見つめる

 

〈二〉

 

 勇気が両手足に力を込める 

 

〈一〉

 

 開始のブザーが鳴る

 

 試合開始!!

 

 

 

 先に仕掛けたのは勇気の方であった。長期戦になれば経験の少ない自身が不利であることを勇気は理解していた。スタートダッシュを決めて簪の前に飛び出す。そして右手のドラゴンキラーで突きを繰り出す。だが予想していたのか簪の薙刀によって阻止されてしまう。

 

『ちい!!』

 

 防がれた勇気は、一歩下がり、もう片方である左のドラゴンキラーで簪を斬り裂く。しかしこれも簪に避けられてしまう。

 

(想像以上に手ごわい!奇襲は失敗してしまったか!)

 

 そして数合の薙刀とクローの斬り合いが続く。本来はリーチの長い薙刀のほうが有利であるが、勇気が接近戦を得意としていることと機体の性能差、そして簪の得意距離でないことも合わさって互角の戦いが広がっていた。そう()()である。

 

「………………」

 

 簪はリーチの差を利用し少しオメガとの距離を開け、右、左と揺さ振りをかけながら攻撃していく。

 勇気もそれを回避しながら今後の戦略を頭で練る。距離では勝てないとわかっているため、簪の懐に飛び込み一撃を入れようとする。だがそれがいけなかった。飛び込んでいった先で待っていたのは、薙刀であった。

 簪は上手く勇気が飛び込む隙を作り、誘い出す。そして薙刀を短く持ち替え勇気に突き出した。

 勇気は右手を防御に回し何とか直撃を免れる。だがその衝撃でドラゴンキラーは吹き飛ばされ、地面に落ちてしまった。

 

『くっそ!!』

 

 己の失態に悪態をつく。だがドラゴンキラーはもう片方あり、もう片方は威力が半減したものの己の拳がある。まだシールドエネルギーが大幅に減ったわけでも、負けたわけでもない。勇気は気合を入れ、自分を立て直す。そしてもう一度簪に接近戦を挑む。

 

 

 

 場面は変わって勇気側のピット。勇気と簪との試合をモニター越しに眺める源内と楓。

 

「まずいな、あれは」

 

「ええ、勇気君の得意な接近戦でさえ互角。さらに今は片手のドラゴンキラーを封じられ攻撃力は半減」

 

 そして、といって楓はPCからデータを呼び出す。そこに映し出されていたのは更識簪のデータであった。

 

「更識簪。勇気とは同い年の14歳。そして姉にはあの更識楯無。さらには………」

 

「あの裏の更識の娘………か。どうりでいいセンスしている」

 

 楓の言葉を源内が途中で紡ぐ。暗部の更識。ごく一部においては有名な日本の裏である。源内も過去に先代の楯無と会っており、そこでひと悶着あったのだがその話はまた別の機会にしておこう。

 

「しかもこの子、遠距離が得意分野。今はまだやり合えているけれど、距離を取られればどうなるか。想像するだけで結果は見えているわ」

 

「ああ、―――勝つのなら今しかないぞ勇気………!」

 

 

 場面はフィールドに戻り、そこでは激しいぶつかり合いが続いていた。フェイスアーマー越しではわからない勇気の顔であるが、その顔は激しくゆがんでいた。それに対して簪は少々呼吸を乱しつつあるも、まだまだ余裕の表情であった。

 それにはいくつか理由があった。まず勇気自身の経験が不足していること。そしてペース配分。短期決戦で仕留めるつもりであった勇気であるが、いまだに攻めきれずにいてスタミナを消費している。最後の1つとして空での戦いであること、それが勇気を苦しめていた。地上と空中では移動できる空間が違い、間合いもまた別である。その距離を掴み切れず勇気の行動はそのほとんどが簪に読まれていた。

 時間が経つにつれ勇気の精神状態は下降していった。もう決めなくてはという焦り、そしてスタミナの減少。肉体的にも精神的にも勇気は追い詰められつつあった。

 

「――――――」

 

 薙刀でドラゴンキラーを弾きながら簪は思う。

 

(………接近戦は今は互角といったところ。でもこのままいけば勝つのは私…けど)

 

 簪が考えている通りこのままいけば勝利は簪に傾くだろう。だが戦いに何があるかわからない。窮鼠猫を噛むという言葉もあるくらいである。

そして一つの決断を簪は下した。

 

「はああああ!!」

 

 勇気に対し思いっきりの力で薙刀を叩きつける。勇気も急な変化に戸惑うも何とか両腕でガードする。そして反撃に出ようとして身に飛び込んできたもの。それは対戦相手である簪の武装、薙刀そして銃撃であった。

 何があったか一瞬わからなかった勇気であったが簪を捉えることで状況を把握した

 

(まずい………!)

 

 あの一瞬の隙に簪は瞬時加速(イグニッションブースト)で勇気から距離を取り、遠距離戦に切り替えたのである。薙刀を捨てるというリスクもあったが、自身の得意な遠距離戦を持ち込むためにあえて行った。

 そこからは簪が試合の主導権を握った。両手に銃を構え、勇気を狙い撃つ。

 このままでは針のむしろである勇気は、背中のブレイブシールドを手に取り防御に徹する。シールドで銃弾は防がれ、シールドエネルギーの消費も微々たるものであるが、これが積もれでいずれエネルギーは0となり、負けるのは確実に勇気であった。

 

(く、どうする!?このままでは負ける!)

 

 悩む勇気であったが一つの決断を下す。“特攻”。その一言であった。

 勇気が飛び込もうとしているのは銃撃の嵐。だが遠距離武装がない自身にとって、今はこれしか策がなかった。

 覚悟を決めシールドを片手に勇気は簪へ突撃した。

 簪も予想していたのか、高威力であるライフルへと切り替える。シールドで数発防いだものの片手では防ぎきれず弾かれシールドは空へと舞う。

 無防備にさらされえる勇気に振り注ぐのは、慈悲無き弾丸の嵐。オメガのシールドエネルギーは見る見るうちに減っていき、このままでは簪にたどり着くまでにゲームセットであった。

 

『このまま負けてられっかよおおおお!!』

 

 シールドが飛ばされ、銃撃にさらされ、恐怖もあった。だがそれ以上に負けたくはなかった。憧れのISでの初の戦闘。俺とオメガはまだまだやれるという思いが勇気の内に溢れていた。精神を研ぎ澄まし視界がクリアになる。

 そこから勇気とオメガの快進撃が始まった。まるで銃弾がどこから来るのかわかるかのように回避し、簪に接近していく。

 

 「な………!?」

 

 簪もその様子に驚きながらも、さらに銃撃をうち続ける。

 そしてついに勇気は、簪を射程圏まで捉える。

 

『うおおおおおおおおお!!』

 

 雄叫びをあげ、勇気はドラゴンキラーを振るかぶり、ライフル目掛けて振り下ろす。

 簪も堪らず、ライフルを取りこぼす。そして勇気は残った右手を振りかぶり、一撃を入れようとする。

 

(獲った!!)

 

 簪の両手には何もなく防御も間に合わない。この拳は確実にあたる。そう勇気は確信する。………そのはずだった。いつの間にかに簪の手には銃が握られ、自身に向けられている。勇気はそれがなんなのか知っていた。

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)………だと!?)

 

 勇気に走る衝撃。銃弾が勇気に直撃し、その衝撃で勇気の体が吹き飛ぶ。そして力なく墜ち、地面にたたきつけられた。

 

<試合終了。 勝者、更識簪>

 

 ブザーが鳴り、試合の勝者の名前が鳴り響く。空を舞う勝者と、地面に墜ちる敗者。その明暗が今ここにはっきりと分かれた。勇気の完全なる敗北という形で――――――。

 

 

 

 試合が終了し、とある待機室。勇気は頭にタオルをかぶり、椅子に座り下を向いていた。負けた直後は頭が呆然としており、その後どうやって戻ってきたのかさえ覚えていない始末であった。だが確実に言えること。それは勇気の敗北。それだけであった。

 部屋のドアが開き、誰かが入ってくる。楓であった。勇気の様子を見て楓は勇気の隣に静かに座った。勇気は何も喋らない。話を切り出したのは楓の方であった。

 

「今日の試合、残念だったわね。でもいつまでそうしているつもり?」

 

 黙ったままの勇気、だが少ししてぽつりぽつりと言葉を発した。

 

「………おれ、俺は、もしかしたら己惚れていたのかもしれない。自分の憧れのISに乗れて、それが男で初めての事で。俺は選ばれた人間だって。強い人間だと錯覚させられた」

 

「―――――」

 

「でもそんなことはなかった。己惚れ、その結果が今回の負けで、現実を思い知らされた。これじゃあせっかく俺を選んでくれたオメガにも申し訳が立たない。俺はまだまだ弱い………!」

 

 勇気の瞳からは涙が流れていた。試合に負けたこと。自身の弱さ。そして何より、その弱さで自身のパートナーであるオメガの力を引き出すことができなかったこと。全てが悔しかった。

 

「―――それで弱い君はこれからどうするの?」

 

「俺…おれは………。強く、強くなります!これからもたぶん負けると思うけど、絶対強くなって、こいつのパートナーとして相応しくなって見せます!」

 

 涙を拭いてタオルを振り払う。勇気は立ち上がり、高らかに宣言する。これからどんな困難があろうとも決して屈しはしないと心に誓いを立てて。

 

「お見苦しいところを見せてすみませんでした!それと、話を聞いてもらってありがとうございました!」

 

「いいえ。生徒の悩みを聞くのも私の仕事でもあるから。じゃあ、勇気君が強くなるためにこれからもっと厳しくしていくから、覚悟しておいてね」

 

「あはは………。これからもよろしくお願いします、楓さん!それでは、俺はこれから着替えてくるんで、それでは」

 

 そう言って勇気は部屋を出ていく。

 

「うん。勇気君なら。いいえ、勇気君とオメガならきっと強くなれる。わたしよりも。そして誰よりもきっと、ね」

 

 初めての戦闘は勇気にとって苦い経験となった。だがその経験がきっとこれからの糧となっていく。弱く、負けることも多々あることだろう。そしてそのたびに勇気は成長していく。まだまだ、彼は走り出したばかりなのだから。

 

 

 

 勇気とはドームの反対側のシャワールーム。そこには更識簪がいた。そこで思い出されるのは、今回の対戦相手、オメガであった。

 

(今回の対戦相手、普段戦っている人たちと比べてもそう強い部類ではなかった。でも最後、動きが変わった)

 

 簪があそこまで近寄られ銃撃を外すことなど、なかなか経験のない事だった。自身が勝ったことには変わりはない。しかしそのことが強く気がかりであったのだ。

 

「オメガ………か」

 

 この日、簪の心にオメガとその搭乗者のことを、強く印象に残すことになった。

 




ということで勇気の初戦は黒星となります。まあ初戦闘で勝つなんてよっぽどのことがない限り無理ですしね。
そしてようやく原作キャラが出てきました。対戦相手を簪にしたのは、同年代で誰を出すかと考えたときもっとも違和感がないことでしょうか。ちなみにテスト生はオリ設定です。いきなり候補生にしてもあれかなと思い、まああってもいいかなって感じで。

感想、ご指摘等ありましたら、宜しくお願いします。
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