家と会社を往復する日々が続きます。休みを簡単に仕事で潰してくる会社め、今に見てろぅ。
totoBIGが当たったら速攻やめてやるからなぁーーっ!
そんな前書きとは一切関係ない第14話をどうぞー
今日買ったばかりの本を開いたはいいが、内容がまったく頭に入ってこない。
「ふぅ………」
パタリと本を閉じると、夕映は天井を見つめながらぽけっとあのカードの事を考えてみた。身に覚えのないコスプレ姿が描かれたちょっと変わったタロットカード。知らないはずなのに、何故か見覚えがある気がすると言う不可解な現象に首を捻っていると何故か脳裏に浮かんで来た妙な言葉。
「『アデアット』……ですか」
「……ん? なんか言った?夕映」
思わず呟いた独り言に、コタツに入って絵を描いていたハルナが反応した。
「あ、いえ。単なる独り言です」
「あぁ、そう?」
夕映がそう言うと、ハルナもそこまで気にする事じゃないと分かってすぐに絵を描く事に戻っていった。腕がスケッチブックの上を行き来する度に浮かび上がるかのように絵が完成していくところは、何度見ても見事なものだと思う。そうこうしている内に2枚目に突入した彼女にふと先ほどの言葉を知っているか聞いてみようと思った。興味の無い事は頭に残らない性質の自分より、漫画のネタの為にいろいろと無駄知識を持っているこの親友なら何か知っているかもしれない。
「ハルナ、少しいいですか?」
「うんー? なぁ~に?」
スケッチブックから目を離さないままハルナが応える。絵を描いている時は大体こんな感じなので夕映も特に気にすることなく話を続けた。
「ハルナは『アデアット』という言葉を知ってますか?」
「ん? 『アデアット』? ………確かプロレス技だっけ?」
「それはラリアットではないですか?」
「あー……そうだったそうだった。確かブドウの美味しいのだっけ」
「それはマスカットです」
「チョコの美味しい……」
「キットカットですか?」
「ダイヤモンドの削り方の……」
「ブリリアントカット、ですね」
「あとーーあとーー……」
「いえ、ボケなくていいですよハルナ。知らないのならそれで」
ペンを止めてまで考え始めるハルナに、夕映は嘆息しつつこのままでは話が進まないとストップをかける。
「うん、まぁ確かに知らないけどね。でも、そのまま『しらなーい』じゃ味気ないでしょ?」
「だからって作業を中断してまでボケなくていいんです。まったくハルナは……」
多少頬を膨らませて機嫌の悪さを表現している夕映だが、それ以上何か言う事はなかった。彼女のどんな時でも会話を重視する姿勢は夕映も気に入っている所である。
「あはは、ごめんごめん。でも、どっから出てきたのよアデアットなんて」
「それがお昼に買い物に行った時に変なカードを拾ったんですが、それを見てたら不意に頭の中に浮かんできたんです」
「へぇ~~……変なカードを、ねぇ」
「えぇ、正直私は聞いたこと無い言葉ですし、浮かんでくるはずもないんですが……」
ハルナはそれを聞いてニヤリと笑った。そしてズサッと夕映の隣に来て、楽しそうに抱きつき頬ずりする。
「うんうん………いいわよ夕映ぇ~~。順調にフラグを立ててるじゃなぁ~~い」
「ちょ、なんですかハルナっ!」
「んふっ。いいからいいから。それで? そのカードってどんなのなの?」
楽しそうに抱きついてくるハルナに、夕映は戸惑いながら説明する。
「えーっと、このかが時々拡げてるタロットカードくらいの大きさで、真ん中に私の絵が描いてあって……」
「ほほぉ~~う、夕映の絵がねぇ~。偶然拾ったものに自分の絵が描いてあるなんて、これはもう完璧にフラグが立ったわね! ここから改造人間ユエの伝説が始まるのよっ!!」
「なんで改造人間なんですかっ!?」
夕映は自分に抱きついたまな妙な事をのたまうハルナの頭をはたいた。一瞬昆虫形のヘルメットをかぶった自分が怪物と戦う姿を幻視してしまい、慌てて頭を振ってその想像を追い出した。
「だって、魔法少女ならまずマスコットに会うか助けるかするじゃない。あんた最近小動物を助けたりした?」
「い、いえ……してませんが……」
「謎の夢に体調不良、今度は謎のアイテムに言葉。どっちかっていうとライダー的な展開じゃない? もしくは戦隊モノ。ちょっとその拾ったカード見せてよ。きっと変身用のアイテムよ?」
「い、いえ……その、拾ったカードは……さっきの言葉を言った途端に光って消えた……んです…が」
その瞬間、ハルナの顔は今まで見た事のないほど輝いた。夕映はマズイと思い逃げ出そうとしたが、ハルナの更なる抱きつき攻撃によりすぐさま取り押さえられてしまった。
「きゃーーっ!! 夕映、あんた最高よ!! 謎のアイテムが消えるキーワードが突如思い浮かぶなんてもうこれは完全に変身ヒーロー的な展開になるに違いないわっ!! っと、そうだ! こういう場合、身体のどこかにアザとか変なマークとかが浮かび上がるってのがパターンよ!? 夕映、あんたちょっと脱ぎなさい! 私が隅から隅まで探してあげるからっ!!」
そう言ってハルナはなんの躊躇もなく夕映のスカートを捲りあげた。
「ぎゃーーっ!? いきなり何するですかっ!!」
「言ったでしょ!? アザとか刺青とかなんでもいいからマークが出てないか確かめるのよ! だから抵抗しないでおとなしく裸になりなさい!! ほらっ!」
「だからって何で最初にパンツを取るですかっ!? と言うか変な妄想を基準に行動するなです! のどかーーっ! のどかっ! ヘルプですーっ!!」
やたらと手際良く脱がしていくハルナに薄ら寒いものを感じた夕映はもう1人の親友に助けを求めるが、その親友は夕映の助けを呼ぶ声にもまったく気付かず、一心に本を読み耽っていた。
「あああ、その集中力は素晴らしいですが、今はそれが恨めしいですっ!!」
結局夕映は抵抗虚しく衣服を全て剥ぎ取られ、産まれたままの姿でリビングに転がる羽目になった。
「おっと、靴下も忘れずにっと」
「それくらいいいでしょうにっ! ちょ!? 足を開こうとするなです! そこはシャレになりません!!」
「まぁまぁ、あたしらの仲じゃない」
「どんな仲ですか!? ここを素直に見せるような仲になった覚えはないです!」
「いいからいいから。親友のあたしに任せなさいって。うーーん、見当たらないなぁ。夕映、ちょっと手ーどけて。そこ開いてみるから」
「させるかです!!」ゴンッ!
「あふん!!」
更に際どい所を見ようとするハルナを今日買ったばかりの本で殴打して、どうにか夕映は窮地を脱する事に成功した。叩いたせいでヘコんでしまった表紙を指で軽く撫でると、夕映はいそいそと散らばった服を回収していった。
「まったくハルナは。調子に乗り過ぎるのがあなたの悪い癖です。ほら、パンツを返すです! なんで握りしめてるですかっ!」
夕映の中学生にしては大人び過ぎている下着を、ハルナは取られまいと全力で握りしめていた。
「いやだいいやだい。マーク見つけるまでは絶対着せてやらないんだい!」
「何のキャラですかっ!? 早く返して下さい! まるまるなです! くぉんのぉっ!」
夕映はどうにか下着が取り返そうとするが、ハルナはしっかりと下着を抱え込むとそのまま丸くなりゴロゴロと転がって逃げていった。
「こらーーっ!?」
「ふははははっ! さらばだ明智君! 返して欲しければ恥ずかしげにM字開脚してみせるんだなっ!!」
転がっていった先でヒョコっと顔をあげてアホな事を言うハルナ。夕映はそんなハルナを睨みつけながらどうやって取り返そうか考えていたが、わざわざハルナが持っているものに執着しなくてもすぐそこに下着がしまってあるタンスがある事を思い出した。
「……まぁ、新しいのを出せばいいだけですが」
「あ、ズルイ!」
ゴソゴソとタンスから新しい下着を取り出す夕映に、ハルナが見当違いな抗議をした。
「もー、夕映ノリが悪いなぁ。ここは頑張って取りにくるか、要求に応えて顔を赤くしながら足を広げる所でしょ?」
「アホですか。何が悲しくて親友相手に局部を晒さないといけないんですか」
勝手な事を言うハルナにツッコんでから夕映は替えの選定に戻る。まったくハルナは、と調子に乗りすぎる親友への文句をブツブツ言っていると、先ほどまでの騒ぎでも顔を上げなかったのどかが素っ裸でタンスを漁る夕映を見て首を傾げた。
「あれー? ゆえゆえー……もうお風呂ー…? でも、脱ぐのはお風呂場まで行ってからじゃないと風邪引くよぉー…?」
「あ、のどか。いえ、これはお風呂に入る為に脱いだんじゃなく、ハルナに無理矢理脱がされただけで」
「のどかも手伝ってよー。夕映の身体のどこかにアザがないか探してるとこなのよ」
夕映から剥ぎ取った下着をみょんみょんと引っ張りながらハルナがそう言うと、のどかは先ほどとは逆に首を傾けながら素肌を晒したままの夕映を見る。
「ゆえ、どこか怪我したのー……?」
「いえ、ハルナの世迷言です。気にしなくていいですよ。………それとハルナ。伸びるので引っ張るなです!」
夕映はみょんみょんと遊んでいたハルナの隙をついて下着を奪い返す。
「あー、取られちゃった。もう少しスッパで居て貰おうと思ったのに」
「親友ひん剥いて何が楽しいですか……」
「1人だけ裸って所が萌えるんじゃない。んーー…、こうして見ると、背中にもアザとかは無いわねぇ」
取り返した下着を履いている夕映を、ハルナは考えるような仕草で眺める。キュッと紐が結ばれる時に揺れる彼女の尻から長い髪に隠れた白い背中へと目線をずらすが、自身の仮説を証明するようなアザなどは見つからなかった。
「ちぇー……絶対何かあると思ったんだけどなぁ」
「ある訳ないです」
夕映はジロジロと見てくるハルナの視線を煩わしく思いながら取り戻した服を着直した。
「おかしな妄言で剥かれたら溜まったものじゃないです」
「でもーー、せっかく親友が改造人間になったんだから初期から細かく見て行きたいじゃない?」
「誰が改造人間になったですか、誰が。へんてこなカードを拾って失くしただけじゃないですか。確かに妙な消え方をしたですが、麻帆良ならそんな仕掛けを作る事も出来るでしょう。落とした人が落とした人ですし、ハルナの言うような展開にならないですよ」
ごろーっと床に転がっていたハルナは、その言葉に頭をあげた。
「あれ? 誰が落としたのか分かってたの? 正体不明の謎なアイテムじゃなかったの?」
「それはハルナが言ってただけじゃないですか」
ポフッとソファーに座った夕映は携帯を取り出しながらカードを拾った時の事を話した。
「買い物に行ってた時朝倉さんに会ったんですよ。少し話をして別れたあと、あのカードが落ちているのを見付けたんです。状況的には朝倉さんが落としたと見るのが普通です」
ポチポチとボタンを押してメールソフトを開くと件の和美からメールが届いていた。
「ふむ………朝倉さんに心当たりはないと。絶対彼女が落としたものだと思ったのですが……」
「何? 朝倉にメールしてたの?」
「えぇ。カードが消えた後、しばらく探してたのですが見付からなかったので一応持ち主と思われる朝倉さんに報告をと思ったんですが、別れる際かなり忙しそうだったので電話じゃなくメールにしたんです」
夕映は返信メールを打ち終えると、携帯をテーブルの上に置いてから今一度あの奇妙なカードの事を思い返した。そこまでしっかりと見ていた訳ではないのに、未だに細部まできっちりと想い描くことが出来るのは一体何故なのか。カードに見覚えがあり、心の奥底でとても大切な物であると感じているのは何故なのか。腕を組み、中空を眺めながら頭を悩ませるが答えは僅かにも出てこなかった。
「朝倉が持ち主じゃなかったって事は、やっぱり未知の技術で作られたアイテムだった訳だ。夕映、さっきのアデアットだっけ? あれをちょっとそれっぽいポーズ決めて叫んでみてよ。パァーって光って変身出来るかもよ?」
「やりませんよ?」
「えーー? 一回だけでいいからさぁ。こう、無駄にきゃるるんっ! ってポーズ決めてやってよぉ」
「絶対やりません」
抱きついてグイグイ揺らしてくるハルナを引き剥がそうと手で押し返すが、それ以上の力で抱きついてきて離れようとしない。夕映の力では体格差もあってハルナを押し返す事ができず、そのまま押し倒されてしまった。
「むーーっ! ハルナっ、重いです!」
「なにおぉぅ……そんな事言うのはこの口かぁ~? 喋れないよう塞いじゃおうかなぁ~~? むちゅぅ~~~……」
「わっ! ちょっ! やめるです!ぎゃーーっ!」
悪ふざけを始めたハルナが唇を尖らせて迫って来たので、夕映は慌てて彼女の顔を押して抵抗する。しかし、すぐにその手を取られてしまい、完全に抵抗出来なくされてしまった。
「ふっふっふっ………抵抗しても無駄なのよぉ~~。ん~~~~っ」
「ぎゃーーっ! のどかーーっ! 助けてですーーっ!」
完全に押さえ込まれて抵抗出来なくなってしまった夕映は、助けを求めてのどかの方を見るが、のどかは本で顔半分を隠した状態で興味深そうに夕映達を見ているだけだった。
「のどかーっ、ハルナを止めて下さい!」
「パルー…、無理やりはダメだよぉー……?」
「大丈夫よ。夕映は照れてるだけだから」
「そっかー…。がんばれー…」
「応援しないで下さい!!」
止めるどころか応援しだす親友に夕映は涙目になった。
「もーー、そんな嫌がらないでもいいじゃない」
「普通は嫌がるもんです! 悪ふざけが過ぎるですよハルナ!」
「いやぁ、今はちょっと本気だよ? キスシーンってテレビくらいしか見れないからねぇ。漫画の参考に出来るかもだし、ちょっと一発やってみようかと」
「漫画の事になると途端に勉強熱心ですね!? 出来れば私に迷惑がかからない方法でして下さい!!」
いつの間にか片手で夕映の手を押さえて、もう片方では携帯のカメラ機能を使って決定的瞬間を撮ろうと構えていた。夕映はせめてもの抵抗にと顔を背けて唇を奪われないようにするのだが、それも時間の問題と言えるだろう。
「そ、そんなに嫌がらなくても……」
「いくら親友といえどもファーストキスを奪われてなるもんですかっ」
「アメリカでは挨拶みたいなもんだって言うじゃん。ちょっとしたスキンシップだよ」
「あれは頬にするんです。しかも、本当にキスしたりしませんし!」
近づく度に顔を振って逃げる夕映に焦れたハルナは、押さえていた手を放し、その手で顔を押さえる事でとうとう唇を奪う事に成功した。
「んむーーーっ!?」
ピロリンッと携帯で写真を撮り、唇を離さないまま画面でちゃんと撮れているかを確認したハルナは、うまく撮れた事に満足して携帯を放り、夕映とのキスに集中し始めた。舌が入り込み、念入りに口の中を舐めまわされた夕映は手や足をバタつかせて抵抗するが、携帯を放して両手で顔を押さえだしたハルナを引き剥がす事は出来ず、徐々にグッタリしていった。
「はわわ………はわわわわ……」
そんな濃厚なキスシーンを見せられて、向かいに座っていたのどかは顔を真っ赤にしていたが、それでも目を逸らすことなく親友達のキスシーンを目に焼き付けるかのように凝視していた。
時間にして五分ほど経ったところで両者が離れ、つぃーっと伸びた糸が切れるのをボンヤリとした目で見ていた夕映は、ニヤリと笑うハルナの顔を見て我に返りとりあえず近くにあったクッションを叩きつけた。
「ブッ!」
「は、ははは、ハルナァー……? よ、よくもやってくれたですね……?」
「いやぁ、思いの外チカラが入っちゃって、超ディープになっちゃったわぁ。見て見て夕映。いい構図で撮れてるわ。おかげでこれからのキスシーンはかなりリアルに描けるってもんよ。やっぱシた事ないとどこか嘘っぽくなるもんだしねぇ」
まるで反省していない様子のハルナは、自分の下で顔を真っ赤にしてクッションを再度構える夕映を見て少し目を泳がせたが、とりあえず言っておかないといけないと思い両手をパンッ! と合わせて拝みつつ、
「ごちそうさまでした……あだっ!!」
言ったら殴られた。
「このっ! あなたって人はっ! よくもわた、私の初めてをっ!!」
「あたっ! あたたっ! いやぁ、私も初めてだったしオアイコって事で……ブッ」
まったく反省の色がないハルナを、夕映はこれでもかと叩きまくる。しかし得物がクッションなせいであまり攻撃力はなく、ハルナはワザとらしく痛がるだけでダメージは皆無なようだ。どちらかというと単にイチャついてるだけにしか見えない。
そんな事をしている間に、夕映の携帯へ電話がかかって来た。
「ゆえー…、電話だよぉー?」
のどかが声をかけ、最近夕映が気に入っている曲が着信を知らせるのだが、ハルナを叩くことに夢中な夕映はそれに気づかず、仕方なしにのどかが電話を取ることになった。
「もしもしー…?」
『あれー? 宮崎? ゆえっちはどうしたの?』
「あ、朝倉さん…。ゆえなら今ー…、パルを叩くのに忙しいみたいでー……」
『へ? なに、また早乙女はゆえっちからかい過ぎて怒らせたの?』
「あ、そうなんです……。無理やりはダメだよ?って言ったのに、無理やりキスしちゃってー……」
『なんでそんな展開になるのかまったくわかんないけど、まぁいいか。ゆえっちに代われるー?』
「あ、はいー……。ゆえゆえー……、朝倉さんから電話だよー?」
のどかが声をかけると、いつの間にか背後を取られ頬を伸ばされて涙目になっている夕映が顔を向けた。
「ふぇ? 朝倉さんからでふか? はふな、ちょっとはなふです!」
ハルナを振り払い携帯を受け取った夕映は、暴れて乱れた服を直しながら携帯を耳に当てた。
「代わりました。朝倉さん?」
『あ、やっほゆえっち。早乙女にイタズラされてたみたいね?』
「えぇ、飛び切り性質が悪いものを。それで……用件はさっきのメールの事ですか?」
『そうそう。メールにも書いたけど、カード自体は私も知らないんだわ。どうせ私が何かやろうとして拵えた物だと思ってメールしてきたんでしょ?』
「えぇ、まぁ。朝倉さんならやりかねないと思ったので。でも、今考えると私にそんなのを仕掛けたとしても得はしないはずですし、ちょっと早計だったかもです」
『あははー、まぁいつもの私ならそう思われても仕方ないかもねぇ。でも、残念ながら今回は知らないのよねぇ。でも、可能性の話なら少し心当たりがあるのよ」
その言葉に夕映は居住まいを正し、ついでにスカートを持ち上げて下着を覗く『フリ』をして邪魔をしてくるハルナを叩き和美に先を促した。
「心当たりがあるんですか?」
『まぁ、あるっちゃあるって感じだけどね。昼間にゆえっちに会った時、私
そう言われて、夕映は昼間見た野暮ったいコートを着ていた和美の姿を思い出した。借り物だと言っていたソレにもし入っていて何かの拍子に落としたのなら、和美と別れた後に見つけたというのも納得がいく。
「確かに可能性としては十分ありますが。何故
『そういやどんなカードだったの?』
「タロットカードくらいの大きさで、何故か中央に私の絵が描かれているという訳の無からない代物です」
『へぇ……ゆえっちの絵がねぇ。カードにしたいほど気に入られたって事かな?』
「出会って2日で、ですか? 写真を、とかではなくあんなカードを作りますか? 普通」
『いや、そんな事私に言われても』
「まぁ、そうですが……」
和美のもっともな返しに言葉が詰まる夕映。少しの間沈黙が続いたのち、和美がとある提案をしてきた。
『疑問があるなら直接聞いてみればいいんだよグリーンだよ』
「は? 直接、ですか? というか何がグリーン?」
『そこは流して。明日、借りたコートとシャツ返しに行くから、その時センセに聞いてみれば一発じゃん。アレコレ考えてるより簡単に真相が分かるよ?』
なんでも取材と称して突撃していく報道部らしい考え方に夕映は少しばかり苦笑することになった。
「確かに私がいくら考えたところで本当の所が分かる訳ないですね」
『そーゆー事。じゃあ、明日行ったら聞いておくよ。それとも一緒に来る?』
夕映は少し考えてから、自分も同行することにした。
「ご迷惑でなければ同行させて下さい。出来れば直接説明してもらいたいので」
『おっけー。じゃあ、明日。お昼くらいにロビーに集合ね?』
「分かりました。1時くらいでいいですか?」
『そだねー。あんまり早いとまだ寝てるかもだし、遅いと昼寝してるかもしれないし、そんなもんかな』
そんな寝てばかりな人は居ないだろうと思いながらも、夕映は了解と返事をして通話を切った。パタリと携帯を閉じると、先ほどまで自分にイタズラして来てたハルナが、今度はのどかの膝を枕にして寝転がっているのを見つけ眉をひそめた。
「ハルナ、のどかにまで変なことをするなら窓から吊るしますからね?」
「しないしない。のどかにそんな事したら完全に悪者じゃん、あたし」
「私になら良いとでも言うつもりですかっ!」
「そんな事言わないよぉ~。ただ、夕映ならいっかなって思うだけで」
「むきぃーーーっ!!」
悪びれもせずそんな事を言うハルナを、夕映はまたクッション片手に追い回し始めた。あははーっと笑いながら逃げるハルナと、クッションを振り回しながら追いかける夕映をポケっと見ていたのどかは、時計の針が6時を指そうとしてるのを見てよいしょっと声を出しながら立ち上がった。
「2人ともー…、もうすぐご飯だからあんまり埃立てちゃダメだよー……?」
「はーーい。だってさー、夕映ー?」
「貴女がおとなしくすればいいんです! 逃げるなーーっ!」
ドタバタと走り回る2人を見てクスクスと楽しげに笑ったのどかは、晩御飯の下ごしらえをするべく、土鍋を火にかけるのだった。
「あ、ゆえゆえー……。パンツ落としたよぉー……?」
「な!? 何故にっ!?」
「あっはっはっ! さっき私がこっそり紐を解いてたからさーーっ!!」
「は、は、ハルナァーーーッ!!」
数分後、いいんちょこと、雪広あやかが怒鳴り込んでくるまで夕映とハルナの追いかけっこは続くのであった。
ふぅ………ゆえ、御愁傷様。ファーストキスをネギに上げられなくて残念だったね。
最初は謎シスターさんを出すつもりだったのに、出そうとするとまったく話が思いつかなくなる始末。きっとあの子を出すなと言う誰かの陰謀かもしれん。ナム………
次回は………多分大人版夕映が出てきます。どんな展開になるのかは、自分でもまだ分かりません!