夕映の話とかはなかなか増えないですなぁ。誰か書いてくれないだろうかなぁ……(チラ
魔改造とか、何かの漫画や小説とのコラボ。うぅーむ、読みたい。
「まさか、同性からデートに誘われるとは思いませんでした」
「ニャハハッ。我ながら良い返しだったと思います」
夕映と和美は近くにあった喫茶店に入り、それぞれ注文をしたのち話に入った。
「とりあえず自己紹介しますね? 私は朝倉和美。通称麻帆良のパパラッチ。報道部に所属している中等部生です」
「これはご丁寧に。私はあやせゆえと言うです」
「え!? あやせ……ゆえさん!? え、マジですか!?」
和美は今聞いたばかりの名前に心底驚いていた。なにせ自分のクラスメイトと同じ名前だったからだ。クラスでは似てる似てると騒いでいたが、まさか名前まで同じとは。
そしてそんな大げさに驚く和美を内心で笑いながら、夕映は何に驚いているのか分からないと言う感じで話かける。
「どうしたですか? 和美さん?」
「はっ!! い、いえ、クラスメイトの名前と同じだったもので、つい」
「ほほぉ、同姓同名と言う奴ですか。しかし、そこまで驚く事ですか?」
夕映は少し目を丸くして驚いたようにしてみせた。本当は、そのクラスメイトと言うのがこの頃の自分だと分かっているので驚く事ではない。ただその内バレるなら、先にバラして同姓同名だと思い込ませた方が、未来から来た『綾瀬夕映』だと思われにくいと考えて演技する事にしたのだ。
ひと月の間、自分が『綾瀬夕映』だと気付かれずに生活しなければならないので、正体がバレる要素は極力減らさなければいけない。しかし、偽名を使うとしても咄嗟に反応出来なければ逆に怪しまれてしまう。だが、違う名前で呼ばれて絶対に反応できるかと言われると少々自信の無い夕映は、同姓同名と言う事にして本名を呼ばせる事にしたのだ。これなら自分の名前なので反応できない訳がなく、怪しまれる事もないだろう。
「いやぁ、名前だけだったらそんなに驚きませんよぉ。私が驚いたのはですね? お姉さんの顔も、そのクラスメイトに似てたからです。お昼に食堂棟で見かけてから、クラスで話題になった程なんですよ」
夕映はなるべくこの時代に影響を与え無いようにして、分岐していたとしてもそれ程変わらないようにしたかったのだが、すでに手遅れかもしれない状況にあると知り、少し頬を引きつらせた。
「ほ、ほぉ……、そんなに似てるのですか」
「えぇ。もう血の繋がった姉妹じゃないかって言うくらいです。まぁ、似てると言われた本人はずっと首を傾げてましたけど」
「そうですか……」
本人、つまりこの時代の夕映は似てるとは思わなかったらしい。自分に似てると言われて、すぐ納得できる方が少ないとは思うが。
「しかし、そんなに大勢で食堂棟に居たのですか?」
「あ、いや。別件で報道部の仲間が写真を撮っていたみたいで、メールで来たその写真をクラスで見せたら、クラスメイトの殆どが見る結果に……すいません」
勝手に撮っていた事が後ろめたいのか、和美は少し申し訳なさそうに言った。
「まぁ、いいです。その写真に変な加工をしてばら撒いたりしないで下さいね?」
「あ、はい! そこはしっかり管理しますので!」
自己紹介その他が一段落した所で、タイミング良く注文していた品物が運ばれてきた。夕映の前にはコーヒーとショートケーキが、和美の前にはクリームソーダとチョコレートパフェがそれぞれ置かれ、店員はごゆっくりどうぞと一声かけたのちテーブルを離れた。
「ふむ……よっと」
「おととっ。はい、どうぞっと。やっぱり間違えましたね」
夕映と和美は、店員が離れたあと、お互いの品物を交換して一息ついた。夕映にはソーダとパフェ、和美にはコーヒーとケーキがそれぞれ置かれ、そこでようやく手をつけ始めた。
「ちゃんと注文したはずですが」
「お姉さんの雰囲気的にクリームソーダを頼むとは思えないですしね」
「それは偏見と言う物です。………まぁ、私も前はコーヒーや紅茶も好んで飲んでましたが」
クリームソーダとチョコレートパフェを交互に突きながら言う夕映に、和美は疑問を投げ掛ける。
「今は飲まないんですか?」
「んーー、今は少し苦手ですね。できれば飲みたくありません」
「なんでまた」
「私の先生が大の紅茶党でして。特にミルクティーが好きだったのですが、先生にはライバルと言える相手がいましてね。その人は大のコーヒー好きで、事あるごとに対立していたです」
夕映は懐かしそうに、それでいて辛そうな、なんとも複雑な声色で言った。そんな夕映の様子に、これはよほどの事があったのだろうと思った和美は、ケーキの苺をポイっと口に放りこんでから続きを促した。
「ほうほう、それでどうなったんですか? 自分の先生が対立してたからコーヒーが苦手、って訳では無いですよね? それだと紅茶も苦手と言う理由にはならないですし」
言われた夕映は、一口二口パフェを食べてその甘さを堪能してから、一呼吸おいて話を続けた。
「その対立は、まずどちらの飲み物が至高かと言う事に始まり、相手の推す飲み物をこき下ろす事に移行し、最後は実際に飲んで見て決めようとなるのが常でした。私は先生について色々勉強していた時期に、よくその争いに巻き込まれましてね。私としてはどっちでもよかったのですが2人は納得出来ないようで、自分の知識を総動員した最高の紅茶、またはコーヒーを淹れて来て、実際に飲んで決めてくれと言い出しました」
和美は、ゲンナリとした夕映の表情で、なんとなく理由が分かった気がした。
「それをちょくちょくやられたから苦手になったんですね? まぁ、興味の無いものを強要されたら苦手にもなるかな」
「いえ、それだけだったならまだいいんですが」
「………違うんですか?」
夕映はソーダを飲んで、その甘さで安心したかのように微笑み、話を再開する。
「彼らは最高の技術と知識を使い、それだけでお店を出せるほどの物を出してきました。私はそれを飲み、どちらか美味しかった方を挙げるのですが、紅茶とコーヒーは別物。うまく比べられる物ではありません。で、仕方なくその時の気分で選ぶのですが、2人はならばこれでどうだと、淹れ直した物を出してくるんです」
「………あー……、それで何度も飲まされたと」
和美は、今まさに飲んでいたコーヒーをちらりと見下ろし、これを何杯も飲まされたのかと複雑な気分になった。
「2人はその都度茶葉や豆を変え、ブレンドを変え、更には温度や抽出時間を変えて何種類もの紅茶コーヒーを出してきました」
夕映はパフェをかき込み、口の中に広がった紅茶やコーヒーの味を流し込んだ。思い出すだけで味まで再現されるほど飲まされたようだ。
「一杯二杯なら美味しいのですが、それを十杯二十杯と飲まされたらたまったものではありません。飲みすぎたからとお手洗いに行こうとしても、まだ話は終わってないと言って席に戻され、更に飲まされました。私が半泣きでテーブルをひっくり返し、2人を弾き飛ばしてお手洗いに走る事になるまで、双方五十杯は飲まされたでしょうか?」
想像以上に飲まされていた夕映の話に、和美は確かにそれなら苦手にもなるわと自分のコーヒーを端に寄せ、ケーキを一気に詰め込んだ。聞いただけで口の中が苦くなって来たのだ。
「むぐむぐ……。ふぅ、確かにそれじゃあ苦手にもなりますね」
「そうでしょう? それを月に一回は必ずやるんです。巻き込まれる身にもなって欲しいですね」
「うあぁ………。大変でしたね」
「おかげで最近はこう言う分かりやすい飲み物を好むようになったです。1番は麻帆良で売ってる珍妙ジュースですが、あれは喫茶店には無いですし」
言われた和美は喫茶店に自販機などで見かけた妙なタイトルの飲み物がある光景を想像してゲンナリした。
「あったら困ります」
「私にはそっちの方がいいんですが。とにかくもう一生分の紅茶とコーヒーを飲んだので、もう飲みたく無いと言うのが正直なところですね」
「やぁー……、それは私でも苦手になりますわぁ」
和美は自分がそんな目に会ったらどうなるか想像してみた。まず確実にコーヒー紅茶が嫌いになるだろう。きっと一生その二つを見たくないと思うはずだ。想像から来た苦味が口に広がって来た和美は、もう一度ケーキでリセットしようとフォークを手にしたが、既に食べ終えていた事を思い出し、もう一つ注文しようかと悩んだ。懐具合とカロリーを理由に頭を悩ませていると、目の前にアイスや生クリームが乗ったスプーンが突き出され反射的に頬張ってしまう。
口の中に広がる甘みに目を白黒させている和美に、夕映は微笑みながら話掛ける。
「ふふっ。この話を聞くと大抵甘いものが欲しくなるものです。さぁ、もう一口どうぞ。あーー」
「あー……あむ。んあー、生き返る。……でもちょっと恥ずかしいですね」
同性とはいえ不意打ちで『あーん』なんてやられたら流石の和美も恥ずかしいようだ。火照った顔を手で扇いでいる和美を尻目に夕映は残りのパフェをかき込んだ。
「良いではないですか、デートっぽくて。ふぅー……、この甘さに癒されるです」
「いやまぁ、そうですけど………喫茶店来る度にそんなの食べてたら太りません?」
「コーヒーや紅茶の匂いだけで体が反応してしまうのでこう言う物で誤魔化さないと座っていられないんです。嗅いだ瞬間お手洗いに走りたくなるので」
夕映はアイスの溶けたソーダを一口飲んでから椅子に深く座り直した。誤魔化してはいるが、周囲にあるその香りのせいで据わりが悪いらしい。
「難儀ですね………。でも、そんな苦労するのに何でずっとその先生と一緒に居たんですか? やっぱ恋人だったとか?」
「まさか。それ以外は非常に優秀な先生でしたし、学ぶ事も多かったので一緒に居ただけです」
「恋愛感情は無かったと?」
犯人を追い詰める刑事のような表情で質問する和美に、内心嘆息しながら夕映は質問に答えた。
「無いですよ。もしあったら一緒に居られなかったでしょう。その時は殆ど一緒にいたですから」
「へぇ、一緒に……。でも、好きでも無い人とは一緒に居られないですよね?」
身を乗り出して聞いてくる和美の言葉に、夕映は当時の事を思い出してみた。
確かに1度は告白した相手だ。嫌いな訳がない。しかし、その頃にはある程度吹っ切れていたので、仲の良い友人と一緒に居るような感覚でいられたのだ。たまに告白が成功していたらどうなっていたか等と夢想してみたりもするが、隣を歩く所までは想像出来るのだがそれ以上が何一つ浮かんで来ない。自分自身も分かっているのだろう。自分と彼がそう言う関係になれないと言う事が。
「確かにそうですが、それは友愛であって男女のそれでは無かったですね。彼とそう言う事をしてる場面も想像出来ませんし」
「そうですかー……。甘酸っぱい恋バナが聞けると思ったのになぁ」
「私にそんなものを期待する方が間違いなのですよ」
夕映は嘆く和美を笑いながら、残っていたソーダを飲み切った。名残惜しそうにストローで氷をかき混ぜる夕映だが、そんな彼女に和美はすがりつく様に質問した。
「じ、じゃあ、高畑先生とはいつ頃から付き合いだしたんですか?」
「…………はい?」
予期せぬ質問に、夕映はマジマジと和美の顔を見つめた。一体どこからそんな話が出てくるのか皆目見当がつかないが、和美の中では既に夕映と高畑のカップリングが成立しているようだ。
夕映はとりあえず否定しようとしたのだが、口が開ききる前に和美の質問責めが始まった。
「見た感じ結構歳が離れてるっぽいですけどどう言った所に惹かれたんですか?」
「いや、あの?」
「付き合うきっかけは何だったんですか?」
「和美さん?あのですね……」
「どちらから告白したんですか? あとうちのクラスに高畑ラブを公言してるのが居るんですが、そんなライバルに一言お願いします!」
「いえ、あのですね……」
目をランランと輝かせた和美の口撃に口を挟めずにいた夕映は、おもむろにパフェのスプーンを手に取り和美の口に突き入れた。
「むぐっ!?」
「少しストップです、和美さん」
急に口の中に入って来たスプーンに驚いている和美からスプーンを引き抜き、彼女が落ち着いた所で夕映はようやく否定する事が出来た。
「和美さん、私は別に高畑先生と付き合ってなどいませんよ?」
「えー? でも、でもですね? お昼に仲睦まじく昼食デートしてたじゃないですか!」
「仲睦まじいかどうかは知りませんが、久しぶりに会った恩師と近況の報告がてら食事してただけですよ。ちょうどお昼時でしたし」
「えー……? あんないい雰囲気だったのにー……?」
またも当てが外れたと言った表情で不貞腐れる和美。そんな彼女を見ながら夕映はどうしたものかと考えた。自分の知る朝倉和美なら、今の推測を既に広めているかも知れない。高畑と出来ているなど完全なる誤解なのだが、時に噂だけで大騒ぎするのが麻帆良に住む学生達の特徴だ。しっかり否定して誤解を解いておかないと、どんな騒ぎに巻き込まれるか分かったものではない。
「もう1度言うですよ? 私は誰とも付き合ってないので、その変な誤解は解いておいて下さいね?」
「はぁーい……。はぁー……、面白い話題が出来たと思ったのに」
和美は心底残念そうにテーブルにダレて、そのままの格好でコーヒーを飲み干す。なんとも行儀の悪い事だが、それだけダメージがあったのだろう。面白いスクープを見つけるのが生き甲斐の彼女だ。せっかくのスクープだと思ったら完全な外れだったのだから仕方ないのかもしれない。
ダレていた和美が何気無く窓の外を見ていると、通りの向こう側を歩く高畑を見つけた。
「………ん? お姉さん、噂をすれば影。高畑先生が居ますよ?」
「へ? おや、本当ですね。こんな所で何をやってるのでしょう?」
言われた夕映も、何かを探す様に辺りを見回しながら歩く高畑に目をやった。ちょうどその時高畑も夕映達を見つけたようで、こちらに向かって手を挙げて挨拶してきた。夕映達もとりあえず手を振って返すと、高畑はそのまま夕映達の居る喫茶店に入り、2人のテーブルまでやって来た。
「こんちわ! 高畑先生」
「こんにちは高畑先生」
「やぁ、2人とも。こんな所で何をしてるんだい?」
テーブルの横に立ち、そう質問する高畑に、夕映は椅子を勧めながら答えた。
「私は和美さんとデートの真っ最中です」
勧められた椅子に座ろうとしていた高畑は、その答えに驚いて一瞬動きを止める羽目になった。呼びに来た相手が教え子とデート中などと、普通は思いつかないので無理もないだろう。
「……そうか。ははっ、それは失礼したね。お詫びにこれは僕が持つよ」
そう言って伝票を自分の方に引き寄せる高畑。
「え! マジですか!? くぅ! ならさっきケーキ追加するんだった」
「太るですよ、和美さん。……所で、高畑先生はどうしてこちらに? 別にわざわざ奢りに来た訳でも無いでしょう?」
本気で悔しがる和美はさておいて、夕映は何故か現れた高畑に理由を聞いた。
「あぁ、実は君を探していたんだ。時計はもう直ったかい?」
高畑が言っている時計とはおそらくカシオペアの事だろう。しかし、そんな事を聞く為にわざわざ探しに来たとは考えにくい。夕映は高畑の意図がいまいち掴めず、とりあえず質問に答える事にした。
「一応修理には出したですが、部品の一部が壊れていたので作り直したりしないといけないそうです。おかげで直し終わるのは最低でもひと月後になるそうです。それがどうかしたですか?」
その言葉を聞いて、高畑は何故か考え込み始めた。一体どこに考え込む所があったのか。夕映は真剣に考え込む高畑を見て、何か問題でもあったのだろうかと思った。わざわざ探しに来るほどだ、カシオペアが直ったか知りたいだけでは無いはず。おそらく自分と言う正体不明の魔法使いがウロウロしてる事に、頭の硬い魔法使い達が文句を言ってるのだろう。
自分が魔法使いとして麻帆良に住み出した時はそこまでどうこう言われなかったが、それは既に魔法の秘匿義務が有名無実化しつつあったせいであり、この8年前の麻帆良はまだ秘匿義務が徹底されている時代だ。秘匿云々を無視するようにいきなりビルごと麻帆良にやって来た魔法使いが気に入らないのだろう。
「……君はひと月の間、昼に言ってたように観光して過ごすのかい?」
真剣に考えていた高畑がふと顔を上げて夕映に聞いてきた。
「何か引っかかるですね? なんとなく予想はつくですが、問題でもあったですか?」
「あぁ、すまない。ちょっと面倒な事になっててね。……それで、どうなんだい?」
「とりあえず適当にバイトでもするつもりですが」
「バイト? 蓄えがあると言ってなかったかい?」
高畑は、夕映が昼頃の別れ際にそう言っていた事を思い出していた。かなり余裕そうな態度でのんびりしてる等と言っていた事から、その蓄えはそれなり以上にあるのだろうと思っていたのだが、わざわざバイトをするとは、どういう事なのか。
「実はその時は気付いて無かったですが、私の通帳が使えなくなってしまいまして。おかげで生活費を稼がないといけなくなったです」
「そうか………」
夕映の答えにまた考え込み出した高畑。夕映はどうしたものかと思ったが高畑が動かない事には何も出来ないので、ちょうどグラスを下げに来た店員にケーキとメロンソーダを注文した。
「お姉さん、何の話なんですか?」
「私がしばらく麻帆良に居ると言う話です。本当は2,3日で帰る予定だったですが、失敗したです」
今の和美は魔法の事など何も知らないので、余り細かく言えず話せる範囲内の事柄で説明する事になった。これが中々難しいがどうにか納得して貰えたようなので、和美にも何か注文させる事にした。そのままにしておくと話を蒸し返す可能性もあるからだ。
「考えるのが忙しいようですし、待っている間に和美さんも何か頼むといいです。ここの支払いは持ってくれるそうですし」
「お姉さんも悪ですねぇ。……じゃあ、今度はガトーショコラにしよっと。あとコーヒーをおかわりね」
夕映と和美は、高畑が動かないのを良い事に追加注文してしまう。
「男に奢らせるのは女の正義だと、誰かが言ってたです」
「誰かって、誰ですか……」
「さて、誰でしたっけ……?」
「私に聞かれても………」
適当な事を言う夕映に和美はゲンナリしたが、見た目クールな彼女の時折見せる適当加減が少し楽しくなってきた彼女であった。そして、そんな彼女の事を忘れないようにメモ帳に書き留める。きっと明日にでも、とあるクラスメイトが怖い顔をして聞きにくるだろうから。
「………何書いてるですか?」
「お姉さんの記事。うちのクラスでお姉さんの事を調べて教えろって凄い剣幕で言って来るのがいましてね。一応まとめてるんです。あ、お姉さんの名前、漢字これで合ってます?」
夕映の脳裏には目を吊り上げている明日菜の姿が浮かんできた。この頃は高畑の事が好きなのに、フられるのが怖いからと直接行動出来ていなかった頃だ。のちに魔法世界の人柱をやって戻って来てからは、吹っ切っれたのかちょくちょく暇を作ってデートに誘っていたらしい。どちらも忙しいので明日菜は中々会えないと嘆いているとか。
「苗字は合ってます。名前は『月』と書いてユエと読むです」
「へぇー……、なるほどなるほど。中国の読み方なんですね」
和美の書く記事に書かれた自分の名前『綾瀬夕映』と言う字を見て、このままでは何かの拍子に自分の事がバレてしまうかもと思い、少し変える事にした。自分に何かと縁のある『月』と言う字が、都合良く『ユエ』と読めるのをいいことに。
「そういえば職業を聞いてませんでしたね。一体何のお仕事を?」
「あー……、言ってませんでしたね。私は……」
「夕映君!」
「ひゃっ!? な、なんです高畑先生、急に」
和美に今の職業を言おうとした所に、急に動き出した高畑が声を掛けて来た。急に動き出した高畑にも驚いたがその剣幕にも結構驚いた。
「夕映君、教師を、やらないか?」
「…………はい?」
高畑が妙なテンションで勧誘してきたので、夕映は目を点にして聞き返す羽目になった。
ふぅ、まだまだプロローグ的な話ばかりです。
そして、安易に教師にしてしまいます。早くダブル夕映を実現するためならしょうがない。うん、しょうがない。
斬新なアイデアが出ない私を許してくだせぇ……